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  作者: ひじきとコロッケ
ダンジョンからの脱出
17/55

階層ボス

「えーと……」

「うん、そうだね……」


 他の通路と違う雰囲気のある通路の先には大きな扉があり、近づく者を威圧していた。


「これ、階層ボス部屋だな」

「間違いないね」

「では」

「回れ右!」


 だいたいの目安として、階層ボスの強さはその階層よりも五つほど潜ったところの魔物と同等、らしい。仮にここが十七階層だとしたら二十二階層の魔物と同等と言うことになる。レベル的には幹隆でも勝てるかも知れないが、仮に物理無効とかだったら詰むし、地上に向かうには逆方向だ。

 そして、このボス部屋が見つかったことは一つの朗報でもある。このレクサムダンジョンは階層を降りてきた位置と、階層ボスの位置がほぼ対角線の位置と言う特徴がある。つまり、幹隆達が目指すべき方向はちょうど反対側と言うことになる。


「アレか、右手の法則じゃなくて、左手で行けば良かったのか?」

「かもね。どっちもどっちだと思うけど」

「だな」


 少しだけ先の見通しが付いてきた二人は笑い合って歩き始める。


「ところでさ」

「何?」

「マッピングしてないから対角線方向がわからない」

「何となくまっすぐで!」

「おう」




「おりゃ!」


 稲垣が剣を振るうとそれだけで取り巻きのゴブリンたちが一掃される。


「ファイヤーボール!」


 鈴木の放った魔法はドン!と言う音と共にさらにその周囲のゴブリンを吹き飛ばし、その奥にいるゴブリンリーダーまで一直線の道を作る。ゴブリンリーダーが慌てて配下の召喚をしようと宝玉……っぽく見えるちょっと綺麗な玉を掲げる。



「せえええええいっ!」


 塚本が瞬時に詰め寄り槍を一閃。ゴブリンリーダーは体に風穴どころか、首から鳩尾あたりまでが爆散し、絶命した。



「よっしゃ、五層の階層ボス討伐、と」

「お疲れ様」


 後方支援に徹していた米山が全員に回復魔法をかけていく。



 稲垣健太

 剣聖 レベル4 (292/4000)

 HP 243/262

 MP 56/86

 STR  17

 INT  5

 AGI  14

 DEX  12

 VIT  9

 LUC  5


 鈴木裕樹

 賢者 レベル3 (1936/3000)

 HP 130/130

 MP 42/272

 STR  8

 INT  21

 AGI  8

 DEX  13

 VIT  4

 LUC  7


 塚本幸子

 槍聖 レベル3 (2049/3000)

 HP 201/224

 MP 97/122

 STR  17

 INT  7

 AGI  12

 DEX  13

 VIT  7

 LUC  5


 米山秋子

 聖者 レベル3 (1800/3000)

 HP 142/142

 MP 79/219

 STR  6

 INT  20

 AGI  7

 DEX  14

 VIT  6

 LUC  8



「さ、さすがだな……」


 引率していた騎士もまさかこんなにも早く五層の階層ボスを倒すとは思ってもいなかったため、やや引き気味である。


「よし、六層行くぜ!」

「待て!」

「っんだよ、おっさん。俺らはまだまだ余裕だぜ?」

「時間だ。今日はここまで。降りたところにある帰還用魔法陣で戻るぞ」

「……チッ」


 Cグループの一パーティが行方不明になった件は、調査をこれ以上続行しても何も出ないと判断され、ダンジョン探索訓練は再開となった。そして念のため、AグループとBグループに関しては引率の騎士が二名に増やされ、探索も時間が短縮された。これはこれで稲垣のフラストレーションが溜まり、数時間後にまたしても部屋で騒いで塚本に叩きのめされる事になる。

