ミノタウロス再戦
「さて、腹ごしらえもしたし、頑張るか」
「うん!」
とりあえずオーガキングの剣は茜が振り回すことにした。ちなみに見た目のごつさに反して、持ってみると少し重いものの、尖ったところが痛いなんて事も無い。なんだか不思議な剣である。
「欠点は鞘が無いこと」
「持ち歩きが不便ね」
ボス部屋を抜けると、ちょっとだけ見覚えのある場所に出た。
「ここ、前に来た場所ね」
「だな」
何となくの記憶を頼りに穴のところまで進んでみたのだがどこにも見当たらない。
「多分、穴の深さに合わせて移動していっちゃうとか?」
「変な仕組みだな」
「罠ってそう言う物じゃない?」
「言えてる」
幸い、二人のレベル的にこの階層の魔物に手こずることはない。休憩は階段下で取ることにして先へ進むことにした。途中の給水ポイントは変わっていなかったので水筒の補給が出来たのは幸いだった。
「もうすぐボス部屋か」
「作戦は前回と同じ?」
「で、いいと思う」
念のために中の様子を確認してからだけど、と付け加えたところで階段が見えてきた。
二人で階段を上り、ボス部屋を覗く。
「前と同じだな」
「ミノタウロスの群れ+デカいの一匹」
ここで一度休憩だ。
「牛肉が ちょうど切れたら ミノタウロス」
「字余りだぞ」
呑気なことを言っているが、その心中は穏やかではないだろう、と幹隆は思っていた。
茜は一見すると、快活な普通の女の子だが、実際にはかなりおとなしめで引っ込み思案。
異世界にいきなり召喚されたりして幹隆がいなかったら、泣きべそかいて部屋から一歩も出ようとせず、それが理由で王都から追い出されてもおかしくない。
だが、幹隆だって茜には何度も救われている。互いに助け合い、支え合う関係。お互いのことをよく知る間柄だからこそこんな状況でも頑張れた。
無事に地上に戻れたら、ちょっと甘えさせてやろうかな、そんなことを考えながら壁に寄りかかり目を閉じる。……ダメだ、ちょっとで済まない気がする。まあいいや。茜に甘えられるのは悪い気がしないし、嬉しそうな顔はいくらでも見たい。
休憩の後はミノタウロス戦。いくら一度勝ったことのある相手とは言え、油断は禁物。まずは体を休めよう。
「アレを倒せば」
「倒せば?」
「さらに牛肉ゲット!」
「うふふふ」
「ふははは」
気合いは充分。さあ、戦おうじゃないか!
「行くぜ!狐火の纏!」
全身に炎を纏わせて幹隆が突っ込んでいく。一瞬遅れて飛び込んだ茜はすぐに壁を登る。前回は「何となく出来そう」で登ったが、今回は「登攀スキルで登る」と意識出来るせいもあって素早く足場へ。
そして幹隆も少しだけ戦術を変える。
「狐火の火球!火球!火球!」
連続して火球を撃ち出すと、すぐにバックステップ。何のためらいも無く突っ込んでくるミノタウロスたちに次々と着弾し爆発。ズタボロになったミノタウロスを棍で弾き飛ばし、取り巻きをなぎ倒す。だが、すぐに後続が仲間の死体を乗り越えてやって来る。だが、既にその足元にも火球を放り込んである。
ボンッボンッボンッ
片足の膝から下が吹き飛べばまともに立っていられるはずも無く、倒れていくところを棍で強打。ミノタウロスの死体がだんだん積み上がってきた。
「ブモォォォォォォ!!」
さすがにボスが業を煮やしたのか、雄叫びを上げる。よしよし、今相手をしてやるからな。
雄叫びに煽られて飛び込んできたミノタウロスに火球をぶつけ爆発させ、その爆煙の下を駆け抜けて一気にボスの下へ。棍で脛を強打するが、あまり効かないのは想定済み。むしろそのまま棍を上に突き上げて、顎を強打してやろうとして、立ち上が
「うわぁぇぇぇ!」
位置が悪かった。ミノタウロスの足元、正に真下。腰布の中に頭を突っ込んでしまった。そして、なんか顔に触った。薄暗くてよく見えないが、目の前に牛サイズの物があり、さすがに一瞬たじろぐ。
