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  作者: ひじきとコロッケ
王都レクサムにて
7/55

それぞれの思いと初めての魔法

「畜生!なんだってんだよ!」

「落ち着けよ」


 ガンッと蹴り上げられた椅子が壁に当たり、バラバラになる。高そうな装飾の椅子もそうだが、壁も今ので穴が空いてしまった。怒られやしないかと、鈴木裕樹は稲垣健太を(なだ)めようとするが、収まる様子が無い。


「なんでまだレベルが上がってないんだよ!」

「そんなこと言ってもさ」


 稲垣健太

 剣聖 レベル1 (192/1000)

 HP 173/173

 MP 56/56

 STR  16

 INT  5

 AGI  14

 DEX  12

 VIT  8

 LUC  5


 スキル

 言語理解(大陸)

 剣術

 獲得経験値増加


 鈴木裕樹

 賢者 レベル1 (51/1000)

 HP 108/108

 MP 187/187

 STR  8

 INT  20

 AGI  8

 DEX  13

 VIT  4

 LUC  7


 スキル

 言語理解(大陸)

 四属性魔法適正


「俺、経験値増加があるんだぞ?!」

「そうは言ってもさ……狩ったのゴブリンばっかりだったし」

「だからよお、もっと奥へ行こうって言ったじゃ無いか」


 このやりとり、何度目だ?


「もう一度だけ言うぞ。今日はダンジョンがどういう物かを体験するだけだって言われてただろ?スキルだって馴染んでないし、魔法についても教わらないと俺たちみたいな魔法職はほとんど何も出来ないし」

「そりゃそうだけどよお。レベルガンガン上げたいじゃん?」

「気持ちはわかるが、落ち着け」


 稲垣の獲得経験値増加はかなり特殊なスキルである。

 通常、戦闘により魔物を倒したときに入る経験値は、戦ったメンバーに分配される。例えば、経験値五のゴブリンを五人が平等にダメージを与えて倒した場合、それぞれに経験値が一ずつ入る。だが、稲垣のスキルは他の四人の経験値はそのままで、自身の得る経験値を五にすることが出来るというスキルである。さらに一日に一度、一時間だけ獲得経験値を二倍にすることも出来る。完全にチートスキルだが、ゴブリン・スケルトン・大コウモリではその真価は今ひとつ。期待していた分、不満が募るのも無理は無い。


「じゃ、明日からは」

「明日は午前中は座学、午後からは教練場で訓練だろ」

「うがあああ!」


 いい加減にしてくれとうんざりし始めたとき、ドアをノックする音がした。誰だか知らないが、少しはこの苦労を分けてやろうと、ドアを開けると見知った顔――と言っても、元の世界での顔は覚えていない――が二人、うんざりした顔で立っていた。


 塚本幸子

 槍聖 レベル1 (87/1000)

 HP 172/172

 MP 92/92

 STR  16

 INT  7

 AGI  12

 DEX  13

 VIT  7

 LUC  5


 スキル

 言語理解(大陸)

 槍術


 米山秋子

 聖者 レベル1 (31/1000)

 HP 112/112

 MP 136/136

 STR  6

 INT  19

 AGI  7

 DEX  14

 VIT  6

 LUC  8


 スキル

 言語理解(大陸)

 聖属性魔法適正



 どちらも元の世界では平凡な容姿であったが、こちらに来てから別人である。塚本は黒髪ショートで長身スレンダーの、女性からの人気の方が集まるんじゃ無いかという端整な顔立ちに。米山は腰まであるストレートな金髪に童顔というよりアニメチックな顔立ちとモデル顔負けのスタイル。こんな二人が夜更けに部屋を訪れるなど、元の世界では想像もしなかったことだが、色気のある用事でないのはその表情が物語っている。


