闘技会7
22話 闘技会7
準決勝の抽選結果は、以下のものとなった。
第一試合 ツバキ対シズク
第二試合 クレア対ノル
ノルという名の男は、五回戦ではシード枠だった奴だ。この男は前回大会で決勝まではいったが、そこでルカに敗れたらしい。簡単に、とはいかないだろうが、まあ負ける事はないだろう。恐らく、シズクもツバキに勝つのは不可能。決勝ではほぼ間違いなくツバキと当たることになるはずだ。
そして、第一試合は始まった。
その瞬間、シズクが一気に攻撃を仕掛けた。恐らくはこれまでのツバキの戦い方を見て、自分の攻撃が読まれ始める前に勝負を決めにいったのだろう。実際、レインとの試合の時は最初の方は攻撃が直撃、とはいかなくても体を掠めたり軽く接触するくらいは出来ていた。
だが、ツバキはそうなることまでも読んでいた。
攻撃を受けるために防御から入るのではなく、あえてのノーガードで攻撃を返す。
『んっ……!』
それに動揺しながらも攻撃の手を緩めないシズクと、それに応じるツバキ。お互いがお互いを攻撃する方向に剣を振り、その一振り一振り全てが相手の木刀とぶつかり合っていた。
だが、こうなってしまってはツバキの土俵だ。その無駄のない動きに少しずつ体力を削られ、遅れをとっていったシズクは、そのまま押し切られ敗北した。
レインとの試合の時は手を抜いていたのだろう。明らかにあの時よりスピードが速まっている。正直、今の試合の動きが本気だったのかさえ俺には分からない。
そしてあっけなく第一試合は終了し、第二試合。俺の試合が始まった。
今までの試合を見た感じでは、俺の対戦相手のノルという男は剣速は速いがルカ程ではない。一撃は重いがモーガン程ではない。と言った感じで、全てにおいての能力が普通よりは優れているが、一つを極めている者よりはその能力で劣る、どこかインパクトの欠ける奴だった。
だが、実際に剣を交えるとそのイメージは一変した。
確かに、剣速が速すぎて見えないわけでも、一撃が重すぎて受けれないわけでもない。だが、それゆえに弱点が見つけづらいのだ。大抵、一撃が重いやつは動きが遅かったり、剣速が速いやつは一撃が軽かったりする。しかし、この男にはそれがない。しっかり全ての攻撃がある程度重いし、ある程度速いのだ。
(これは、想像以上に厄介だな……)
俺は、一旦距離を取った。
ノルはそれを追うわけでもなく、自分もそれに合わせて剣を構え直す。
(さて、どうするか......)
……いや、待てよ。そうか。弱点がないなら、無理やり作れば良い。あいつのあのスタイルは、いつでも相手に合わせて初めて成り立つ。常に後手のあのスタイルが相手なら、俺は俺のスタイルを読まれなければいい。
俺は、剣を構え直し距離を詰めた。ノルもそれに応戦するため、攻撃を受ける準備する。ここで、俺はノルに向けて思いっきり木刀を投げ飛ばした。
「なっ!?!?」
わずか5メートルほどの距離を、真っ直ぐに飛んで行く木刀。やがてそれは、驚いたままのノルの額に直撃した。
この大会では、相手への攻撃手段はこの木刀しかない。つまり、これを失えば降参する以外になくなるのだ。その生命線を自ら投げ捨ててくるなんて、誰が予想出来ただろうか。特に、相手の動きを予測しながらでしか動けないこいつには、絶対に思いつかない発想だ。
「う、くっ……」
もろに顔面に木刀を喰らってしまったノルは、額から血を流している。ギリギリ意識はあったが足元がふらついていて、とても試合が続けられる状態ではなかった。
俺は木刀を拾ってノルの胴を軽く押し、そのままリングの外へと突き飛ばした。
「あっ……」
抵抗する力の残っていないノルは、されるがままにリングの外へ落ち、俺は勝利した。これで、残りの試合は一試合。ツバキとの決勝を残すのみとなった。




