闘技会1
16話 闘技会1
朝、ベッドの上で目覚め外に出ると、村中に一つの放送が流れた。
『第二回闘技会のお知らせです。参加希望の方々は役所までお越し下さい』
闘技会?聞いたことのない単語だが、要するに腕試し大会って事か?第二回って事は俺がこの村に来る前に第一回が開催されていたのか。まあどうせ参加しないから関係ないが。
『今回の優勝者には、第一回の優勝商品に加え、主催者のレオパルド様より亜人の女奴隷が贈られます!』
「なっ……!?」
亜人の、奴隷だと……!?あのオーガたちとは別に、まだ奴隷にされているやつがいたのか……
この世界では、亜人という言葉は一般的に人型の魔族に使われる呼び名だ。有名なものだと獣人族や淫魔などが含まれる。要するに、俺達魔族と同じなのだ。いくら姿が人間に近くとも、その本質は魔族、人間の村で過ごしたりはしていない。おそらくは、あのオーガ達と同じように拉致されて奴隷にされたのだろう。
「これは、放ってはおけないな」
近くにある窓から、外を眺める。すると、何十人もの勇者達が談笑しながら、同じ方向を向いて歩いて行くのが見えた。どうもあの様子だと、ほぼ全ての勇者が参加しに行っているように見える。勇者がいないなら、森に出る必要もない。
俺もその闘技会とやらに参加して、亜人を救わなければ。
思い立ってからはすぐに足が動いて、気づけば受付をするために役所へと向かっていた。
◇◆◇◆
既に役所の周りでは人溜りが出来ており、そのほとんどが勇者達の姿だった。きっとその中から一番強い者を決めるとか、そういった類の大会なのだろう。
やはり人が多く、勇者達だけではなく力に自信のある一般人も参加している感じだったため、時間が掛かった。何とか受付をする事に成功する頃には、体感で10分ほどは経過していた気がする。
俺はかなり最後の方で、72番目の受付。この感じだと、恐らく参加人数は100人程だろう。この中の8割以上は勇者だった為、この先少なくともこのくらいの人数を殺して回らなければならないと思うと、少々気が重くなる。だがまあ、とりあえずは目の前の目標に集中だ。
参加希望者全員の受付が終わり、役所の近くの建物の中で始まった開会式は、主催者の挨拶から始まった。俺たちの前に出てきたそいつは、いかにも金持ち、といった感じの見た目。指輪やネックレスなどがじゃらじゃらしていて、この前の貴族を思い出して不快になった。まあ奴隷を持っている人間な時点でそんな気はしていたが。
「皆のもの、今日は集まってくれてありがとう。私はこの大会の主催者である、レオパルドだ。今日は皆の熱い試合が見られる事を期待している。ぜひ優勝を目指して頑張ってくれ」
周りの者達が歓声で熱狂する中、主催者の付き人のようなもの達が、優勝商品をステージの上に並べていった。テーブルの上には金が入っていそうなでかい袋、そしてその横には真っ黒な布を被せられた檻のような形をした物が並べられた。
「優勝したものには、前回同様金貨3000枚、そして今回の目玉である、この亜人奴隷を贈呈する!」
そう言ってレオパルドは、商品に被せられていた布を一気に引っ張った。
「っっ……!!」
中には想像通り檻があり、その中には手錠と首輪をされた女の亜人が一人、入れられていた。
耳と尻尾が生えていたため、獣人族だろう。歳は俺と変わらないくらいか。白く長い髪をしていて、とても整った容姿をしていたが、左腕に少し傷があった。着ている服は局部を隠せるか隠せないかギリギリのぼろ臭い物で、その細身な身体は、怯えで震えていた。
耳と尻尾が生えているというだけでそれ以外のところはほとんど人間と変わらない容姿のため、その裸同然の姿を見た男達は、さらに湧き上がった。
(くそ……)
すぐに助け出したかったが、これだけの実力者が集まっている中であいつを連れながら逃げ切るのは不可能だろう。大人しく、この大会で優勝するしかない。
(すまない……もう少しだけ、耐えてくれ……)
周りが歓喜し沸き立っている中で、ただ一人。俺だけが静かに、怒りでその拳を強く握っていた。