「さっきからドンドンドンドンうるさいんだけど」

「スマン……稲垣があの調子でな」


 ハア……と、ため息をつきながら塚本が部屋に入ると、「お前らもそう思わねえ?」と同意を求めてくる稲垣にいきなりアイアンクローを決めてからの、腹パン一発。


「うぐぉ」

「少しは静かにして。わかった?」


 体をくの字にして悶絶(もんぜつ)しながらもうなずいているようなのでとりあえず溜飲(りゅういん)を下げ、部屋を出ようとしたところで振り返る。


「一応言っておくけど」

「ん?」

「この状況を受け入れられてない子も大勢いるの。その辺、もうちょっと配慮してあげて」

「俺が?」

「誰が、あれ(・・)の手綱を握るのよ……他にいないでしょ?」

「それはそうだが……」

「期待してるわ。一応クラス委員なんだし」

「もう関係ないだろ」


 全く面倒くせえと思っていたら、今まで黙っていた米山が口を開く。


「で、でもね……こんなこと頼めるの、鈴木くんしか思いつかなくて。こういうときにみんなをまとめられるのも鈴木くんだけだと思うし」


 頬に人差し指を添えてやや上目遣い&前屈み。隙間からチラチラ見える……ようで見えないあたりがあざとい。あざといのだが、男子高校生にとってはこれ以上無い眼福とも言える。


「が……頑張るよ」


 チョロい。内心舌を出しながら二人は出ていく。


「はあ……面倒くせえ」


 鈴木は部屋の中で悶絶している稲垣を見ながら、なんでこんな面倒くさい部屋割りになったのかと軽く毒づく。


 そもそも元の世界で稲垣と鈴木は同じクラスという以上の接点が無かった。勉強も出来、教師の覚えも良い鈴木に対し、どうやってこの高校に合格したのかと疑問になるレベルの落ちこぼれに属する稲垣。スポーツ推薦という社会の闇は深い、とあまり関わりを持たないようにしていたのだが、こっちに来て稲垣が剣聖、鈴木が賢者とわかったとき、他の勇者候補達が意図的に稲垣の面倒を押しつけたのだ。


「早めに何とかしないと、遅かれ早かれデカい問題になるな」


 うまいこと稲垣をコントロールする方法を考える必要があるなと思いながら、ベッドに潜り込んだ。まずは明日、魔法についていろいろと知ってからだな。




「はあ……」

「ため息をつくな、鬱陶しい」

「でもよ」

「いいたいことはわかるけど、黙ってろ」

「……レベルが上がれば強くなるらしいけど、このペースだといつレベルが上がるんだ?」

「だから言うなと言っただろ!」




「もうイヤだ」

「……そうだね」

「こんなの……何なの?!」

「……そうだね」

「いきなりわけわかんないところに連れてこられてさ、魔王と戦えとか言われても意味わかんない!」

「……そうだね」

「おまけになんかモンスターと戦うとか、マジキモい」

「……そうだね」

「『そうだね』以外言えないの?!」

「……そうだね」




「……はあ」

「帰りたい」

「お母さん、心配してるだろうな……」

「でも、こんな姿で帰ったら……」

「……でもやっぱり帰りたい」




「はい、髪乾いたよミキくん」

「ありがと。茜は?」

「私はもう乾いたから大丈夫よ」

「そっか。じゃあ寝るか」

「ちょっと待って」

「何?」

「ミキくんに確認なんですけど」

「な、なんでしょうか?」

「トイレは?」

「え?」

「ダンジョンから戻ってきてから、トイレ行ってないよね?」

「い、行ったよ。ちゃんと行ったって」

「嘘。ずっと一緒にいたじゃない」

「いや、ホントだってば」

「ミキくん、もしかして……」

「え?」

「まさかと思うけど、面倒くさいからってお風呂で……」

「してない、してないって!」



 それぞれの思いを余所(よそ)に、夜は更けていった。




 翌日。三日目ともなると、朝食のひどさも諦めが付いて気にならなくなってきて、さっさと味のしないスープで流し込むと講堂へ。

 何となく前回と同じ席に座ると、王宮魔道士のペインによる魔法についての講義が開始された。


 魔法とは体内の魔力を使っていろいろな事象を引き起こす技術である。

 基本的に魔法は、素質が無ければ使えないが、ある程度簡単な魔法――ティアの使った『乾燥』のような生活魔法と呼ばれるもの――は、素質に関係なく使えることがある。そうした生活魔法が使える者は、貴族や商会など、資金力のある人物に召しかかえられ、その能力を発揮することが求められるような人生を送るという。ある意味勝ち組だ。

 一方、火矢を撃ったり、風で切り裂いたりと言った所謂(いわゆる)魔法は、そもそも素質のある者自体が一%前後と少なく、素質がある=冒険者、または王宮魔道士の道を歩むことが大半だという。

 そして召喚された百四十二名の内、魔法の素質があったのは十三名。召喚された者の場合、素質があるのは十%前後になるのでやや少ないが、これもしばらくすると発現する可能性もあるので、今後のためにも全員に教育する方針とのこと。

 この時点で数名、残念そうにため息をついた。異世界転移で魔法チートに夢見ていた者達だろう。


 俺の狐火は魔法に分類されているのだろうか?


