第1部 3
「うー、アンジェリーナ姉さまはいつも意地悪ばっかり!わらわを捕まえていじめるためにここまで追って来たに違いないんじゃ!姉さまなんて嫌いじゃー!」
姫さまはハダカデバネズミの短い脚で地団駄を踏んでいますが、アンジェリーナ姫様はパラダイス姫様を心配してわざわざこんな隣国まで危険を承知で探しに来てくださったんじゃないですか。たぶん不法入国で。それにアンジェリーナ姫様がお小言をいうのは姫さまが普段からだらしがないからですよ。姫さまたちのお母さまが他界されてからアンジェリーナ姫さまがお母さまの代わりに姫さまを大事にお世話して下さっているからあんなにお小言をいっているんじゃないですか。姫さまももう十七歳なんですからもう少ししっかりしてくださいよ。そうでないとわたくしにとばっちりが来るんですから。はあ・・・。
ともかく、アンジェリーナ姫さまとゲッツ様はわたくしたちをハダカデバネズミにした犯人ではないということですね。そりゃそうですよね、面倒くさいだけで何の得もないんですから。
「今の状況ではハダカデバネズミのままで、元の姿に戻るのは難しそうじゃのう。なんたって犯人が分からんからな。それでもわらわは王子様の顔を一目見たいんじゃ。イケメンだったら即プロポーズするからな!ようし舞踏会へレッツゴー二匹じゃ!」
「止めてくださいよ!この姿のままどうやって舞踏会に行くというんですか?たとえ王子様に会えたとしても駆除されてしまうのがオチですよ!それにこんな小さな姿でここから5キロメートル以上も離れている王城までどうやって行くんです?」
「クルス、いいところに気がついたな!今の姿はハダカデバネズミじゃからな。よし、土を掘って地下を行くか!わらわはハダカデバネズミの習性には詳しいからな!あいつらは地下に穴を掘って暮らしているから、土を掘るためにこの出っ歯があるのじゃ。どうじゃ博学じゃろう!」
「だから5キロも穴掘ってたら何年かかると思ってるんですか?何年もこの姿のままでいるつもりですか?ネズミなんて寿命が短いんですから、たどり着く前に死んじゃいますよ」
「ククク、クルス君甘いね!風雲堂の甘味三十倍どら焼きよりも甘いね、チミ!ハダカデバネズミは寿命が三十年以上あるのじゃ!どうじゃ、完璧な計画じゃろう!」
「姫さまは三十年もこの姿のままでいるおつもりですか?王子様がいくらイケメンでも三十年お年を取ってしまったら、おじさんになっちゃいますよ。たとえナイスミドルになったとしても、そのまえに誰かと結婚してしまいますよ」
「そうじゃった!あまり悠長なことは言ってられないじゃな!クルス、今すぐなんとかせい!」
「なんとかせい、とおっしゃられても・・・・」
そこへまたドアが開きました。アンジェリーナ姫様たちが戻って来られたのですか?
今度は頭の上から足の先まで黒ずくめの格好をしたやたら太った男性が一人入ってきました。全身タイツですか?無茶苦茶ムチムチですか?またもや変な人ですか?それともわたくしたちをハダカデバネズミにした犯人ですか?
「うーむ、ここにウエスト王国のパラダイス姫が来たという情報があったんだが?服だけでもぬけの殻だな。服を脱いでお風呂でも行ったのか?お風呂はどこだ?覗きに行くか?いやパラダイス姫の体は貧相だということだから覗きはやめておこう。ぺったんこに興味ないからな。ちょっとまてよ、一緒にいるはずの侍女はボインボインの豊満と聞いてるな。これは是が非でも覗きに行かねば!ぐふふ!」
「なんじゃこいつは!わらわのナイスバディを愚弄するか!ええい成敗してやる!」
「姫さま、おやめください!見つかっちゃいますよ!この男何者かわからないんですから危険ですよ!」
「パラダイス姫を誘拐するか、殺害して、サウス帝国のせいにする。あとはサウス帝国の王子も殺害してウエスト王国のせいにする。これでまた戦争に逆戻りだ。戦争を止められて武器商人や奴隷商人は困っているからな。なんとかして武器を大量に使ってもらわないとな!それにしてもどこ行ったんだろう?ハダカで出かけるとは噂通りのおバカな王女だな。さて、これからどうしよう?ん?なにか歌声が聞こえてくるぞ?見つかるとことだな。一旦逃げておくか」
やたら独り言の多い暗殺者はそう言い残すとすぐに部屋から出て行きました。足音がすると言うことはまた次の来訪者ですか?わたくしと姫さまがお忍びでサウス帝国に来てたのがバレバレだったじゃないですか!