四度目のボス戦
互いの動き方を確認し合い、改めてボス部屋へ向かう。
「準備はいいか?」
「ええ」
「目が泳いでるぞ」
「うう……あんまり見たくないものがあるからね……」
「気持ちはわかるが……行くぞ!」
「うん!」
狐火の纏を使って、幹隆が飛び込み、すぐ後を茜が追い、壁に飛びつく。
「おりゃあああ!」
棍の一振りでゴブリンが数匹吹き飛ぶ。
「もう一丁!」
さらに一振り。ホブゴブリンも巻き込んで吹き飛ぶ。
幹隆が出している狐火の数は百五十。この状態でゴブリンを叩くと、茜と半分になるので、経験値は三(端数は切り上げらしい)。そして狐火一個につき、一加算され、最終的に幹隆が得る経験値は一五三。だがこれがホブゴブリンになると四百七十五。このボス部屋でゴブリンとホブゴブリンをしばらく相手にしているだけで幹隆はどんどんレベルが上がる。相変わらずのぶっ飛んだ能力である。
幹隆が次々とゴブリンたちを屠るのを見て、キングが再召喚を開始する。だが、召喚は一度に一匹だし、一回の召喚に十秒程度かかる。
つまり、十秒に二匹以上倒していけば、ゴブリンは全滅するという単純な計算。
慌てて上位種が動こうとするが、その足下に茜の撃った剣が刺さり、出足をくじく。
やがてゴブリンとホブゴブリンを全て倒し、幹隆は上位種を相手どる。
ホブゴブリンを相手にするよりも力を込めて棍を振り、吹き飛ばし、なぎ倒していく。さすがに上位種だけあって、一撃でとは行かないが、茜の牽制も有り某無双ゲームのように駆け回り、暴風雨のように倒していける。
五分もかからずにキング以外を倒しきると、さすがにキングも悠長に配下を召喚するつもりはないらしく、剣を手に向かってくる。
ガンッと棍を叩きつけるが、さすがに強く、手にした剣で受け止められる。だが、動きが止まれば充分なのだ。
つばぜり合いを演じようとしたゴブリンキングは真横から放たれたオーガキングの剣で頭を貫かれ、絶命した。
「倒した……ぞ」
さすがに数も多く、疲れた。だが、ついにやり遂げ……ドサッと何かが上から降ってきた。
たたき上げて天井に激突したゴブリンだ。
ぺち……と顔に当たるモノ。
「うぎゃあああああ!」
絶叫と共に振り払ったゴブリンが駆けよってきた茜の顔面に当たり、気絶するまでがお約束。
二人とも心が落ち着くまでそれなりの時間が必要だった。
「うう……ぐにっとしたモノがが……ぐにっとしたモノがが……」
「俺もさすがにキツいよ」
「ミキくんの、もっと可愛かったよね……」
「それ、小学校に上がる前の話だよね?」
男として聞き捨てならぬことを言われたので即座に訂正しておく。
『この階層のボスが初めて討伐されました。二回目の挑戦による討伐のため、対象者は報償として経験値千万を獲得します』
「二回目……?」
「誰かが挑戦したけど断念、撤退したって事?」
「だな」
最初の挑戦じゃない分、経験値が目減りしていると言うことか。細かいルールはわからんな。
川合茜
ハーフエルフ・斥候 レベル304 (93467/304000)
HP 3341/4620
MP 5048/5048
STR 60
INT 73
AGI 200
DEX 139
VIT 41
LUC 68
「つまり、これって」
「誰かが来たことがあるけど、突破されていない階層……」
「つまり……」
「ここが十五層ってことだ!」
「今更だけど、よく生きてたわね、私たち」
「はは、そうだな」
「ミキくんのおかげだよぉ。ありがとう!」
茜が飛びついてきたのを抱きとめてくるくると回る。
「あはははは」
「うふふふふ」
ひとしきり笑い合ってゴロンと横になる。
「ああー、結構しんどかった」
「うんうん、大変だった!」
「主に精神的な意味で」
「ぷっ」
「だってそうだろ?ダンジョンで散々戦ってきたから、多少のスプラッタは耐性ついたけど……」
