それぞれの成長
たっぷり眠って、目覚めた時に確認したところ、『狐火の影響下』は消えていた。
そこで改めて検証をしてみることに決めて、二人はダンジョンの通路へと入っていった。
そして、何度か検証した結果は……
「まず間違いないのが、狐火の癒やしで影響下に入る」
「うん。癒やしをかけたらすぐに表示が出たからね」
「そして、影響下にいる間は経験値が等分になって、経験値アップがかかる」
「だけどその効果はそれほど長くは無い、と」
「効果時間は、時計がないから何とも難しいけど、一時間くらいだな」
「うん」
村田幹隆
狐巫女 レベル89 (815/890)
HP 250/1250
MP 71/1250
STR 125
INT 125
AGI 125
DEX 125
VIT 125
LUC 125
川合茜
ハーフエルフ・盗賊 レベル3 (2448/3000)
HP 92/112
MP 134/134
STR 5
INT 6
AGI 20
DEX 19
VIT 4
LUC 8
検証している途中で影響下から外れてしまうこともあったので、フルに経験値が入っているわけではないのだが、この経験値の入り具合は想像以上だった。
今までは役割分担の関係上、茜に入る経験値はせいぜい十%前後だったのが、狐火の影響下に入ると、無条件に五十%になる上、狐火の個数に応じた経験値アップも見込めるのだ。狐火の癒やしは狐火を五個使うのでMP消費は五十と大きいのだが、幹隆自身のレベルアップによりどんどん増えている現状ではそれほど大きな負担にならない。また、最大MPの上昇のおかげなのか、MPの回復速度も上がってきており、戦闘が少し続いたりすると狐火を複数出せるほどに回復してしまう。今も四十個出しているのだが、追加で七個出しておく。緊急の回復にも使えるし、良いことずくめだ。
そこで、二人は改めて今後の進め方を相談する。
食料に関してはかなりの偏りがある――と言うか、肉しかない――が、なんとかなっている。水もダンジョン内で数カ所湧き水を見つけているため今のところ心配は無い。そこで、もう少し積極的にダンジョンを進むことにする。今までは十分も歩かないうちにUターンしていたのだが、もっと進むことにした。もちろん、周囲を窺いながら慎重にという方針は厳守だ。そして戦闘中に追加が来た時はすぐに茜に盾を持たせ、壁際に。慌てずに立ち回れば、成長した幹隆ならば何とか出来るようになってきており、探し回る手間が省けるという意味では効率が良くなると考えるようになった。
村田幹隆
狐巫女 レベル103 (419/1030)
HP 381/1580
MP 13/1580
STR 158
INT 158
AGI 158
DEX 158
VIT 158
LUC 158
川合茜
ハーフエルフ・盗賊 レベル4 (2346/4000)
HP 87/126
MP 153/153
STR 5
INT 6
AGI 21
DEX 19
VIT 4
LUC 8
レベルアップに合わせてどんどんと狐火の数は増えていき、戦闘の時間もどんどん短くなっていく。茜のレベルが低いように見えるのだが、幹隆の成長が異常なのであって、必要経験値と戦闘回数を考えると茜も充分に異常な成長である。
「魔王に挑んだ勇者のレベルっていくつだっけ?」
「八十位って言ってなかったか?」
「……ミキくん、魔王に挑戦してよ!」
「無理言うなよ……うわっ!」
「っとぉ!」
唐突に現れたスケルトンウォリアーに対応が一瞬遅れた。
ガキン!と一撃を盾でなんとか受け止めるとそのまま壁に押しつけて動きを封じる。
「やっちまえ!茜!」
「おう!」
ただ盾で押さえつけているだけだが自由のきかない魔物など恐るるに足らず。茜がザクザクと剣を突き立てて胸の魔石の周りを削ると、すぐに崩れ落ちた。
「あー、びっくりした」
「いきなり目の前に出るのはちょっとやめて欲しいよな」
もう少しダンジョン側にも配慮を求めたいところである。
「ん?」
「どうした?」
「ミキくん、数字がおかしい……気がする」
「え?」
慌てて幹隆も自分のステータスを確認する。
村田幹隆
狐巫女 レベル104 (289/1040)
HP 382/1590
MP 15/1590
STR 159
INT 159
AGI 159
DEX 159
VIT 159
LUC 159
川合茜
ハーフエルフ・盗賊 レベル4 (2686/4000)
HP 89/126
MP 153/153
STR 5
INT 6
AGI 21
DEX 19
VIT 4
LUC 8
スキル
言語理解(大陸)
「これさ……二人に経験値が二百ずつ入ってないか?」
二百+狐火ボーナスならこんな感じの数字になる……
「あ、もしかして!」
「ん?」
「今のスケルトンウォリアー、私だけがダメージを与えていたでしょ?」
