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  作者: ひじきとコロッケ
ミガル王国
46/55

アンデッド退治

「とりあえず決定していることをお伝えします。お二人はCランクに昇格です」

「おおー」

「ただし」

「ただし?」

「少しの間ですが、こちらが指定した依頼をこなして頂きます。それまでの間は街を離れないように。勝手に街を出たらCランク昇格は無しです」

「制限付きですか」

「制限というか……特例なんです」

「特例?」

「クイーンハンティングスパイダーを単独で倒せる冒険者なんて聞いたことがありません。Sランクでも低いくらいだとギルドの上層部が今大騒ぎなんです。そこで形だけでもCランクにしつつ、本当にCランクにふさわしいか見極めろとの指示が」

「なるほどね」

「色々面倒くさいんですね」


 組織ってそういうものだし。


「と言うことで、この依頼をして頂きます」


 そう言ってニムが依頼票を見せる。

 急ぎの依頼では無いが、誰も受けないので塩漬けになってしまっている依頼で、これ幸いと回してきた一件だ。


 荒野にポツンと立っている崩壊寸前の屋敷。どうもアンデッドモンスターが住み着いたらしく、今のところ人的被害は無いが、何とかしたいという内容。


「もしかしたら上位のアンデッドが住み着いているかも知れませんので、Aランク向けなんですが……お二人なら大丈夫でしょうと」


 ゴーストみたいな実体の無い魔物がいたりしたら火矢を使うしか無いので少し面倒だが、まあ受けるしか無いか。

 塚本たちも頑張って依頼をこなしているようだが、Dランクに上がったばかり。幹隆たちを除けばギルドの記録を更新しそうな勢いだが、Cランクになるにはもう少しかかりそうで、何もしないで待つのもそれはそれで苦痛だ。


 屋敷の場所を確認するとすぐに出発する。

 ニムは歩いて行くと一日と少しの距離だから色々準備を、と言いかけたが止めた。あの二人なら一日で往復しそうだ。




「ここが問題の……」

「いかにも出そう(・・・)な感じだね」


 元々は貴族の別荘だったらしいが、色々やらかして取り潰しに。

 財産処分の一環でこの屋敷も競売にかけられたが、場所が辺鄙(へんぴ)すぎて買い手がつかずそのまま放置されている上、その貴族がここで自ら命を絶っているという、そりゃもう出るでしょ、という状態の屋敷である。


 ニムからは屋敷を破壊しても構わないと言われているので、日の高い内に更地にしてしまうのもアリかも知れない。

 大抵のアンデッドは日の光とかが苦手。明るい日差しの降り注ぐ中でにこやかに戯れるゾンビとかいないし、木漏れ日の下で優雅にたたずむグールなんてのもいない。


「と言っても、この大きさだと破壊するのも結構手間だな」

「そうだねぇ」


 夏場に避暑として過ごすために建てられた別荘だと言うが、立派な石造りの二階建て、窓の数から部屋数は十を下らない規模。

 大規模魔法で吹き飛ばすならともかく、武器戦闘が主体の二人では時間もかかりそうだ。


「じゃあ、やっぱり中に入ってアンデッド退治?」

「いや、これを使う」


 狐火の火球 狐火五個消費

 熟練度 2


「熟練度が上がってる?」

「ああ。毎日ノルマ決めて使ってたら上がった」


 ちなみに狐火は熟練度が十二になった。上がり具合が違うらしい。


「でも、これ……」

「まあ見てろ」


 そう言って幹隆は壁のすぐ近くに立つ。


「狐火の火球!」


 ボッと音がして、やはりピンポン球サイズの火の玉が現れると、すぐに振り返る。


「ほらミキくん、やっぱり「急いで離れるぞ!」


 有無を言わさず、茜を抱えて二十メートル程離れる。


「いやいや、ミキくん。いくら何で……も……?」


 茜の目が点になる。


「あれ、動いてる?」

「そう。ゆっくりだけど動いてるんだ。耳、塞いどけ」


 火矢と変わらない程度のスピードでゆっくりと火の玉が屋敷の壁に向かって進み、やがて触れる。


 ドンッ!


