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  作者: ひじきとコロッケ
ダンジョンからの脱出
11/55

成長

「うわあ!」


 構えた盾をそのままに身を屈める。ガキン、と盾に剣が打ち付けられ、少しだが盾の先端が地面にめり込んだ。何て威力。筋肉なんてどこにも見当たらない骸骨の癖に。

 ガキン!ガキン!と打ち付けてくるのだが……回り込むとかそう言う発想はないらしい。


「茜、戻れ!」

「うん!」


 盾をしっかり支えながら後退し、穴の中へ。盾でフタをしているのだが、その盾にガンガンと剣を叩き付けてくる。ゆがんだりヒビが入ったりする様子がない辺り、かなり質の良い盾だ。王国の連中はどいつもこいつも(ろく)でなしばかりだが、騎士の装備には感謝しておこう。それに盾を作った職人にも。盾にも職人にも罪はない。

 そして、盾と穴の隙間に棍を突っ込んで……


「おりゃあああ!」


 めちゃくちゃに振り回す。振り回すだけでいい武器とはよく言ったもので、時々バキッバキッと手応えが伝わってくる。

 そうしてめちゃくちゃに棍を振り回すこと数分。ガシャンと言う音がして、盾の向こう側で骸骨が崩れ落ちた。


「か、勝ったぞ……」


 緊張のせいか、疲労のせいか、膝がガクガクと震え、棍を持つ手に力が入らない。かなりの強敵だったが、なんとか勝てた。深呼吸して息を整えてから、盾を少し動かして様子を窺うが、崩れ落ちた骨はピクリとも動かない。そして、中央に転がっている握りこぶし大の魔石。


「でかっ」

「うん……って、これスケルトンウォリアーじゃない?!」

「ああ、そうだね」


 魔石を手にすると「○○の魔石」というのがぼんやりと見えるのだが、確かにスケルトンウォリアーの魔石だ。


「……スケルトンウォリアーの出る階層は……」

「十一層以上……でも、たくさん出るのは十三層以上だったっけ?」

「この穴出てすぐに出会うってのは……たくさん出るタイプだよな……」


 十三層以上か……かなりきついな。ん?待てよ?


 村田幹隆

 狐巫女 レベル11 (72/110)

 HP 73/120

 MP 9/120

 STR  12

 INT  12

 AGI  12

 DEX  12

 VIT  12

 LUC  12


 マジか……だが……


「茜、大事な話がある」

「な、何?」


 幹隆はゆっくりと自分のステータスを読み上げた。ゆっくりと、丁寧に。


「何それ……」


 そして続いて、狐火の説明。スケルトンウォリアーは経験値二百。そこに狐火二個。そこから導き出される幹隆の獲得経験値。


「ミキくん……それ、本当なの?」

「茜に嘘を言うと思うか?しかもこの状況で」

「で、でも……」

「今まではちょっとだけ疑ってたんだけど……今のレベルアップで、こう……何て言うか。強くなったって感じがしたんだ。レベルアップでステータスが上がる。そしてそれが強さとして実感できた。いつ話そうか迷ってたんだけど、今かなって」

「はあ……」

「仮に……そう、仮にここが十三層だったとしよう」

「うん」

「十三層に出る魔物は言うまでも無くゴブリンなんかの比じゃない。今のスケルトンウォリアーみたいなのがゴロゴロ出るんだろ?」

「そうね。層が深いほど魔物が強くなる、ダンジョンの基本ね」

「だが、今みたいな方法でなんとか勝てる」

「うん」

「そして、勝てば……俺ならすぐにレベルが上がる。すぐにここの魔物に後れを取らない強さになれる」

「でも……」

「危ないってのは百も承知。だけど、ずっとここにいるのは無理だろ?絶対大丈夫とは言い切れないけど、一対一を厳守して、ここの穴に誘い込んで、盾で塞いで叩きまくる。これで少しずつレベルを上げていく。時間はかかるだろうけど、慌てず慎重に外を目指そう」

