潜入
2話 潜入
異世界勇者を皆殺しにする。
そのためには、まず勇者を召喚し続ける魔術師どもを殺しに行かなければならない。だが人間たちの住む村の、しかも城にいるそいつらにこのままの姿で会うのは困難だろう。なのでまずは俺の魔力「擬態」を使う。
効果はいたってシンプル。今までに自分の触れたことのある者に化けられるという能力だ。これを使って勇者に化ければ、侵入は造作もないことだろう。早く魔術師どもを皆殺しにして、魔族の犠牲を減らさなければ。
そして予想通り、簡単に城へは侵入できた。やはり、人間族の中で勇者への信頼はかなりのものらしい。だが、ここで一つ問題が発生する。魔術師たちが召喚を行なっている部屋に入れるのは、王族とその魔術師たちだけだと言うのだ。
これは実に困った。もちろん俺は王族や魔術師になんて会ったことなどないので、擬態が出来ない。俺の擬態は遠目から視界に入れたとかでは成功しない。あくまで至近距離で見て、触れなければ効果は働かないため、そんな万能な能力ではないのだ。
城付近に居た勇者に「王族や魔術師に会える機会はないのか」と聞いてみたが、誰も一度も会ったことがないどころか、ましてや見たことすらないらしい。だが、それはおかしな話だ。こいつら勇者は魔術師から召喚されているのだから、その姿を見たことがないなんてことは、あり得ないのだ。
そもそも、何故こいつらは平気で魔術師たちに従っている?顔も見たことのないような奴に従う義理なんて、こいつらにはないはずだ。
さっきから、分からない部分があまりにも多すぎる。もういっそ強行突破してしまいたいが、魔術師達がどれくらいの強さか、何人いるのか、どれくらいの頻度で勇者を召喚できるのかも分からないのだから、あまりにも無謀すぎる。
仕方なく俺は城の外に出てベンチへと腰掛けた。ここに来たのは朝だというのに、気づけばもう時間は昼を少し回っていた。これ以上探りを入れ続けて目をつけられてはたまったものではないし、こうなってくるとあまり自由には動けない。
と、そんな事を考えていると、急に正面から一人の男が声をかけてきた。反射的に武器を抜きそうになるのをギリギリで押し止め、その男の言葉に耳を傾ける。
「おうあんちゃん!見ねえ顔だが、さては召喚されたての新米勇者かい?俺はレイン。よろしくな!」
聞いたところ、コイツはただの農家らしい。だが、日頃からよく力仕事をしているからだろう。その体は筋肉質で、そこら辺にいる勇者共よりよほど強そうに見える。
(こいつと友好関係を築いておけば、いずれ何か情報が手に入る……か?)
そう思い、仕方なく俺はレインとそれとなく会話を交わし、10分ほどで俺から別れを切り出してその場を後にした。
その後もできる範囲で探りは入れてみたものの、結局今日は何の収穫を得ることも出来なかった。気づけば日は落ちかけていたので、俺は大人しく村の宿へと足を運んだ。
◇◆◇◆
「さて、どうするか……」
ベッドの上に寝転がりながら、ゆっくりと頭を回す。恐らくこの調子では、いきなり魔術師を殺しに行くのは無理だ。それ以外で、手っ取り早く勇者共を殺していける方法は……
そして、俺はやがて一つの結論にたどり着く。
「今いる勇者を殺し続け、圧倒的な力の差を見せつければ、人間が魔族に逆らうことをやめるのではないか」と。
仮にそれで人間たちがヤケになり更なる召喚を続けたとしても、そいつらも全員殺していけばいい。どれだけ召喚しても勝てないのであれば、やがては諦めるはずだ。この方法なら潜入だ何だと頭を使う必要も無くなるし、こちらの方が俺は得意だ。幸いにも俺の能力は、騙し討ちや不意打ちに適している。
さらに、一人で乗り込み大量の勇者を相手にするのは厳しいが、少数相手なら、多少一人一人が強くても問題はない。少なくとも、得体の知れない魔術師達を相手にするよりはいいはずだ。
明日からは、村を出て魔族を狩りに行っている勇者を殺していこう。そう決意し、俺は明日に備えてそのまま眠りについた。