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  作者: ひじきとコロッケ
王都レクサムにて
4/55

ゴブリン

「あー、俺が貴様らCグループの担当だ。名前?教えるつもりもねえし、お前らの名前なんて知りたくもないから名乗らなくていいぞ」


 昼食――ひどいという意味では朝食とそれほど変わらなかった――のあと、教練場に集められたCグループ九十一名の前で、アレックスに引けを取らない体格の騎士が面倒くさそうに頭をかきながらとんでもないことを言う。


「武器はそこにあるのを適当に使え。自分が使いやすい奴を選べば良いが、そこにある物しかないから、その辺はまあ、そういうことだ」


 並べられた武器はAグループ、Bグループが既にそれぞれの武器を持っていったあとの残り物で、数だけなら人数分はありそうだが、それぞれの才能に合う物が残っているのやら、と言う状況であった。


 そのAグループ十九名とBグループ三十二名は既に教練場の中でゴブリン相手に訓練を開始しており、時々生徒達の悲鳴というか嗚咽(おえつ)が聞こえる。曲がりなりにも人間のように二足歩行する生き物を手にかけるのだから、仕方ないことだが。


 茜はその保有スキルに従い、弓と矢を手に取っていた。使ったことはないが、スキルによってどうにかなるんじゃないかと考えて。実際には誰も手を着けなかったので残っていただけなのだが。

 幹隆は、武器にも使えるような硬い鋼で出来た、直径三センチ長さ二メートル弱の棒、いわゆる(こん)だ。選んだ理由はこれまた単純で、最後まで(・・・・)残っていたから(・・・・・・・)である。


「そこのお前、前に出ろ。早速行くぞ」


 呼ばれた生徒――猫耳猫尻尾の獣人だ――は恐る恐る指示された位置に立つ。担当騎士の合図で教練場にある門が開き、人型の魔物が歩いて出てくる。身長は一三〇センチ程、肌は暗い緑色、尖った鼻と耳、ぼろきれをまとった、テンプレ通りのゴブリンである。短い棍棒を片手に生徒の方を見ている。


「グギギギギ……」


 やがて、うなり声を上げて生徒に向かって飛びかかる。


「うわあ!」


 生徒は手にした短剣をめちゃくちゃに振り回す。振り下ろされた棍棒を運良く短剣が弾き、さらにゴブリンの脇腹をえぐる。


「グガガ!」


 グチャッと色々まき散らしながらゴブリンが地面に転がる。


「あ、あう……あう……」

「何をしている!とどめを刺せ!」

「あ……は……ふぁい……」


 震えながらゴブリンの胸に短剣を突き立てると、ゴブリンは一度ビクンッと痙攣(けいれん)して、止まった。


「よし、よくやった」

「は……ひゃい……」


 担当騎士が背中をバンバン叩いて褒める。だが、それも数秒。


「よし、次、お前だ!」


 すぐに次の生徒を指名した。終わると次、すぐに次。


 終わった者はほとんどが震えが止まらなかったり、戻したりと散々な状態だ。


「ケッ、情けねえなぁ。あんな程度でよぉ」


 一通り終えたAグループがCグループの様子を見ながら聞こえるように言う。

 その姿をチラリと見て、幹隆はため息をついた。


(この扱いの違いときたら……)


 Aグループは全員、立派な防具を身につけ、武器も見るからに高級な感じだ。Bグループは防具は革の鎧が大半、武器はまあそれなりの物を手にしている。

 昨夜渡された服をそのままに、使い古してくたびれた感じのある武器を手にするCグループとは雲泥の差だ。


「Bグループも終わったな、三人同時にやるぞ」


 急かすように担当騎士が叫び、Cグループの順番をどんどん消化しようとする。武器の使い方はもちろん、攻撃の避け方も一切教えない、いつ事故が起きてもおかしくない状況。さすがに危ない状況になると手助けをしているが、そのあとに罵倒することを忘れないあたり、やり方のひどさは明らかだった。


 おそらくだが、この国はいわゆる『人間至上主義』なんだろう。Cグループは大半が獣人を始めとする亜人ばかり。人間よりも劣るのだから、差別して当然という感覚なんだろう。だがその原因を作ったのが王国で、俺たちは被害者なんだがと、Cグループのほとんどの者が感じていたが、あの剣幕にたてつく勇気は持ち合わせていない。


「次、そこのお前と、お前、それとお前!」


 流れで茜が呼ばれていったので、幹隆はその様子を見守る。正面の門が開き、ゴブリンが出てくる。辺りを見回し、棍棒をブンブンと振り回すと、茜に気付き小走りで駆けてくる。


