弓兵1
12話 弓兵1
森に行くと、一人で魔物を狩っている女を発見した。背中に矢を入れた籠を背負い、弓で遠距離からウルフ達を撃ち抜いていた。鎧などは身につけていなかったが、恐らくそれは移動をしやすいようにするためだろう。本来弓兵が近接戦闘をすることはない。そのためこの様な軽装備がメジャーなのだろう。だが、それはこちらにとってはかなり好都合だ。まだあいつはこちらには気づいていない。後ろから一瞬で仕留めて、二度とその弓を持てないようにしてやる。
俺は音を立てぬよう30メートルほど離れた背後から小型ナイフを2本、その女の両肩に目掛けて投げ飛ばした。
まるで女の肩と糸で繋がっているのではないかと思うほどに一直線に飛んでいったナイフは、女の肩を容易く貫通……するはずだったのだが。
女の肩にナイフが触れる直前、瞬時に反応した女は、自分の腰に手をかけ、そこに装備していた短剣で2本のナイフを弾き飛ばした。
どうやら相手の実力を見誤ったらしい。あれはただの弓兵の出来る芸当ではない。おそらく、かなりの実力者だ。
「何者だ?私に一人で向かってくるとは、いい度胸じゃないか」
この前戦った女も相当強かったが、この女はもっとやばい。直感でそう感じる。その細身な体から発せられるプレッシャーは、あの女以上だ。
女は弓の入った籠と弓を地面に起き、一本の短剣を前に構えながら言った。
「お前、魔族か。のこのこと一人で来やがって。弓兵相手なら余裕だとでも思ったか?大人しく日の当たらないところで、ナメクジのように暮らしてればいいものを」
……何だこいつは?
俺達がそうして人間に接しないよう生きているのは、お前達勇者のせいなんだぞ?お前らが来るまでは、お互い不干渉で生きて来たんだ。そもそも普通の人間には俺たちに勝つ力などないし、俺たちがこんな目に遭うことも、ましてや戦う必要も、そいして殺される必要も、無かったんだ。
それなのにお前は、よくもそんな事を言えたな。今も俺たちの自由を、命を奪い続けている元凶のお前達が、よくも……
体の底から、みるみると力が湧いてくる。全身の筋肉が強張り、血管が激しく浮かび上がる。全てはこの女を殺す、ただその一点の目標のために。
この前の女はすぐに殺してしまったが、今回は違う。時間も場所も、いくらでも用意できる。
やはりこいつらに、生きている価値などない。一人一人確実に殺して、必ず絶滅させる。勿論それは、この女も例外ではない。必ずここで捕らえ、とことん苦しめてから殺してやる。