正体?
感想欄一番人気(?)の稲垣について……と言う話ではありません。
「ここまでは問題なしだな」
城壁のそばに全員が集合できたのは、別に運が良いというわけでは無く、「ダンジョンに行ったりしなければ自由」という方針だから。城から出てこうして集まるのも自由だ。
「じゃ登って上からロープを垂らすぜ」
中山徹
猫獣人・斥候 レベル2 (325/2000)
HP 127/127
MP 127/127
STR 7
INT 5
AGI 16
DEX 15
VIT 5
LUC 8
茜が登るより時間はかかった――主にレベル差のせいである――が、危なげなく上まで登り切り、ロープが垂らされた。
「よし、順番に」
城壁の上も、内側も、次の見張りが来るまでは二時間ほど。全員が登り切って、外へ降りるには充分な時間がある。
「外へ降りたら、集合地点へ」
登り終えた者から順に外へ降り、すぐに走って行く。外側の見張りの巡回は少し間隔が短いので、のんびりしていられない。
それでも城壁を登り始めてから一時間と少しで全員が外へ降り、あらかじめ決めておいた集合場所に集まっていた。
「よし、全員いるな。行こう」
集合場所はちょっとした木立の中だが、いつまでも集まっていたら見つかるだろうと、三十分ほど森の奥へ向かって進む。
「よし、一旦休憩。大事な話がある」
行本の言葉で立ち止まり、全員が思い思いの場所に座り、水筒を口にしたりする。
「で、大事な話って?」
「ま、僕からと言うよりも……ゆっこ、君から」
「その名で呼ぶなと言っているだろう?」
「呼びたくもなるさ。勝手に人の名前を使うもんだから、色々大変だったんだよ?」
「それについてははすまなかった、本当に申し訳ない」
二人以外は頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。
「ってそういう話じゃ無いよな」
塚本はそう言いながら立ち上がり、一歩前に出る。
「皆は私のことを塚本幸子だと思っているが、それは間違いだ」
「「「は?」」」
頭の上のクエスチョンマークが増えたような感じだ。
「元の世界、こっちに転移してくる前は……稲垣健太だった」
「「「はあ?!」」」
「いやちょっと待て」
「どういうこと?」
「じゃ、本物の塚本さんは?」
ちょっとした……どころかかなり混乱しているが、当然だろう。
「はいはい、静かに」
行本がパン、パンと手を叩き、静かにさせる。
「状況を説明するよ。まず、我々が剣聖、稲垣健太として認識しているあの男は……偽物だ」
「偽物?」
「どういうこと?」
「どう言うつもりかはわからないが、才能を調べる時に名前を正しく申告していなかった。そしてそのすぐあとにいた稲垣健太本人が悩みに悩んで……」
「女になっていたからな、どうしようかと考えて塚本幸子の名前を名乗った」
「よりにもよって僕の名前を」
「え、お前が塚本?」
「なのか?」
「そうだよ。仕方ないから名前を慌ててアナグラムしてみたんだけど、字が余った」
TUKAMOTO YUKIKO
↓
YUKIMOTO KOUTA + K
どうやら「つ」をTSUと書かない派らしい。
「じゃ、アイツは……稲垣健太を名乗っているアイツは誰なんだ?」
「そこはさすがにわからないよ。学年全部の名前を把握してるわけじゃないし」
「だが、多分……竹本か、山下か……だけど多分、竹本じゃないかな」
「ああ、あいつかぁ」
「アイツなら、やりそうだな」
「実際、今まで確認した中に竹本はいなかったしな」
「と言うことで……本当は正体暴露して健太の名誉を回復したいんだけど、それはまあ後回し」
「ん?ちょっと待って」
「何かな?」
「ゆっこ?健太?……名前呼びというか、愛称的な?」
「お前ら、付き合ってたのか?」
「いや全く」
「「「は?」」」
「その、なんだ、ゆっこと俺は家が近所でさ。その……小学校から今までずっと同じクラスなんだ」
「笑っちゃうよね」
「いや、笑っちゃうと言うか……もうそれ、赤い糸どころか鎖じゃねえの?」
「言えてる」
「……一応、付き合わないかという話もしたことがあるんだけどな」
稲垣(本人)がぽつりと言う。
「え……」
「あぁそれは……」
聞いちゃいけないことだったかという空気が流れる中、塚本(本人)がさらりと言う。
「何かもう、ここまで来ると付き合うとかそういう感覚飛び越しちゃっててさ、『よくわかんない』って答えちゃった」
「稲垣……」
「お前……」
同情、哀れみ、もう手遅れ、そういう視線を浴びる稲垣(本人)。
「ま、今はそんなことよりも……」
「スルーされるのもそれはそれで切ないな」
「順調に王都を抜け出したわけだけど、この先は?」
「今のところ、茜とミキの二名を追う方針は変わらない」
召喚された生徒たちの中で、今一番アクティブに動いているのがこの二人。そして塚本はこの二人が何かの情報を得て動いているのではないかと睨んでいる。
「でもさ、『何か』って何?」
「そこなんだけど、あの二人が行方不明になった時のこと、覚えてる奴いる?」
「少しだけ。ミキって方が何か抜け殻になってたな」
「そう、それなんだよ」
「え?」
「多分、何かの情報を得た結果、ショックを受けたと推測」
「かなり飛躍してないか?何の根拠もないだろ?」
「カン。女の勘ってヤツ」
「お前、今男じゃん」
「心は女のまま!」
「見た目のギャップがひどい件」
散々な言われようである。
「でも、それなりに理由はあるんだろ?」
「まあね。あの二人についていたメイドが肝だな」
「メイド?」
「ああ。昨日のあの騒動の最中にあのメイド、騎士団団長と互角に戦ってたぞ」
「マジか」
「メイド側が戦う気がなかったみたいで、目くらましして逃走してたけど」
「いや、騎士団団長から逃げるだけでもすごいんじゃないか?」
「言えてる」
「ちなみに、僕の監視が追いつけなくて、見失った」
「「「マジで?!」」」
梟、鷹、鼠……そういった監視の目を張り巡らせておいたのだが、ティアはあっさりと振り切ったという。
「あのメイド、ただ者じゃない。それだけは言える」
「戦うメイドさん、まさかリアルに存在するとは」
「ま、茜とミキの方も……特にミキには薄々感づかれているみたいだけどね」
「獣人の感覚の鋭さ、って事か?」
「多分ね」
それでも振り切られることなく追跡できているだけマシだと思うよ、と付け加える。
「さて、休憩おしまい。そろそろ行こうか」
「ああ」
だが、進み始めて三十分もすると、一行は二人が通ったルートが道なき道レベルではないことを知り、見つかるリスクを承知で街道に近い平坦な場所を進むことにした。
「あの二人、あの地形を普通に走ってたんだよな」
「化け物か?!」
「くしゅんっ!」
「大丈夫?」
「んー、誰か噂してんのかな?」
朝になってもティアと合流出来なかった。「待つという選択肢は捨てて下さい」というティアの言葉に従い、村を出て北へ。
次の村までは徒歩でも夕方までには着けるというので今日はのんびり歩いている。急いでも仕方ないので。
「あ、ゴブリン」
「ん?……逃げていったな」
それなりに魔物もいるのだが、二人の放つオーラにあてられてさっさと逃げていく。おかげさまで現在までに魔物との戦闘はゼロであった。




