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「や……やっと……着いた」
「もうダメ……休ませて……」
「右に同じ……」
階段下で倒れ込む二人。さすがにこの階層はきつかった。
やや強くて初見で焦ったスケルトンナイトが可愛らしく見えるレベルで。
サイクロプス、マンティコア、ゴルゴン、バジリスク、コカトリス、シャドウ、レイス……状態異常系と物理無効系が増えており、正直手に負えない。物理無効は狐火の火矢で何とかなるが、状態異常が狐火の癒やしで治せる自信が無いため、戦闘を最小限にしつつ、基本的に逃げるという方針。
「なんでいきなりこんなに強く?」
「な、何でだろう……ね……」
「サイクロプスに癒やしを感じるとかおかしい」
「あの一つ目も慣れてくるとちょっと可愛いかも」
精神的にも参っているようだ。
はふぅ、と息をついて茜が目を閉じるのを見て、幹隆もそれ以上話をするのをやめる。今は体を休めて、階層ボス戦に備えねばならない。
「お休み」
小さく呟いて目を閉じた。
2時間程眠り、どちらからとも無く立ち上がる。
「さて、とりあえず階層ボスの様子を見るか」
「あんまり強いボスだと困るよね」
「ま、すぐ上がミノタウロスと上位種だったからそこまでえげつないのは……」
オーガの群れ。多分真ん中にいるのはオーガキングか?王冠みたいの被ってるし。その周囲は……オーガの他に、弓を持っている者、杖を持っている者……
「アレだ、魔法とかも使ってくるタイプだ」
「かなりキツくない?!」
単体でオーガとミノタウロスの強さを比較するとミノタウロス>オーガとなる。だが、魔法を使えるオーガ――オーガ・メイジ――とか、弓を使うオーガ――オーガ・アーチャー――が混じってくると話が変わってくる。遠距離から狙われ続けたらさすがにヤバい。
かといって、メイジやアーチャーを優先して倒してもダメだ。おそらくすぐに再召喚される。
「階層の魔物もそうだけど、こいつらも力押しが効かなくなってるな」
「今の私たちには厳しい相手ね」
「どうするか……」
「もう少し矢があれば牽制出来たかも知れないのにね」
「オーガ・アーチャーの所に飛び込んで矢筒を奪って茜に投げるとか」
「その間にフルボッコね」
「だよなぁ……うーん、なんとか耐えられるか……イヤ無理だよな。分の悪い賭けだよな」
「フルボッコで済めば良いけど」
「え?」
「服とか破かれて襲われたりとか」
「マジで勘弁して」
想像するだけで震えが出る。
「あのさ、俺が襲われた場合」
「うん」
「その後は茜の番だぞ?」
「あ……」
うつむいて少し震えながら何かをブツブツ呟き始めた。
「ミキ……オーガ……?いえ……オーガ……ミキ……有り?……でも……」
コレはフォローが必要か?
「茜、その……」
「ミキくん!」
「は、はい!」
立ち直った?
「ミキくんの純潔は私が守るわ!」
「それ、違う意味に聞こえるんですけど?!」
心なしか鼻息が荒いのは何故?
「さて、どうするか……」
「あ!良いこと思いついた」
「お?」
「こう言うのはどう?」
茜が何か思いついたようだ。
「ちょっと勿体ないかも知れないけど……」
茜の考えた作戦は、確かにちょっと勿体ないけど、多分いけるんじゃないか?
「さて、やるか!」
「うん!」
二人揃ってボス部屋の前に。
ぼんやりと光る空間ギリギリに立つが、オーガはこちらに気付いていても近づいてくる様子は無い。
「あの辺に飛び込んで……こうして……こう……」
「あの位置、ダメか。あっちなら……ううん、むしろこっち」
安全地帯から見える範囲でしかないが、可能な限りの情報を仕入れて戦闘に備え、頭の中で自分の動きをイメージする。こんな多勢に無勢、長期戦なんてあり得ない。一瞬でけりを付けるためにも、イメージ、イメージ。
「準備は?」
「オッケー」
「行くぞ!」
「おー!」
狐火の纏を使うと同時にボス部屋へ飛び込むとオーガたちが一斉に幹隆へ向かってくる。
一瞬遅れて飛び込んだ茜はすぐに壁を登っていく。
「足場は……狙い通りあそこ!」
斥候の登攀スキルなら、ホンの少しの突起で充分足場に出来る。そういうスキルだ。
「でぇぇぇぇい!」
幹隆の振り回す棍で数匹のオーガが吹き飛んでいく。奥の方で弓を構えるオーガ、杖を掲げるオーガが見える。
いくら幹隆にミノタウロスとやり合えるほどの力があると言っても、弓矢と魔法もある中ではさすがに耐えきれない。だから戦い方を工夫する。
「行くぜ!」
あらかじめ準備しておいた物を取り出し、狙いも付けずに放り投げた。
オーガ。別名『食人鬼』。実際に人を食うかどうかは別として、見た目通りの肉食である。
ダンジョン内の魔物はどこからともなく湧いてくるらしいから食事の必要性は低そうだが、それでも腹は減るらしく、哀れな犠牲者を食らうことは珍しくないと言われる。実際魔物によっては餌で釣り出して狩る事もあるという。
では、肉汁と油のしたたり落ちる牛肉――しかもA五ランクに匹敵――が目の前にあったらどうなるだろうか?
