プロローグ、1話
プロローグ
俺は、勇者が嫌いだ。あいつらは、俺達魔族を悪だと決めつけてすぐに殺す。俺達が今までどんな事をし、どんな生活をしてきたかなんて関係ない。そこに一切の躊躇や戸惑いはなく、ただ本能のままに今も俺の仲間を殺し続けている。
昔、俺の家族も殺された。村は焼かれ、悲鳴と火が上がり続けた。やがて村は壊滅したが、俺一人だけは醜くも生き残った。だから、今ここにある俺の命は俺だけの物じゃない。あの日殺された家族、友達、村の皆、そして、今もなお殺され続けている魔族達。俺はそいつらの味わった痛み、苦しみ、恐怖を代弁して勇者達に伝えてやらなければならない。
だから、俺はあいつらをただ殺すだけでは終わらない。そんな簡単に、自分のしてきた事から逃がれさせはしない。これから行うのは、復讐であり処刑だ。全ての勇者を出来るだけ残虐に殺していく。
それが俺が生き残った意味であり、使命だと、俺は信じている。
第1話 通り魔
この世界には主に二つの種族が存在する。
人間と、魔族だ。
ここで皆さんに問いたい。やはり、この二つの種族の名前を聞いた後にどちらが悪かと聞かれれば、魔族と答えるのだろうか?
おそらく、ほとんどの世界ではそれで正解なのだろう。だが、俺の世界では違う。いや、人間族の者たちはきっとそうは思ってはいないか。俺たち魔族が悪、自分達が正義であると、きっとそう教えられ生きてきたはずだ。
だが、現実はとてもそうとは思えない。
事実、俺たち魔族は悪いことなど何一つしていない。当然人間達を襲うような事はないし、そもそも関わることすらほとんどない。俺たちは俺たちの輪の中で普通に生活し、普通に家族を作り、普通に死んでいく。本当はそのはずだったのだ。あの憎たらしき勇者共さえいなければ。
本来なら、ただの人間に魔族を殺せるような力はない。もともと魔族と人間族は、仲良くはしていなくとも、敵対するほど仲が悪かったわけでもなかったのだ。お互いに不干渉で、争いが起こったりすることも無かった。
だが、勇者達が召喚され始めてからは全てが変わった。
一つ例え話をしよう。よくあるRPGなどでスライムと出会う。そうなればほとんどのゲームではスライムとの戦闘が始まる。まず、ここがこいつらのおかしいところだ。よく考えて見てほしい。
「スライムが襲ってきた」
このように表示されていたら、戦闘が始まるのも分かる。
自分が襲われているのだから、応戦するのはやむを得ない。だがほとんどのゲームでは、襲ってきたとは表示されなくとも戦闘は発生する。
「スライムがあらわれた」
これだけでも、奴らからすれば戦闘をする理由には十分らしい。何故だ?このスライムは、ただ目の前にあらわれただけだ。何故そんな事で戦闘が始まる?そのまま通り過ぎればいいではないか。そちらから攻撃されれば、スライムが応戦するのは当然だろう。
それなのに奴らは「自分を襲ってきたスライムを返り討ちにした」などと、さも自分が被害者であるかのように振る舞うのだ。
自分が攻撃しなければ、スライムは攻撃することはなかったのに。したくもない戦闘を強要され、死ぬ必要もなかったのに。
さて、お分かり頂けただろうか。勇者の身勝手さが。卑怯さが。残虐さが。
こいつらが魔物を殺す行為は、何も悪いことをしていない学校帰りの子供を襲う通り魔と本質が変わらない。被害者の子供は何も悪くないのに、通り魔のその身勝手な行動ひとつで、簡単に命を奪われてしまう。
そして今、この瞬間も人間の魔術師達は、異世界からそんな悪魔達を呼び出し続けている。
自分達が魔族より強い力を手に入れたと分かった瞬間、人間達はすぐにその力の欲望に屈した。簡単に俺達を殺してくれる暴力装置を手に入れられて、さぞかし愉快だろうな。
だから、もしかしたらこの勇者たちは、洗脳されて俺達を殺しているだけかもしれない。偽りの価値観を魔術師に植え付けられ、それに従っているだけの可能性も十分にある。
だが、それを言い訳に見逃すなど、到底出来るはずもない。俺の仲間たちは、今この瞬間もそいつらの手によって直接殺され続けているのだ。
なら、もう何も考える必要はない。俺は、俺のなすべき事をするまでだ。
異世界からやってきて、俺の仲間を殺し続ける悪魔共。お前らは全員、
俺が処刑する。