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少女の願い

31話 少女の願い



「なあ、お前に聞きたいことがあるんだが」


 俺がそう言うと、ルナは口の中の食べ物を飲み込み、答えた。


「はい。何でしょうか?」


 きょとんとした顔のルナに、質問を投げかける。


「お前は、レオパルドをどうしたい?」


 ルナの体が、固まった。


「俺は、レオパルドを殺したい。でも、それは所詮俺個人の欲望だ。あいつに奴隷にされていたのは、俺じゃない。俺は、お前があいつをどうしたいのかを聞いておきたい」


 ルナにとって、嫌な議題なのは分かっている。でも、これは必要な事だ。被害者が目の前にいるのに、俺の一存だけでレオパルドをどうこうするのは自分勝手すぎる。


「私は……私は、あの人を殺したいとは……思いません。」


 そう言いながらも、ルナの体は震えている。それは、抑えられないレオパルドへの怒りか、それとも、昔のトラウマ故か。俺には分からない。


「実は私は、あの人には殺したいと思うほどの事は、されてはいないんです」


(それは、どういうことだ?)


 喉まで出かかった声を、飲み込む。俺がそれを言う前に、ルナの方から先に口を開いた。


「私は、この前の闘技会って大会の優勝商品としてあの人に買われただけで、あの人の下にいたのは、ほんの2日ほどなんです」


「もちろん、私は奴隷ですから、その間まともな食事も、ましてや自由もありませんでした。でも、それまでの痛みや苦しみに比べれば、むしろいい暮らしだったんです。私は、大事な商品でしたから」


 買わ、れた?つまりは......


「ロイ様ならば、もう察しはついたかもしれませんね。この村には、奴隷を売る事を商売とする、奴隷市場が存在するんです」


 ……やっぱりか。前のオーガを奴隷にしていた貴族の家に忍び込んだ時にも、違和感はあった。あの家には勇者は一人しかいなかった。それなのに、あれだけの数のオーガを生け捕りにし、しかも隷従までさせている。確かにあのリアという女は強かったが、どれだけあの女が強くても、魔族の心まで隷従させるのは容易じゃない。あれは、先に隷従させられている状態で買われたからこそ、成り立っているものだったのだ。


「そこでは、私と同じように、亜人や魔族の人達が奴隷として飼われ、売られています。そこさえ潰してしまえば、人間達の奴隷文化そのものを破壊できると思うんです」


 震える手を握り、必死に声を出してくる。


「ですので、どうか......」


 ルナは今にも泣き出しそうだ。きっと、その市場で相当酷い目に遭わされ続けていたのだろう。きっと、そこへ行くだけでも、ルナにとっては怖いはずだ。


 俺はルナを静止し、ハンカチを渡した。


「もういい。最後まで言わなくても。奴隷市場、俺が必ず潰してみせよう」


 涙腺の上でギリギリ止まっていたルナの涙は、頬を伝って零れ落ちた。


「ありがとう......ございます。私も、足手まといにならないよう、頑張ります」



 こうして、一人の少女の、心を救うための戦いが始まった。

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