とりあえず放り投げたのは三切れ。だが、すぐに三切れ、四切れを投げる。ああ……勿体ない!
オーガたちの視線が牛肉に集まり……落下地点に一斉に群がっていく。幹隆をスルーして。
「狐火の浮遊!」
軽く跳躍し、あらぬ方向を向いているオーガたちを飛び越え……ちょっと距離が足りない分はオーガの頭を蹴って跳び、ボスのところへ。
さすがに目の前に来れば無視できるものでは無く、ボスが幹隆へ向き直るが、
「遅い!」
棍を振り上げて顎を跳ね上げて仰け反らせると、すぐにみぞおち、そしてもう一回顎を跳ね上げる。
これで後は……
「茜!」
すぐに飛び退く。
ドスッと茜によって撃ち出された騎士の剣がボスの胸を貫いた。
「よし!」
討伐、完了!
ボッという音がして取り巻きのオーガが光の粒子に変わり消えていく。
そしてアナウンスが聞こえてくる。
『この階層のボスが初めて討伐されました。初挑戦による討伐のため、対象者は報償として経験値千七百万を獲得します』
「予想通りだけど、わけわからん経験値だな」
「あはは……」
村田幹隆
狐巫女 レベル155 (192/1550)
HP 991/2750
MP 150/2750
STR 275
INT 275
AGI 275
DEX 275
VIT 275
LUC 275
川合茜
ハーフエルフ・斥候 レベル263 (159941/263000)
HP 1326/3926
MP 4371/4388
STR 48
INT 58
AGI 152
DEX 149
VIT 36
LUC 51
「そして……」
ボスの消えた場所を見やる。
「騎士の剣、折れちまったな」
「うん」
「さすがに矢のように撃ち出すことを想定していない武器だしな……」
当たり前ではあるが。
今まで結構活躍していた武器で、頼りにしていたのだが、折れてしまうと心細い。
「で、これが残ってるんだけど」
「ああ」
『オーガキングの剣』
「名前だけ聞くと、すっごい役に立ちそう!」
「ぶっちゃけ、騎士の剣より良さそうだよな」
見た目が禍々しいのが欠点か。
「刃が黒くて、柄がゴテゴテしてて」
「中二全開ね」
「う……か、カッコいいじゃ無いか!」
「それは認めるけどぉ……コレ、ゴツゴツしてて持ったら手が痛くなりそう」
デザインと実用性は同居しない典型例だ。
「後は魔石か」
「良かった」
「何が?」
「オーガの肉とかイヤだよ私」
「俺もイヤだよ」
目くらましで投げた牛肉はどれも食いついた跡があったので、諦めることにした。
「ああ、疲れた」
戦闘自体は短時間で終わったが、神経をすり減らす戦いだし、纏利用の反動も大きい。
額をコツンと付き合わせ、笑い合うとゴロンと横になる。
「とりあえずここで一日休めるから、のんびりしよっか」
「だな」
答えるが早いか幹隆は目を閉じ、わずか数秒で眠りに落ちたようだ。
「ミキくん、お疲れ様。いつも頑張ってくれてありがとね」
一言告げて茜も横になる。
聞こえたかどうかはわからないが、聞こえて無くても伝わると信じて。
少しステータスの計算を変えようと思ってます。
9/27追記
二人が地上に戻ったら…
・そのまま王都脱出だ!
・一度城に戻って、ざまあしてから王都脱出だ!
・一度城に戻って、すぐに王都脱出だ!
どれがいいだろう?と考え中




