少年
15話 少年
目を瞑れば、いつでもあの光景が浮かんでくる。
俺の故郷は焼かれ、悲鳴が至るところから聞こえてくる。周りでは昨日まで一緒に会話したり遊んでいた友達が追い回され、逃げきれなかったもの達は人間の形をした悪魔達に首を跳ねられる。
俺は当時、父、母、一つ上の姉、二つ下の弟と一緒に暮らしていた。
決して裕福な家庭では無かったものの、毎日笑顔が絶えず幸せだった。そして俺はそんな毎日が、いつまでも続いていくのが当たり前だと思っていた。だが、奴らはたった一夜で、その全てを俺から奪い去った。
俺たち3人の子供を守ろうとした両親は、大剣使いに体を真っ二つにされて死んだ。姉と弟は、弓で頭を撃ち抜かれて死んだ。目の前で殺されていく家族を背に、無力な俺はただ一人逃げ続ける事しか出来なかった。そして家族の中で唯一生き残れた俺は森に入り、木の上でその夜を越えた。
村からはその後も火が上がり、悲鳴が聞こえてくる。そして、それを聞きながら顔に笑みを浮かべ、まるで鬼ごっこをしている子供のようにみんなを殺した奴らの顔が視界に入った。あの気持ちが悪い笑みは、一生頭から離れる事はないだろう。
そして日が昇り、朝が来る頃には悪魔達は村から撤退していた。
もちろん一晩中眠れるはずもなくただ村が壊滅していく光景を眺めていた俺は、疲労感と恐怖心で衰弱しきっていたが、何とか木を下りて村へ戻った。すると、そこには地獄が広がっていた。
全ての家は崩れ落ち、焼け落ちている。どれだけ生き残りを探して声をあげても、返事が返ってくる事はなかった。そんな俺の視界に入ってくるのは、さっきまで生きていた者たちの死体だけ。首を切断された者、体を二つに両断された者、切り刻まれ肉塊と化してしまった者、それぞれ死に方は様々だったが、全てに共通していたのは、「表情」だった。
全ての死体が、恐怖に怯えきった表情をして死んでいた。
『どうして一人で逃げたの?』
『お前のせいで皆死んだ』
まだ子供の俺に、死体たちが語りかけてくる。
そんなはずはない。そう頭で分かってはいても、俺はその場に留まり続けることは出来なかった。今すぐに、ここから逃げ出したい。
そして当時の俺が選んだ道は、ただひたすらの逃走だった。
森へ戻り、何だか分からない感情に押しつぶされ続け、何回も嘔吐した。やがて胃の中が空っぽになったが、それでも吐き気は治らず、胃液だけになった嘔吐物を吐き続けても、気分が晴れる事は無かった。
その後は、ただ苦痛な「生きる」という一本道が続いた。ただ死なないために食べ、死なないために飲み、死なないために生きた。あの日あの場所から逃げた俺だが、生きると言う事からは逃げられなかった。
きっと、俺の擬態はそんな俺への戒めとして与えられた力だ。いつ発生したかは正直よく覚えていない。だが、きっとこの力は俺そのものだ。この力は、誰か他の人から力を借りることしか出来ない。醜く生にしがみつき、他人を使ってまで生き残った俺にはお似合いの能力だ。
そして俺は18になった今でも、この過去から抜け出せないでいる。正直、今俺が行なっている事が、本当に皆の望みなのか、そもそも、俺がこんな風に生きながらえていて本当にいいのか。そんな事を考えながらも、俺は生き続けている。
どれだけ勇者共を殺しても、家族は、仲間達は帰ってこない。
どれだけあの夜の事を悔いても、あの夜には戻れない。
どれだけ懺悔しても、皆を見捨てて一人生き残った業からは離れられない。
これからの俺の人生に、意味があるのかなんて分からない。だが、それでも俺は生き続ける。例え逃避だと言われても構わない。俺はこの復讐劇の中で、自分が存在し続ける理由を、し続けていい理由を探していきたい。