男子高校生ならば
TS物の主人公って、実際どう思ってるんだろうね?という疑問に対する作者なりの答え回。
「では出発!」
「おー!」
街の北門を出ると一斉に走り出す。目的の街はほぼ真北なので、そのまま真っ直ぐだ。
「方位磁石って買おうとすると結構高いんだな」
「そうだな。手が出ない金額じゃなかったけど……」
「くず鉄から折れた釘拾ってきて私が金属加工するだけで出来ちゃったよね」
「これが勇者チートって奴か?」
「地味すぎだよぉ」
清水がドワーフの固有スキル、金属加工を試してみたところ、鉄の釘が磁石に出来たので、それを使って方位磁石にした。北に向かうと言う程度ならこれで十分だ。
「途中に街があるけどスルーで良いよな?」
「いや、全部野宿はキツいだろ」
「それもそうか」
「街の様子次第だけど、この国なら俺らみたいな混成でも問題ないだろ」
「だな」
「よし、塚本」
「ん?」
「街の位置、確認よろしく」
「オッケー。鷹を飛ばしてあるから、見えたら教えるよ」
「頼むわ」
「そろそろ道を外れるぞ」
「足元気をつけろよ」
魔物も出ることがある森があるため、街道はまっすぐでは無く大きく東へカーブしているが、気にせずに突っ込んでいく。某方向音痴キャラの「この道を真っ直ぐ」という進み方だ。
「さすがに少しペースを落とすか?」
「んー、このくらいなら平気だけど、大丈夫か?」
「このくらいなら」
「余裕~」
馬車を抜き去る速度で走りながらそんな会話が出来る時点で全員おかしいのだが、誰も気にしない。
「一応言っておくけど……疲れたら言えよ?」
「ああ」
いくらレベルが上がり体力があると行っても、幹隆たちと塚本たちでは次元が違う。だが、それも解消しながら進んでいく予定だ。
「十一時の方向……数は三十ってとこか」
「よっしゃ」
先頭を走る幹隆が探知で魔物を探しながら進み、見つけたら全員に癒やしをかけ、通りがかりにフルボッコしていく。魔物たちにしてみれば何があったのかわからないうちに全滅させられるわけで、とんだ災難だ。
「うわ、マジですごい」
「レベルの上がりがハンパないな」
「はは……」
幹隆が出している狐火の数は既に万を超えており、ゴブリン一匹倒すだけでも一万以上の経験値が入る。レベルの上がり方も尋常ではない。
「どんどん行くぜ!」
「「「おう!」」」
「街が見えたぞ」
二日目の昼前、塚本の従える鷹が街の姿を見つけた。
「どっちだ?」
「少し右へ……ん、そのくらい」
「ここからだとほぼ真北か」
「まあ、魔物倒しながら行くから引き続きナビよろしく」
「オッケー」
「っと、左方向……これはオークの群れだな」
「お、良いじゃん、行こうぜ」
「いや待て……数が減り始めた」
「え?」
「誰かが討伐してるっぽいな」
「じゃ、放置で」
さすがにいきなり飛び込んでいって荒らして回るつもりはないので、そのまま通り過ぎていく。
「到着っと」
「ああ、さすがに疲れたな」
「ま、普通はこんな移動はしないんだろうけど」
「言えてる」
当初、途中の街や村には一切寄らない予定だったが、昨夜の野宿で全員が懲りた。
「宿取ってメシにするか」
「おお」
街の入り口でチェックを受け、早速宿を探す。
「少しくらい高くても良いところにしようぜ」
「メシ、どうする?」
「宿で食えるならそれでもいいけどなぁ」
ガヤガヤと話しながら街を歩くが、彼らのような集団は他にもチラホラ見られるので、目立つようなことは無さそうだ。
「食ったぁ」
「うまかったな、ここのメシ」
「ああ」
良さそうな宿を見つけ、さらにそこの食堂のメニューが評判だというので頼んでみたらこれがまたなかなか。
「旅の醍醐味って奴?」
「こんな物食った!って自慢したいレベルだな」
「スマホもネットもないからなぁ」
「だな……幹隆の狐火魔法にそういうの無かった?」
「無かったぞ」
「探したのか」
「一応、な」
腹も膨れたので、そろそろ休もうかと思ったのだが、
「風呂に入りてえ」
「俺も」
「私も」
季節は冬だが、走って移動しているのでかなり汗もかいている。さっぱりしたいと思うのは日本人の性か。
「あら、お風呂でしたら……」
宿の女主人が公衆浴場があることを教えてくれた。何でも数十年前、レクサムから遠征してきた魔王討伐軍がこの国で風呂を広めたらしい。
「行くか」
「当然」
連れ立って風呂に入り、さっぱりして帰ってくる。
「レクサムの連中、クズばっかりだが、風呂を設置して回ったのだけは評価しようか」
「そこだけは、な」
「でも、実際に設置したのって勇者なんだろ?」
「そうだな」
「じゃ、国としてはクズだな」
「過去の勇者、偉い!」
「ま、日本人は風呂だよな」
「なー」
「ところで村田」
「ん?どうした?」
「お前……男なのに女湯に入るとか、羨ましすぎる!」
「そうだそうだ!」
「稲垣にも言え!」
「え?俺?」
「って言うか、僕は女なのに男湯に入ったわけだけど」
塚本の外見は中性的で、少し髪型や服装を整えれば充分に女性に見える。
「それはそれで!」
「ああ、ちょっとドキッとしたよな」
「ふふふ……僕も結構眼福だったよ」
「おうふ……」
「男子たち、うるさいわよ」
「そうそう」