「うんうん、わかる。モザイクかけて欲しいよね」
それもそうだが、男として自信をなくしそうなんだよと言いそうになる。これは絶対に女性にはわからないデリケートな問題なのだ。
やがてゴブリンたちの死体が消えていく。
村田幹隆
狐巫女 レベル204 (116/2040)
HP 1432/4140
MP 740/4140
STR 414
INT 414
AGI 414
DEX 414
VIT 414
LUC 414
「魔石がゴロゴロ……ゴブリンキングの石、でかいなぁ」
「また剣だよ。ゴブリンキングの剣」
「他はめぼしいものは無いな」
休憩を終えて、仕度を始める二人。いよいよ地上に帰れるのだと思うと、少しだけ心も浮かれてくる。
「ミキくん、どうせならこの剣で二刀流とか?」
「んー、出来ないことは無いと思うけど、剣の訓練からだな」
試しに両手に剣を持ち、軽く振ってみるが、何となく問題無さそうな気がする。四百を超えたステータスは、両手剣を片手で振り回すくらい造作も無いと言うことなのだろう。とは言え、振り回すだけの棍と刃を当てなければならない剣。かなり勝手の違う武器だから、すぐに使いこなすのは無理だろう。
「でも、こんなの持って帰ったら大騒ぎだよね?」
「ああ……だから色々準備する」
「へ?」
荷物を袋に詰め終え、一つを茜に手渡し、一つを背負い、一つを抱えて立ち上がる。
「そろそろ行こうか。まずは上に戻れることを確認だ」
「うん!」
二人で階段を降り、魔法陣の前へ。
「今度こそ頼むぜ」
「ホントだよ。もうこれ以上は勘弁」
茜がパンパン、と手を叩いて拝んでから魔法陣の上に立つ。
「行くぞ」
「いいよ。心の準備は出来てる」
「じゃあ」
幹隆が狐火を一つ、足下に叩きつけると魔法陣が強く光った。
やがて光が消え……丸い部屋の中に二人は立っていた。
「お、今度は落ちないな」
「良かったぁ」
いくら浮遊や癒やしでどうにかなると言っても、さすがに毎回幹隆が重傷を負うのは避けたい。
「まずはここが一層なのか、確認しようか」
「そだね……安心させておいて二十層とかありそうだもんね」
今までのこともあって、警戒を怠らない二人。人間とは学習する生き物なのだ。
しばらくうろうろしてみた結果。
「一番上、一層でいいだろ」
「私もそう思う」
遭遇したのはスケルトン・ゴブリン・コウモリ。これで一層じゃなかったらどこだというのだろうかというラインナップだ。
「とりあえず外に出る準備をしよう」
適当な小部屋に入り、荷物を下ろして狐火を大量に出す。
「茜と俺が今背負っているのはそのままで。中身は元々持ってた物ばかりだから中を見られても問題にはならないからな」
「で、この魔石と剣は?」
「こうする。狐火の収納!」
ゴウッと音がするほどの勢いで狐火が集まり、火の輪を作る。輪の中はなんだかよくわからない空間が作られた。
「この中にしまっておこう」
「あれね、アイテムボックスね」
「ああ」
だが、ラノベのアイテムボックスほど便利では無い。
一度閉じてしまうと、もう一度開くのに狐火を二百個使う、非常に燃費の悪いスキルだ。
だが、色々隠しておくには便利だし、幹隆のMPは四千を超えているので、燃費も気にならない。ちょっと不便だけどそこそこ便利に使えるスキル、と言う位置づけでいい。
改めて手持ちの荷物を確認し、収納を閉じる。
「行くか」
揃って荷物を背負い、立ち上がる。
「ミキくん」
「ん?」
「出口、どっち?」
暫し沈黙。
「知らん」
「だよねぇ……」
ひたすら歩くしか無いか。そのうち他の冒険者に会うだろうから、道に迷ったとか何とか言って教えてもらえばいいや。そう考えて部屋を出ようとして、足音に気付いた。
「誰か来る……」
「じゃ、じゃあ事情を話して」
「ああ」
ゆっくりと小部屋を出て、足音の方へ。




