砂漠超えの準備
「なるほど、勇者召喚と……生贄……ですか」
「はい」
「さすがに、エドガーでしたか、その魔術師についての記録は残っていないと思います」
「状況的に記録を抹消しているでしょうねぇ」
「そして、今回の召喚ですが」
「はい」
「儀式を行う数日前から城内の一部区画が立ち入り禁止にすると、通達が出ていました」
「へ?」
「通達?」
「その区画で壁が老朽化して崩れたため修理すると。その間は危険だから近寄らないように、と言うことでしたが……召喚を行った地下室までのルートを全て封鎖していたとも言えますね」
「人数が多いから通路ごと隠す必要があったというのが、自然な解釈かな」
「秘密を知る者は出来るだけ少なくする、と……」
「そうでしょうね」
「前回の勇者の時には?」
「うーん……その時は私もまだ働き始めたばかりでしたので、あまりよく覚えていませんが、そう言うことは無かったと思います」
「でもよお……そのエドガーって奴の予想じゃ二百人近くの人間だろ?どこから連れてきたんだ?」
「それな」
中山の指摘にティアがフム、と考え込む。
「バタバタしてあまり情報が集められていないのですが、大半が奴隷でしょう。あとは……罪人……政治的に対立している派閥の貴族の関係者とか」
「うわ」
「えげつねえ」
「はっきり確認出来ていないのですが、数名の貴族を見かけなくなっていましたから、確度は高いかと」
罪人なら何をしても良いとは言い難いがあの国の法律なら文句をつけるのは筋違いだろう。だが、ただ単に政治的に対立しているだけで生贄にされてはたまった物ではない。
「村田君、前回召喚された勇者候補を見つけたとしても、そのあとどうするんだい?」
「いきなり俺に振られても……」
「だって、君が一番強いじゃないか。ぶっちゃけ世界一なんじゃないの?って位に」
「それは認めるけど……」
認めるのかい!と全員が突っ込みを入れる中、塚本が続ける。
「正直なところ、君なら王国の騎士団全員くらい、簡単にぶっ飛ばせると思うんだよね」
うんうん、と幹隆以外の全員がうなずく。
「アレだ、王国の所業を世に知らしめて、国家転覆!とか出来るんじゃないかな?」
「いやいや、さすがに無理でしょ」
「いえ、出来ると思いますよ」
「え?」
現代地球において、国家の権力構造が入れ替わるというのはなかなか無い。武力による国家転覆を謀ってもだいたいは国連を始めとする国外からの介入があり、平和的な解決で落ち着かせることが多いからだ。ましてや民主的な国家の場合、選挙によってトップが入れ替われば良いだけの話なので政権交代で血が流れることはないと言っていい。
だが、この世界では大半の国が王や皇帝と言った権力を掌握したトップがいて、そのまわりを権力者に従う者が囲む構造になっているため、トップを物理的に排除してしまえば、国家そのものが変わることになる。
「ステータスだけで言えば騎士数十人分ですからね。一度にまわりを囲める人数なんてせいぜい五、六人。鼻歌交じりで騎士団が全滅するでしょう」
「……そう言われると、出来そうな気がするけど、国家転覆ってそのあとその国を治めるんだろ?さすがにそれは無理だぞ。つーか、召喚されてきた俺ら全員でも国家運営なんて出来ないだろ」
「それはそうだね」
「ですが、国王死亡の報せが大陸中に知れ渡れば……隣接する国家が攻め入って国土を割取していくでしょう」
「それでいいや」
「……その場合でも、かなり揉めると思いますけど」
「正直どうでも良いです」
「だよねぇ」
なかなかに物騒な話も出てきたが、とりあえずそれ以上の情報は今のところ無いため、話は終了。明日からの二日間の予定を確認し、解散となった。
「ねえ、ミキくん」
「なんだい、茜?」
「さすがにもうこのパターンは飽きられると思うんだけど」
「飽きる、飽きないの問題じゃないんだ」
「ぶーぶー」
「さ、寝るぞ」
茜も一応は盗賊、斥候であり、縄抜けなんかの技術もあるのだが、幹隆の力で「普通ならその形に縛るのは無理だよね」という縛り方でガチガチに固められてしまうと身動きが取れなくなる。結果、ベッドの上でピチピチと魚のように跳ねるだけ。
「はっはっは……茜、明日も早いんだからさっさと寝るんだぞ」
「(ふごーっ!ふごーっ!)」
大声を出すと迷惑なので口に布も巻いた。これで朝まで安心だ。
「質問」
「はい、越智君」
「砂漠と言ったらラクダでは?」
「いい質問ですね。川合先生、解説を」
「はい、塚本さん。簡単に言うと、この世界にラクダはいません」
「「「えーっ」」」
「お前ら何やってんの?」
おかしな小芝居が始まったところで幹隆が突っ込みを入れた。
「いや……だって……なあ?」
「ラクダ、いないんだぜ?」