 派手な音をさせながら火の玉が爆発した。爆発の直径は三メートル程はあるだろうか。


「エグい破壊力ねぇ」

「我ながらそう思うよ」


 しばらくすると土煙も収まり、一階から二階部分にかけて数メートルの大きな穴が開いていた。


「おお、すごいね」

「な、結構すごいだろ?」


 少し近くでマジマジと観察。見事な破壊力だ。


「どうだ?」

「うん!これなら!」

「爆発のサイズ的に二十回くらいかな」

「今日中に帰れそうだね」

「ああ」


 では早速、と場所を変えて幹隆が構える。


「この辺りで良いかな」

「よし!やっちゃえ!」

「待て待て!何をしている!」

「「え?」」


 思わぬ声に振り向くと、デカく開いた穴から覗き込んでいる人影が。


「えーと、どちら様?」

「いきなり壁を吹き飛ばしておいてどちら様とか、お前ら親からどういう教育を受けてきたんだ」

「どういうと言われても」


 ここでは、日本の常識が通用しないから親の教育とか言われても返答に困る。


「全く、最近の若者はこれだから困る」


 そう言って、やや白髪交じりの老人が姿を見せる。向こう側が透けて見えるが。

 スタスタと幹隆が歩いて近づき目の前で手をかざす。


「狐火の火矢」

「おま、いきなり何を……ってうわぁぁっとぉっ」

「チッ、避けたか」

「何をしやがる」

「先手必勝って言うし」

「ふざけるな!殺す気か!」

「いや、そもそもお前、死んでるじゃん?」

「は?」


 キョロキョロと辺りを見回す老人、いやゴーストか。


「誰が死んでるって?」

「お前だ、お前」

「俺?」

「他に誰がいるんだよ?」

「いやいや、俺が死んでるとか、無いだろ?ホレ、こうして生きてる」

「世間一般では向こう側が透けてる奴を生きてるって言わないけどな」

「向こうが透けてる?何を言って……うわっホントに透けてる!何これ、キモッ」


 なんか一人でわちゃわちゃ始めたゴーストを前に「何だよこれ」とため息をつく二人。しばらく現状把握に時間がかかりそうだ。


「あのさ、ちょっと良いか?」

「何だ?」

「悪いんだけどさ。大人しくここを出ていくか、滅ぼされるか、選んでくれないか?」

「は?いきなり何を?」

「だから、出て行くか滅ぼされるか」

「待て待て。なんでその二択?」

「仕事だから」

「仕事?」

「冒険者ギルドの依頼で、ここのアンデッドを片付けるってのを受けてるんだよ」

「ここの?」

「ああ」

「アンデッドだと?」

「お前だな」

「へ?」

「お前、どう見てもゴーストとかそういう系だろ?」

「え?俺、ゴーストなの?!」

「あのな。少なくとも俺の生きてる知り合いに向こう側が透けてる奴はいないぞ……アンデッドにも知り合いはいないけどな」

「え?この透けてるのって、ゴーストだからなの?ここでひっそり暮らしてる間に影が薄くなったからかと思ってた」

「茜、何かコイツ面倒くさい」

「私も相手したくないよ」

「くっそ」


 イヤイヤながらゴーストに向き直る。


「そこを動くなよ」

「は?」


 ブンッと棍を横なぎに振り払う。

 結果は言わずもがな。棍は男の体をすり抜けて、壁にぶち当たり、バリバリッとめり込んだ。


「いきなり何をする!」

「当たってねえだろ!物理攻撃無効って時点で普通の人間止めてんだよお前は!」

「あ、ホントだ……え?何これ。ひょっとして俺、すっごい存在になったとか?」

「ただのゴーストだろ。魔法で一撃だ。そこを動くな。苦しまないようにしてやるから!」


 言うなり手のひらを向ける。


「わーっと!ちょっと待て!待ってくれ!」

「……茜……コイツ、ホントにどうしよう……」

「聞こえない、何にも聞こえなーい!」

「うわ、現実逃避しやがった」


 目と耳を塞いで向こうを向いてしまった。

 ゴーストが怖いとかそう言うのでは無く、何か面倒くさいのがイヤ、という感じだ。


「そもそも何で俺を倒そうとするんだ?」

「この屋敷、アンデッドの住み処になってるってもっぱらの噂……いや事実だったか。で、付近の村とか怖がってるんだよ」

「ふーん」

「ふーんってお前……って言うか、お前以外にアンデッドっていないのか?」

「ここに住んでるのは俺だけだぞ?」

「じゃ、お前を片付ければ終わりだな。ちょっと壁が壊れたけど、大目に見てもらおう」

「だから待てって」

「何だよ。おとなしく滅ぼされろよ」

「いや、いきなり死ねと言われて、ハイそうですかってなるか?ならないよな?」

「でも、お前もう死んでるじゃん」

「死んでないって」

「いや、死んでゴーストになったんじゃ無いのか?」

「あ、俺ゴーストなんだよな。そうか死んだのか」

「じゃ、そういうことで」

「待ってくれって!」


 ああ、もう面倒くさい。


「じゃあ、滅ぼさないでやるからここを出ていけ」

「えー、行くあても無いんだけど」

「……一応聞くけど、お前、誰?」

「よくぞ聞いてくれた!俺はあの大国、レクサムの王宮魔術師が一人、エドガーだ!」

「よし、今すぐ消滅させてやる」

「何で?!」

「だって……なあ」

「うん。レクサムの関係者って時点である意味敵だもん」

「敵って?!あの大国の!それなりの地位の人物に対して!」

「それなり……」

「あ、うん……はい。その……魔術師団の下っ端です、はい」

「下っ端……」

「でも、王宮関係者は敵だよねっ!」

「そうだな。どこから情報が漏れるかわからんから滅ぼすか」

「ん?待て待て。情報が漏れる?どういうことだ?」

「んー、簡単に言うと、俺らは王国から逃げてる立場」

「逃げてる……?」

「ああ」


 壁の吹き飛んだ一帯と、棍がめり込んで出来た鋭い切れ込みのような溝、そして二人を交互に見やる男。


「もしかして、お前たち……勇者候補?」

「そうだけど」

「なんてこった。勇者召喚をまた(・・)行ったのか……」

「え?」

「うーむ……今は何年だ?」

「え?」

「暦だよ」

「知らん」

「異世界から召喚あるあるか。あー、ほら、冒険者ギルドの依頼票に日付とか書いてあるんじゃないのか?」

「あ、そう言えば……これか?」


 ズイッと依頼票を見せる。


「フム……なるほどな。そういうことか……」

「ん?」

「そうだな……こんなところで立ち話もなんだ。奥に応接間がある、そこで話さないか?」

「俺たち、さっさと依頼を済ませたいんだけど」

「聞いておいて損の無い話だぞ。それほど時間は取らせない」


 そう言って男は廊下を進んでいく。

 仕方ないか、と顔を見合わせて二人はついていった。

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