「やあっ!」


 茜が矢を放つ。スキル『射撃向上』のおかげか、ゴブリンの右肩に命中し、そのまま転倒する。よろよろとゴブリンが立ち上がるが、そこにさらに一撃。腹に命中し、血が噴き出す。


「グギャッ」


 のけぞったところにさらに一撃。喉元に突き刺さり、さすがに倒れて動かなくなる。

 そろそろ自分の番だ。しかし、どう考えてもステータスの数字が低い。全部一とか意味がわからない。だが、今の茜のようにスキルを使えばもしかしたらなんとかなるのではないだろうか。


「スキルか……」


 改めて自分のステータスを確認する。


 スキル

 言語理解(大陸)

 狐火魔法


「狐火魔法ってなんだ?」


 何となく触れてみると、ピョコンと新しい情報が表示されてきた。


 狐火 消費MP10

 熟練度0


「MP全部消費とか、すごいスキルなのか?」


「……前、お前!聞いてるのか?!」

「は、はい!」


 何か説明が書かれているので読もうとしたが、呼ばれてしまったので仕方なくステータスを閉じる。だが、気になるので使ってみることにする。


「狐火!」


 何となく前に突き出した手のひらの前に、ボッという音と共に青白い火の玉が現れる。


 ……それだけだった。


 手を近づけても熱を感じるわけでもなく、手でつかんでも熱くもなく、それでいて消えない炎。幹隆が歩くとそれに合わせて移動するという不思議な火の玉。


「……何も起きないな」

「さっさとこっちに来い!」


 さすがに(にら)まれたので、とりあえず火の玉はそのままに棍を両手で構え、開かれた門の方へ意識を向ける。そしてこちらへ棍棒を振りかざして真っ直ぐ走ってくるゴブリン。棍を振り上げて待ち構える。そして、あと数歩でこちらに届くというタイミングで思い切り振り下ろす。ゴリッと言う感触と共に地面に叩き付けられるゴブリン。

 真っ直ぐこちらに向かってくるゴブリンに真っ直ぐ振り下ろすだけ。多少タイミングがずれても当たるはずと確信していたが、ここまで綺麗に当たるとは思っていなかった。だが、悲しいことに幹隆のSTRは一。勢いで倒されただけのゴブリンは頭をさすりながら立ち上がろうとするが、そこにもう一度棍を振り下ろす。さらにもう一度、もう一度。念のためにもう一度。


「はあっ、はあっ……」


 少し息が上がり、棍を振る手を止める。なんとか倒せたな。


「よし、次。お前だ」


 すぐに交代を指示されるが、体力を使い果たしてフラフラだ。棍でなんとか体を支えながら……棍が重い!


「よっし、次は俺だ!」


 名前と顔が完全に一致しない誰かとすれ違ったところで足を止め、息を整える。まあ、元の世界でもあまり運動が出来ない体になっていたのが影響しているのだろうか?


「よし、門を開けろ」

「さあ来い!……え?」

「な!……マズい!」


 焦りの声に幹隆は思わず振り返り門の方を見る。門から出てきたのはゴブリンを倍くらいの背丈に伸ばした――ホブゴブリンだった。


「グアアアア!」


 ひときわ大きな雄叫(おたけ)びを上げると、大きな棍棒を振りかざし走り出した。哀れな犠牲者に向かい真っ直ぐに。騎士達の対応は間に合わない。振り上げた棍棒がブンッと振られ、グチャッと言う音と共に首から上が吹き飛んでいった。


「うわわわわわ」


 次のターゲットが幹隆なのは明らかだ。


「武器を、急げ!」


 騎士達が慌てて武器を取りに走るが、間に合うとは思えない。なんであいつら武器を持ってないんだよ!


 棍の端を地面に突いたまま、ホブゴブリンに向けるのが精一杯だったのだが……


「ガッ」


 ちょうど向けた棍の先端がホブゴブリンの口にはまり、そのまま喉まで突き刺さる。


「くっ」


 ズズズッと勢いに押されるが、必死に棍をつかんで支える。


「グ……ガ……」

「ええええい!」


 そのまま棍を横に押し倒す。ガツンとホブゴブリンの頭を地面に打ち付ける。そしてすぐに棍を引き抜き、ふらつく手で頭に振り下ろす。「グギャ」という声を気にせずにもう一回、もう一回。だが、四度目に振り下ろそうとしたところで握力が無くなり、棍が落ちる。


「グアッ」


 そこへ騎士達がようやく到着し、ホブゴブリンに剣を突き立てる。


「……!」

「……?」


 騎士達が何かを叫んでいるのが聞こえるが、体力が限界になった幹隆はそのままぶっ倒れた。慌てて走り込んできた茜が受け止めてくれることを期待して。

Aグループ十九名。

Bグループ三十二名。

Cグループ九十名。(一名死亡)

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