「ちょっと憧れてたんだよな。ラクダに乗って砂漠を旅するとか」
「うんうん」
「まあ……気持ちはわかるが……」
何だかな、と言う目で一同を見渡す。
「だろ?村田もわかるよな?!」
「ちょっと待て松島!その前に村田のジト目!もう一回やってくれ!」
「うわ、俺見逃した!」
「……はあ……付き合いきれん」
砂漠を越えるために必要な物リストをティアから受け取り、手分けして買いに行こうとしたのだが、この世界にラクダがいないというだけでこれだ。他にも色々違うと思うんだが……
「ラクダ?って何です?」
「ああ、ティアさん。ラクダというのはですね……俺たちのいた世界では砂漠に住む動物なんです。砂漠の近くでは飼い慣らして砂漠を旅する足にしてたみたいです」
「へえ……なかなか過酷なところに暮らしてたんですね」
「いえ、俺たちのいた国には砂漠はありませんでしたから、ラクダも少し飼われてた程度でしたよ?」
「ん?砂漠に住む動物で、砂漠がない国なのに、そんな動物を飼っていた?何のために?」
「ああ……えーと……主に観光目的?」
「観光?砂漠がない国で、砂漠に住む動物を飼育するのが観光?」
「……そういう……なんていうか……うん、そう言うのがあるんですよ」
「はあ……なんだかよくわかりませんが……」
「と言うか、ティアさん、砂漠を越えるのに動物とか使ったりしないんですか?」
「使いませんね。気温も含めて過酷な環境ですから、良く飼い慣らした馬でも言うことを聞かなくなて逃げたりしますし、何より環境……つまり暑さに耐えられません」
「それで、こんなに色々と買い込むわけですか」
「ええ」
水、食料、衣類などのカテゴリ別に分担して買い出しに行くグループと……
「では行きましょうか」
「ええ、お願いします」
幹隆による、ティアの育成開始だ。
一般的にいえば、ティアも充分に高レベルで一流冒険者と言えるのだが、このメンバーの中では見劣りするので、幹隆と共に少しゴブリン狩りでもしてこようということになった。
「うう……ミキくんとティアさんが二人きりとか……過ちが起こる未来しか見えないんだけど!」
「茜……過ちが起こる未来ってところが意味わからん」
そんなやりとりもしながら、二日間の準備を終えた。
ティア・バートン
レンジャー レベル75 (63551/75000)
HP 1211/1211
MP 936/936
STR 23
INT 16
AGI 38
DEX 30
VIT 12
LUC 19
稲垣健太
槍聖 レベル76 (44352/76000)
HP 1657/1657
MP 1100/1100
STR 49
INT 14
AGI 27
DEX 26
VIT 27
LUC 11
塚本幸子
ビーストマスター レベル76 (3156/76000)
HP 1098/1098
MP 1409/1409
STR 17
INT 25
AGI 24
DEX 30
VIT 17
LUC 32
中山徹
猫獣人・斥候 レベル76 (21549/76000)
HP 1264/1264
MP 1259/1259
STR 23
INT 18
AGI 61
DEX 45
VIT 15
LUC 23
松島浩平
剣士 レベル76 (25331/76000)
HP 1584/1584
MP 1046/1046
STR 43
INT 16
AGI 24
DEX 21
VIT 29
LUC 16
日野のどか
治癒術士 レベル76 (23009/76000)
HP 1306/1306
MP 1476/1476
STR 17
INT 35
AGI 20
DEX 19
VIT 24
LUC 18
越智香緒里
猫獣人・格闘家 レベル76 (24581/76000)
HP 1517/1517
MP 1041/1041
STR 42
INT 11
AGI 59
DEX 34
VIT 17
LUC 17
清水聡子
ドワーフ・重戦士 レベル76 (20191/76000)
HP 1706/1706
MP 1085/1085
STR 46
INT 18
AGI 18
DEX 32
VIT 31
LUC 18
「すごいと言うのは聞いていましたが……」
「え?」
「これ……私だけで騎士団団長に勝てそうな気がします」
「あ、あはははは……」
ここにいる中で一番戦闘向きでない日野でさえ、耐えるだけなら出来そうな時点で変な笑いしか出てこない。
「さて、それでは早速出発しましょう」
「「「はい!」」」
荷物の確認を終えると早速街から出て東へ向かう。ティアが砂漠での注意点を全て伝えきっていなかったのと、いくつかの道具類の使い方を説明するため、歩いて移動。道なりに進んでいけば昼過ぎには砂漠に入る予定だ。