 一応『狐火魔法(・・)』と書かれているし、どう見ても出来ることが魔法っぽいんだが。


「では、基本的な魔法の使い方について説明する」


 そう言って、生活魔法の一つ、水生成をやってみせる。


 魔法を使うにはいろいろな手順を踏むが、基本的には三つの手順で発動する。

 まず、呪文を詠唱し、魔法の効果を引き起こす場所に自らの魔力で魔法陣を作り出す。この魔法陣は基本的に術者にしか見えない。かなり大規模な魔法だと他者からも見えることがあると言うが、そこまでの魔法となると詠唱が数時間に及ぶこともある、まさに大魔法だ。

 次に、作り出した魔法陣に魔力を注ぎ込む。この注ぎ込んだ魔力の量が効果に直結するが、詠唱した呪文によって、上限が決まるため、生活魔法の水生成ではどんなに頑張ってもバケツ一杯程度の水しか作れない。

 最後に、キーワードを唱えて魔法陣に発動の合図を送ると、魔法が発動する。

 なお、熟練すると呪文の詠唱を早くできるようになるが、無詠唱とか詠唱省略なんてのは賢者が経験を重ねて到達する、大賢者でも無ければ()し得ないという。


 結論。俺の狐火、魔法じゃないっぽい。


 呪文の詠唱とかしてないモンな。最初こそ「狐火!」と言ってみたが、その後は使う、と決めただけで狐火が出る。うん、魔法っぽい何かだ。何かはわからないが。


 その程度の説明を終える頃には昼になり、講義は終了。この座学、いつまでやるんだろう?と疑問に思う者は多いが口には出さず、各自講堂を出て、昼食へ。午後からは教練場を自由に使って良いというので何となく……することもないので、ほとんどの者が教練場に来ていた。

 ただ、魔法の素質のある者達は、実際に魔法を使う訓練ということで一箇所に集められている。興味はあるが、近寄りがたい雰囲気で、何となく遠目に見る程度の者ばかりだ。


「私、少し弓の練習したいんだけど、いいかな?」

「いいよ」


 茜に付き合って、射撃訓練場の隅っこに。練習用の矢を使い、結構真剣に矢を射る茜をぼけーっと見ていたのだが……気になるから試してみるかと思い立ち、茜の隣に立つ。


「ミキくん?」

「狐火で遠距離攻撃が出来るみたいだから試しておこうと思って」

「ふーん」


 的までの距離は十メートルほどで、それほど遠くは無い。ダンジョン内での戦闘となると、それほど距離が開くこともない。使えそうなら使うという程度でいいだろう。

 的を見つめ……何となく雰囲気を出すために右の手のひらを向ける。


「狐火の矢!」


 声と同時に、幹隆の周りを漂っていた狐火が二つ螺旋(らせん)状に絡まり合うと、一筋の光となって的に向かって撃ち出された。


「おお!」

「おお!」


 二人が揃って矢の飛んだ先、的の方を見つめ……ようとした。


「……って、何これ……」


 見た目は、二つの狐火が合体して炎の矢のような形になっているのだが、問題はその速度。へろへろゆるゆると進んでおり……


「歩くより少し早い程度?」

「……これで落下しないというのは、ある意味ファンタジーだな」


 スタスタと近づき、指でツンツンしてみるが、熱いとかそう言うのも無い。

 やがてへろへろと進む矢も的に到達。ペチッと当たって消えた。


「すこし焦げた?」

「見た目じゃ全然わからないわね」


 改めて説明を確認する。


 狐火の矢 狐火二個消費

 熟練度 0

 狐火二つを一つにまとめて魔力の矢として撃ち出す。

 熟練度が上昇することで、威力が向上する。


「熟練度とか言うのが上昇するのに期待する……だけ無駄かな」


 今ので熟練度が1になってないと言うことは、小数点以下の扱いがあるのか、魔物などに当てなければ上昇しないのか。だが、今のヤツを戦いながら魔物に当てるとか無理ゲー過ぎる。