「ミキくん?!」
「クソッ」
茜の声で正気に戻り、目の前のそれを殴る。
思い切り。
右ストレート。
二百を超えたSTRで。
「ブモォォォォォォ!!」
何か潰れるような感触と、硬直したボスの悲鳴。
その隙を逃さず、茜がオーガキングの剣を撃ち、顔面を貫いた。
「魔石もすごいけど、やっぱりこの牛肉、すごいねぇ」
「そ、そうだな」
「ミキくん、大丈夫?さっきからその……なんかおかしいけど……どこかぶつけた?」
「あ、ああ……大丈夫。大丈夫だよ。攻撃なんて一発も食らってないから、うん」
「そう?ならいいんだけど」
自分のやったことを後悔していた。
いくら牛の物と言え、いきなり目の前にそれが現れて気が動転してしまい、思い切り殴った。
頑強なミノタウロスの完全な死角から。
防御力とか無視できるだろう箇所を。
思い切り。
ミノタウロスの感じた痛みが如何ほどか。今の幹隆は感じることは出来ない。だが、殴った右手に残る何かを潰したような感触。想像するだけで足が震える、背筋が凍る、軽く目眩を覚える。
「それにしてもさあ」
「ん?ああ、何だ?」
「ミキくん、どうやってボスの動きを止めたの?よく見えなかったんだけど」
「え?ああ……えーと……よくわからないや。無我夢中だったし……あーこれだ、狐火の強打ってのがある。咄嗟に使っちゃったんだ(棒読み)」
「ふーん」
言えるわけがない。
「魔石と……牛肉♪」
「いいな。早速焼こうぜ」
「ミキくん落ち着いて」
「落ち着いてるって」
「よだれ」
「え?」
仕方ないだろ。肉食獣なんだから。
じっくり丁寧に焼き上げて、ゆっくりと噛み締める。
肉汁がじゅわっと溢れ、ほのかな油の甘みと肉の旨味が渾然一体となって口の中で踊る。
「んぐんぐんぐ」
「はふぅ~口の中が幸せぇ~」
茜も顔が蕩けている。この顔は他人に見せちゃダメな顔だな。
じっくり時間をかけて腹ごしらえをする。一応の目論見として、休憩を終えたあとは一気に上への階段まで進み、階層ボスを倒す予定だ。いわば、これがダンジョン内での最後の食事になるはず。いや、最後の食事にしておきたい。
「茜、食ってるか?」
「もちろん。ミキくんは?」
「まだいける。残さず食おうぜ」
「これ持って帰ったら色々問題になりそうだもんねぇ」
「他にも魔石とか色々あるから今更だけどな」
「どうやってごまかそうか……こんな大きな魔石、捨てるの勿体ないし」
「んー、一応考えてるぞ。今はこのままでいいけど」
「じゃ、任せる!」
コンロを片付けながら茜が微笑む。
「頼りにしてるよ、ミキくん」
「お、おう」
こんな美少女に頼りにされて嬉しくないわけがない。とりあえず、今回の戦闘で起きた惨事についてはさっさと忘れようと横になり、目を閉じた。
振るコーヒーゼリー缶飲料のゼリーになってぐちゃぐちゃに潰される夢を見てしまい、あまり良い目覚めにはならなかったが。
「さて、行こうか」
「うん」
二人ともなかなか最初の一歩が踏み出せない。
「虫だもんなぁ」
「虫だもんねぇ」
出来るだけ虫の少ないルートはどうだったかと必死に思い出す。最初の分岐は右だっけ?左だっけ?
「我慢するしか無いんだけど……生理的に無理だよな」
「ミキくん、頑張って!」
「前向きに善処するよ」
「それって、何もしないって意味じゃない?」
「そんなこと……ないぞ」
「ちょっとミキくん、こっち見て。私の目を見ながらもう一回言ってみて」
「はっはっはいいぞ。ほら。んー、茜は可愛いなぁ」
「え……ちょ……あう……えと」
「さ、行くぞ」
よし、誤魔化した。
引き続き考え中…
・そのまま王都脱出だ!
・一度城に戻って、ざまあ!してから王都脱出だ!
・一度城に戻って、すぐに王都脱出だ!