「って言うか、何で前屈みなのよ!」
修学旅行が台無しになった分、こんなひとときが修学旅行っぽくなってきた。
「でも確かに、村田君と稲垣君が一緒に入るのはちょっとね」
「え?」
「それなら次からは時間をずらして」
「そうじゃなくて」
「「え?」」
「女として自信なくすわ……」
「そうよね……」
「あの容姿にあのスタイルは……ズルいわぁ」
「「そっち?!」」
「ハイハイ、ミキくんのスタイルが良いのは今に始まったことじゃないから!」
「そう言う茜だって!」
「え?私も?!」
こうして、緊張もほぐれ、和気藹々の空気で夜は更けていった。
「そうですか……」
「ええ」
父の手紙を頼りにアルタスという街まで来たティアは、手紙の宛先となっていた領主を訪ね、手紙の内容について話をしていた。話題は勿論、前回召喚された勇者候補について。本当にただの偶然だが、彼がこの街を訪れたという情報をティアの父が入手していたこと、この領主と父は、仕える国こそ違うものの、長い付き合いのある間柄だったこともあってこうして詳しい話が聞けるのは運が良い。
そして、彼は「本当に魔王がいるのか」を確認すべく、ここからさらに北へ向かったというのだが、
「レクサムからの追っ手を撒くのに丁度良いルートを知りたがっていましたので、教えました」
「そのルートを使うと、魔族の領域までどのくらいかかるのかしら?」
「そうですね……季節によっては通れないところもありますからはっきりとしたことは言えませんが……半年はかかるでしょう」
「半年か……」
貴族が言う移動に半年というのは馬車を使い、無理のないスピードでの移動を言うはず。勇者候補やティアなど、移動の速い者ならば二ヶ月程度だろうか。
ルートを教わり、館をあとにする。
教わったルートは、最短ルートではないが、地形的な要因も考慮すると、追っ手を撒くには良さそうな道を進んでいるようだ。
おそらく魔族の領域まで無事に行っているだろうが……戻ってくるときも同じルートを辿りそうな気がするので、うまく行けばどこかで会えるだろうか。
「さてと……まずはミガルに行ってあの二人と合流ね」
予想では一日か二日早く到着出来るはず。わずかな時間しか無いが、その間にこのルートにある街の情報を集めておこう。
夜が明け、ミガルに向けて幹隆たちが走り出す。地図の縮尺がいい加減なので微妙だが、話を聞いてる限りではおそらく三日かかる予定。勿論彼らのペースで。途中の村に立ち寄ることはせず、野宿前提だが、狐火の収納のおかげで各自が持つ荷物は少ない。
「村田様々だな」
「ホントだよ」
ここまでの間に順調にレベルが上がって体力も付いているので、和気藹々の移動だ。
「ところで、村田とか稲垣ってさ」
「ん?」
「何だ?」
「……こっそりエロいこととかしたのか?」
「「ぶっ」」
稲垣が派手に転び、幹隆はそのまま斜面を転がり落ちていった。
「あ、やっぱりやったんだ?」
「あ、いや……その……」
「稲垣はやったと……村田は?」
ガサガサと草やら葉っぱをつけて幹隆が戻ってきた。
「やってないぞ」
「ホントに?」
「ああ」
「絶対?」
「神に誓ってもいい」
何故か疑いの眼差し……
「ホントよ!」
「え?」
意外にも茜が助け船を出した。
「だって、私がずっと一緒にいたからね!」
「そうなのか……」
「ああ。下手すりゃ茜の方がエロい……つーか、おっさんだ」
「ちょ!その言い方酷くない?!」
「いやいや、何かと理由つけて俺の胸を触ろうとするだろ?」
「そんなもの、触らないで我慢しろって方が無理よ!」
「「「わかる!」」」
「いや、そこ同意すんなよ!」
「いや、でも……」
「なあ?」
「あ、もしかして」
「ん?」
「実は男の方が好きとか」
「え?」
「マジ……」
ちょっと距離を置かれた。
「いや、あのな……ほら、俺、向こうじゃ体が不自由だったからさ。普通に跳んだりはねたり出来るこの現状に満足しちゃったんだよ」
「ホントに?」
「そりゃ、確かに……そう言うことも……考えなくはなかったけど……その……なんだ……いざ、自分の体になってみると、それほど興味も無くなって」
「あ、それ僕もわかるよ」
意外にも塚本が同意した。
「僕もね、こっちに来る前はいろいろとこう……どんな風になってるんだろうとか想像してたんだけど、いざ自分のモノになってみると割とどうでもよくなっちゃったんだよね」
「だろ?」
「そう言うモンなのかね……」
「……ひょっとして俺の方が変なのか?」
稲垣がおずおずとまわりを伺う。
「だいたい健太、君は……僕の裸を見たことがあるじゃ無いか」
「「「何?!」」」
「ちょ……」
不意討ちに稲垣がうろたえる。
「ちょっと待て、そこんとこ詳しく」
「待て、それって小学校に上がる前どころか幼稚園に通う前じゃなかったか?」
「そうだっけ?」
「俺、ほとんど覚えてないんだけど?」
「僕は覚えてるよ~、ものすごくガン見されたんだ」
「うわ、稲垣君最低~」
「おまわりさん、ここです!」
何となくそのまま休憩になってしまったが、話題がそっち方面から離れていかないので、幹隆は頭を抱えた。
仮に……そう、仮に日本に戻ることが出来たとして、体は元に戻るんだろうか?