「方針が決まったな」

「方針?」

「ああ。俺の育成方針は……レベルを上げて物理で殴る、だ」

「何それ」


 ある意味、日本のゲームの真理だ。


「クスッ」


 思わぬ所から声が聞こえて振り向く。


「あ、ゴメン。つい聞こえちゃって」


「えっと……誰?」

「あ、私……ま……松本……です」

「わ、私は川合茜、こっちがミキくん……じゃなくて」

「村田。一年の時一緒のクラスだったよな?」


 ありふれた姓だが、学年には一人しかおらず、幹隆も茜もすぐに気付き、その容姿にどうしたものかと悩みながらも答えた。


「ま、聞かれて困ることは話してないし、こう言う状況だから気楽に話しかけてくれて構わないよ」

「うん、でもほら、立ち聞きって失礼かなって」

「そんなこと無いよ。ミキくんの話なんて八割……ううん、七割くらいはくっだらない話だから」

「酷くない?」

「クスッ……でも名前で呼び合うなんて仲がいいのね。あ、もしかして実は彼氏彼女の関係だったとか?」

「え……」

「ないない。全っ然無いから。皆に話すとうるさいから黙ってたけど、ミキくんは従兄弟なの。それだけよ」

「そうなんだ」


 松本が二人を見比べ、つかつかと幹隆へ近づき……ヒョイと抱き上げる。


「ふえっ?」

「高い、高ーい」

「わわわっ」


 現在の松本の身長は二メートル近い。持ち上げられると幹隆の視線は三メートルほどになるので、なかなかに見晴らしがいい。


「川合さん」

「何?」

「村田くん、すっごく可愛くなったね」

「そうね」

「もらっていい?」

「それはさすがに本人に聞いて欲しいけど」

「じゃ、もらっちゃう」

「俺の意思は?!」

「ダメ?」

「ダメです……ってか、俺はモノじゃありません」

「こんなに可愛いのに」

「マスコットでも無いです」

「ちぇ……村田くんとならゲームのお話しできるかなって思ったのに」

「ゲーム?」

「レベルを上げて~物理で殴る♪」


 人差し指をくるくる。


「ああ」


 有名なクソゲーだ。


「あ、邪魔しちゃってゴメンね、私、もう行くから」

「あ、うん……」


 二人で射撃練習場から出て行くのを見送る。


「……なんて言えばいいかわからなかった」

「私も」


 松本友梨香

 ケンタウロス・戦士 レベル1 (61/1000)

 HP 181/181

 MP 56/56

 STR  13

 INT  8

 AGI  12

 DEX  13

 VIT  7

 LUC  7


 スキル

 言語理解(大陸)

 戦士の心得


 元の世界での松本は、お淑やかで笑顔が魅力的な、所謂お嬢様タイプ。別に家が金持ちとか言うことは無い。そして、クラスの男子に聞く好きなタイプの女子アンケートで、五位以内にはいつもいる、そんな少女であった。

 今は……筋骨隆々で見上げるほどの背丈のケンタウロス。背負った巨大な弓と矢筒が実によく似合う。ついでに言うと、男になっていて、顔がジェ○ソン・ステイサムっぽい。長髪だけど。そして、台詞と仕草は女性っぽいのに声が山路○弘である。顔と声はベストマッチだが、台詞と仕草のギャップがおそろしく開いている。


「部屋に戻ろうか」

「うん」


 片付けて戻ろうとしたとき、外からドン!という爆音が聞こえた。


「何だ?」

「外から……?」


 中にいた生徒達が恐る恐る外へ出て行くと……教練場の五分の一ほどがえぐり取られて煙が上がっていた。


「何だあれ?」

「攻撃?魔族が攻撃してきたの?」

「まさか」


 異常事態に不安を感じ、それぞれに勝手なことを言い出す中、騎士達は冷静に動いていた。


「心配は無い、賢者の才能を持つ者が試しに使ってみた魔法が思いのほか威力があったと言うだけだ!」

「なんだ」「そうか」「すげーな」

「建物に少しヒビが入っている。崩れる可能性があるから全員外に出ろ!しばらくは立ち入り禁止とする!」


 追い立てられるように教練場を出てしまったが、怪我人とか出なかったのか、心配事は尽きないままであった。

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