「そうだな……って、その場合は経験値がそのまま全部二人に行くのか?!」
魔物と戦いながら一度穴に戻り、状況整理をする二人。
「ルールはこんな感じか?」
一 狐火の癒やしを受けた者は狐火の影響下に入る
二 狐火の影響下にある者は経験値アップのボーナスを得る
三 狐火の影響下にある状態で、幹隆と共に戦うと経験値は等分になる
四 狐火の影響下にある者が単独で魔物を倒した場合、幹隆と共に全経験値が入る。
「ぶっ壊れ性能だな」
「そうね」
元々の状態と比べても狐火の影響があるだけでも二倍近い経験値が入るのに、茜だけで倒すと倍になる。しかも、盾で押さえつけるだけで相手をほぼ無力化できるので、戦いの安定感も増すだろう。
「と言うことで、微調整」
「可能な限り私だけで倒す、ね?」
「そう言うこと」
出来るだけ周りに注意を払いながら、一対一を原則に。そして可能な限り茜だけで倒す。狐火の効果が消えないように注意しながら慎重に戦いを続ける二人。
「疲れた……」
「うん」
かなりの戦闘をこなして穴に戻る二人。かなり体力を消耗しているが、それでも何となくやり遂げた感がある。
村田幹隆
狐巫女 レベル117 (61/1170)
HP 730/1830
MP 20/1830
STR 183
INT 183
AGI 183
DEX 183
VIT 183
LUC 183
川合茜
ハーフエルフ・盗賊 レベル6 (3354/6000)
HP 124/164
MP 203/203
STR 6
INT 7
AGI 22
DEX 20
VIT 4
LUC 9
「ミキくんのステータスはもう何か……笑っちゃうレベルね」
「そうだな……この数字にどんな意味があるのかわからない感じになってきた」
「私の方は……普通よ!」
「いや……多分だけど……Aグループよりもレベルが高いと思う、何となくだけど」
「そ、そんなことないはずよ?!」
まあ、そんな不毛な議論をしても仕方ないので、クマの肉を食べ、ゆっくり休むことにする。少しずつだが探索範囲も広がってきている。蜘蛛の糸よりも細かった希望は木綿の糸くらいには太くなった、そう実感しながら。
「クソッ」
ガンッと稲垣健太が椅子を蹴りつけ、また壊す。鈴木裕樹は既に何かを言う気力も無い。
「なあ、おい。お前もそう思わねえ?」
「ん……まあ……な」
稲垣の苛立ちもわからなくはない。
事の発端は三回目のダンジョン遠征で、Cグループの内、一組が夜になっても戻らなかった所から始まる。
予定の時間――午後三時頃――になっても戻らないという程度なら、少し奥の方まで行ったのだろうか?となるのだが、夜になっても戻らないとなると話は変わってくる。引率していた騎士はそれなりに経験を積んでおり、三層程度までなら一人でも踏破できる程度の実力がある。それが帰ってこないというのは異常事態だ。共に潜っていた他の組だけでなく、一般の冒険者にも何か情報が無いかと確認してみた結果、昼頃に小部屋で休息を取っていたところまでは判明したが、それ以上はわからなかった。
そこで仕方なく、勇者候補のダンジョン遠征訓練を中止、騎士団による徹底調査を行い、安全を確認してから再開となったために、ここ数日はずっと座学と模擬戦闘訓練だけの日々となっている。
稲垣健太
剣聖 レベル2 (211/2000)
HP 198/198
MP 64/64
STR 16
INT 5
AGI 14
DEX 12
VIT 8
LUC 5
鈴木裕樹
賢者 レベル1 (897/1000)
HP 118/118
MP 227/227
STR 8
INT 20
AGI 8
DEX 13
VIT 4
LUC 7
経験値増加というトンデモスキルがあったとしても、戦闘がなければレベルは上がらない。そしてレベルが上がらなければ……
「うるさい!静かにしろ!」
バタン……ドムッ!ドムッ!……グギ!
「ぐぁ……」
塚本幸子
槍聖 レベル2 (13/2000)
HP 196/196
MP 106/106
STR 16
INT 7
AGI 12
DEX 13
VIT 7
LUC 5
ドアを開けるなり、顔面アイアンクローで固定し、みぞおちへ二発、そしてアイアンクローを外してフルスイングのアッパーという壮絶なコンボで稲垣が沈黙する。こいつ、本当は槍聖じゃなくて、格闘家なんじゃないかと疑いたくなる。
「うるさくてスマンな……何言っても聞かねえんだ」
「……まあ、気持ちはわかる。だがな……」
「配慮しろ、だろ?」
「そう言うことだ」
言いたいことだけ言うと塚本は去って行った。
はあ、と鈴木は一つため息をつく。あんな美少女がこんな夜更けに自室に来てくれたのに、稲垣に格ゲーばりのコンボを決めて帰っていくだけなんて、寂しすぎるだろ。
「寝るか」
悶絶したままの稲垣をそのままに部屋の明かりを消し、ベッドに潜り込み、そろそろ事態が好転しないかと祈りながら眠りについた。