「うん……そうね……そうよね」

「頑張ろう、茜」

「うん!」


 少しだが茜に笑顔が戻った。


 が、すぐに真顔になる。


「……と言うことでミキくん」

「ん?」

「正座」

「はい?」

「せ・い・ざ」

「は、はい!」


 有無を言わさぬ圧力に正座をしてしまう幹隆。


「さて、ミキくん……」

「な、何でしょうか?」

「もう少し早く教えて欲しかったなーって」

「え、えと……あの……その、ですね……」

「そもそも、私たちよりもレベルアップに必要な経験値が……」

「えと……」

「いくつだっけ?」

「ひゃ……」

「ひゃ?」

「百分の一です……」

「まあ!百分の一!」

「はい……」

「で?狐火があると……」

「あ、あの……?」

「あると?」

「じゅ……」

「じゅ?」

「十%……増えます」

「まあ!お得ねえ?」

「はい……」

「それから……」

「え、えと……」

「レベルが上がると……何でしたっけ?」

「ス、ス……」

「ス?」

「ステータスが全部上がります」

「あらま!何て素敵!」

「……」


 そして茜がジト目で幹隆を見る。


「この見た目の可愛らしさに!」

「え?」


 頬を指でつつかれる。


「モフモフ属性が付いて!」

「あ、あはは」


 耳をプニプニとつままれる。


「その上、この成長チート!」

「あの……茜さん、目つきが怖いんですけど」

「もう、辛抱たまらん!」

「待て待て待て!」


 ル○ンダイブしかけたところをなんとか思いとどまらせる。


「言いたいことは何となくわかったけど、ここで無駄な体力を使うのは止めよう、な?」

「ええ、そうね」

「ん?」

「外に出たらじっくりと」

「え?」

「そのためならなんだってするわ!」


 まあ、人間というのは目標があると頑張れる生き物なので、それはそれでいいか、と諦めることにした。外に出られたら嬉しいのは幹隆も同じ。それに茜なら少しは手加減……してくれそうにないな、あの目つきは。と言うか、あのワキワキと動いている手指は……見なかったことにしよう。


 盾を構えながら穴を出る。よし、何もいない。ゆっくりと歩みを進める。現状、この層がどこかわからない以上、警戒は怠らない。あのスケルトンウォリアーは十一層以上で確認されているが、そもそも十五層までしか踏破されていないこのダンジョンでは現在の階層を推測するための参考にはならない。


 少し歩くとT字路になっていたので、右側に進むことにした。ただ、後ろもよく確認しなければならない。この状況で挟み撃ちは絶対に避けたい。

 一歩、二歩、三歩目を踏み出そうとしたところで、前方から足音が聞こえた。ガシャ、ガシャと音をさせながらやって来たのは、またしてもスケルトンウォリアーだった。盾を構えつつ後退、慎重に誘導しながら戻り、茜はそのまま穴の中へ転がり込む。幹隆もそれに続き、盾でフタをする。と同時に、ガンッと盾を打ち付ける音がした。


「よし、誘導成功」

「私も少し頑張る!」


 さすがにこの位置では弓は使いづらいので、幹隆が背負っていた剣を抜き、茜が構える。二人は一度顔を見合わせ、うなずき合うと、盾の隙間に武器を突っ込み、めちゃくちゃに振り回した。


 なんとか倒し終えると、魔石を回収。これさえ回収してしまえば、実は倒せてませんでしたという事故が防げる。念のため、お互いに怪我がないことを確認する。


「二人で協力すれば、勝てる!……と言いたいところだけど、これってこの盾が優秀なんだよな」

「うん」


 あれだけ剣でガンガン叩かれていたというのにキズ一つ無い。もっとこう言うのをCグループといえども勇者候補に回すべきでは無いかと思うのだが、今更言ってもどうにもならない。この盾を使えるという幸運に感謝しよう。


 装備を調え直してから通路へ。しばらく歩いて何もいなかったら戻り、反対側の通路へ。穴からあまり遠くまで行かないように注意しながら。慎重になりすぎて困る事なんて何もないのだから。


 誘導して、倒す。誘導して、倒す。スケルトンウォリアーとの戦闘を数回繰り返したところで、二人は一つの確信を得た。


「やっぱり、十三層以上だな」

「うん……」


 遭遇頻度が高すぎる事を考えても、ここはスケルトンウォリアーが出現し始める十一層ではなく、よく見られるようになる十三層以上だ。


「……頑張ろう」

「うん」


 しかし、さすがに疲れてきたので少し休憩。


 村田幹隆

 狐巫女 レベル18 (30/180)

 HP 121/190

 MP 8/190

 STR  19

 INT  19

 AGI  19

 DEX  19

 VIT  19

 LUC  19


 川合茜

 ハーフエルフ・盗賊 レベル1 (233/1000)

 HP 61/88

 MP 102/102

 STR  5

 INT  6

 AGI  19

 DEX  18

 VIT  4

 LUC  8


 幹隆のレベルアップは極めて順調。この調子ならあと数回戦うだけで、スケルトンウォリアーと一対一でも戦えそうだ。もちろん、茜を危険にさらすことになるからやらないが。


「……」

「まあ……しょうが無いよね」


 さすがに腹が減っては、と言うことで騎士が持っていた保存食を出してみたのだが、カ○リーメイトっぽい物が四個入っていただけ。まあ、日帰りなのでそんなモンだろう。一個ずつ口にして、二個残しておく。わずかな甘みのおかげで、少しだけ力がわいてきた……気がする。


「よし、行こう」

「うん」


 少しの休憩の後、お互いの体調を確認して立ち上がる。言うまでも無く腹ペコだが、こればっかりはどうしようもないのだ。

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