 最近は、叩きのめされるためにやってるんじゃないかと周りは邪推したりもするが、本人にそのつもりは無いらしい。


「ま、いいか。今んとこ俺らが一番レベル上がってんじゃね?」


 知らぬが仏とはこのことである。




「上への階段……」

「やっと、見つけた……」


 階層ボス部屋を真後ろに見るように注意しながら歩き続けること数時間――いや、十数時間は経過している――、ようやく階段を見つけた。


「ここ、魔物は寄ってこないんだな?」

「階段降りていきなり魔物だらけじゃマズいからじゃ無い?」

「微妙にサービスがいいよな、ここのダンジョン」


 階段下の地面がぼんやり光っているあたりには魔物が近寄ってこないようなので、少し休息を取ることにした。魔物との戦闘も疲れるが、それ以上に歩き続けて足が棒だ。


「座ったら……立ち上がる気が失せた」

「私も。ずっと座ってたい」

「膝をしっかり曲げるのって、こんなに気持ちいいんだな」

「はぅぅ……ほぇぇ……」


 茜、その声はちょっと色々マズい。


「休憩するのはいいんだけどさ」

「ん?」

「この階段……長過ぎねえ?」

「え?うわ!」


 改めて見ると、確かに長い。田舎の神社の階段並みに長い。


「百段くらいあるかもな」

「登るだけで疲れそう」

「てっぺん近くまで登ってから休憩にするか?」

「そだね」


 のそり、と立ち上がり登り始めるが、茜の足取りは重い。幹隆は、はあ、と聞こえないようにため息をつき、茜に手を差し伸べる。


「ほら」

「え?」

「手」

「えと……え?あ……うん!」


 それだけで元気が出るなら安い物だ。


 階段を登り切るギリギリのところから幹隆がそっと様子を(うかが)うと、大きく空いた穴の先にぼんやりと光るボス部屋の様子が見えた。


「うへえ」


 げんなりした顔で茜の元に戻る。


「……聞きたくないけど、どうだった?」

「ミノタウロスの群れ。少なくとも二十はいた」

「うへえ」

「ぷっ」

「え?」

「ぷはははははっ」

「何よ?!」

「いや、俺も茜も同じ反応するんだって。これきっと伯母さんの影響だな」

「えー、そうかなぁ?」

「そうだよ。だってほら……」


 少しの間、こんなことがあった、あんなことがあったと話が盛り上がる。


「二人とも、どうしてるかな?」

「心配してるだろうね」

「元気だよって伝えたいけど、この格好じゃなあ……」

「んー、でもきっとママのことだから、喜ぶかも」

「え?」

「きっと、ミキくんに似合いそうな可愛い服、一杯作ると思うよ」

「え?」

「ほら、私が小学校の頃に着てた服、ママが作ってたから」

「ああ、あれか……」


 ヒラヒラしていて可愛かったが、アレを自分が着るというのはちょっと。


「その……事故のあとは色々忙しくて作ってる時間なくなっちゃったけど、多分このまま戻ったら……」

「戻ったら?」

「三時間くらいかけて隅々まで採寸されると思う」

「それはそれでなんかヤだな」

「ふふ……私も散々採寸されたっけ。何度も腕の長さとか測るんだよ?何回測っても同じだってのに」


 またしばらく思い出話に花が咲くが、幹隆は茜の好きなようにさせていた。これで少しでも元気になるならば、と。


「さてと、それじゃそろそろ休憩おしまい」

「うん」

「改めて、ボス部屋の中身について。ミノタウロスがたくさん、これはいいね?」

「嬉しくないけどね」

「そして、部屋の中央にひときわデカいミノタウロスが一匹」

「え?」

「その……何だ、周りの普通サイズのミノタウロスと比べて親子くらい背丈が違う」

「マジで?」


 茜が恐る恐る階段を上り……降りてきた。


「マジだった」

「多分アレ、真ん中のボスを倒さないと延々ミノタウロスが召喚されてくるタイプだぞ」

「かなり大変なことになってる気が」

「気のせいじゃ無いからな」


 幹隆が立てた作戦は単純で、狐火の(まとい)をかけ、さらに狐火の火球――使ったことがないので威力の程が心配だが――を放ちながらボスめがけて一気に突っ込む。当然、周りのミノタウロスも向かってくるだろうが、お構いなしに棍を振り回せば、案外何とかなるんじゃ無いかと思っている。とても作戦と呼べるような代物では無いが、考えられる戦い方はこの程度しか無い。


「そして、これが重要なんだけど」

「何かな?」

「ボスのトドメは茜が」

「え?」

「多分、アイツを撃破する最初の一人になるだろ?」

「うーん……そうだね」

「おそらく、経験値ボーナスがあると思う」

「ああ、確かに」

「だから、こうする……」


 作戦を確認してから、よしと顔を見合わせて立ち上がると、幹隆が狐火の癒やしを茜にかけ、階段を上り始める。一番上まで上がると、ボス部屋にいるミノタウロスの視線が一斉にこちらを向く。だが、ボス部屋の外に彼らは出られない。心の準備をする時間は充分にある。


「行くぞ!」

「うん!」

「狐火の纏!」


 幹隆の全身が炎に包まれると同時に二人はボス部屋へ飛び込んだ。


「狐火の火球!」


 幹隆が掲げた手の先から火の玉が放たれた。

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