第1部 1
タイトルでデ〇ズニーのプリンセスっぽいお話と期待された方、ごめんなさい。
「姫さま!だめですわ!ああん、おやめください!」
わたくしの切ない悲鳴など無視して、姫さまはわたくしの裸の胸を揉みしだこうと迫ってきます。
「げへへ、よいではないか、よいではないか。くっそう、クルスはハダカデバネズミになっても豊満で!モミモミしてやる!げっへっへ!クルスはこういうの好きじゃろう?」
わたくしと姫さまは悪い魔法使い(かなにか?)によってハダカデバネズミにされてしまったのです。姿も大きさもハダカデバネズミサイズで、名前の通り当然ハダカなのです!姫さまはいつものようにわたくしの背後から忍び寄ってわたくしに意地悪をするのです!もう、本当におやめください!今はそんなことしている場合じゃないでしょ!
ハダカデバネズミってご存知ですか?おそらくキモイ動物ランキングでは堂々のトップスリーに絶対に入ると思われる、ピンク色で毛が生えて無くてしわくちゃの、ネズミの大きさの太いソーセージのような。そこに不釣り合いの細い手足が付いていて。目がちっちゃくて、上下二本づつの出っ歯が生えているのです!きゃー!
わたくし幼い頃にハダカデバネズミの絵本をはじめて見たときはあまりの衝撃で、その晩はハダカデバネズミの群れに追いかけまわされる悪夢を見てしまったほどなのです。それ以降はわたくしのトラウマとなってしまったハダカデバネズミ。まさか自分がそのハダカデバネズミにされてしまうなんて!一部ではキモ可愛いと愛好家がいるとの噂もありますが、やはり無理です!この肌のしわしわの感じが無理です!セイウチと同じように生きたハムが動いているみたいで気持ち悪いのです!ハダカデバネズミさん、ごめんなさい!ごめんなさい!
一方の姫さま、パラダイス姫さまはいつもの通り能天気でいらっしゃいます。
なにを思ったのか冒頭のようにわたくしの胸を揉もうとまさぐってくるのです!
でもわたくしの体も姫さまのお体も同じようにハダカデバネズミになっているので、ただのしわしわの物体なのです。そんなのを揉んでなにが楽しいのでしょうか?この人には心配事とか絶望感とかといったネガな感情は一切ないのでしょうか?今が楽しければそれでいいんでしょうか?
遅くなりましたがここで自己紹介を。
わたくしパラダイス姫さま付き侍女のクルスと申します。姫さまが幼いころからずっとお世話をさせて頂いております。
人間であった頃のわたくしの容貌は取り立てて言うほどのこともない平々凡々な顔立ちで人には不幸そうと言われます。髪は銀色のロング、体型は・・・、姫さまがおっしゃるには豊満とのことで・・・。
ふ、太っているわけではございませんよ!胸の所だけ脂肪がつきすぎてしまっただけなのですよ!
ちなみにハダカデバネズミにされてしまったのはつい十分ほど前なのですが、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか・・・。
ああ、パラダイス姫さまのご紹介を忘れていましたね。ええと、なんと言えばいいのでしょうか。もう今さらつくろわなくてもいいですね。ぶっちゃけで性格を一言で言うと『ゲスい系』?とにかく人の嫌がることが好きで、下ネタ好きで、エロスが好きで、見栄っ張りで、短気で、乱暴で、勉強嫌いで、遊ぶことしか考えてなくて、オヤジギャグ好きで、イケメンや美少年をこよなく愛するという。とにかく面倒くさいお人なのです。わたくし昔から姫さまには振り回されっぱなしで!
姫さまのご容姿?髪は黒いおかっぱで、目鼻立ちはぱっちりとお可愛いのですが、少し釣り目の勝気な感じですかね?背が低くて体型はスリムでいらっしゃいます。年齢?わたくしと同じ十七歳でございます。王国の王族専用のハイスクールに通っていますのよ。
わたくしが思うに、わたくしたちがハダカデバネズミに変えられてしまったのは姫さまの縁談に関係がありそうですね。
わたくしの住むウエスト王国と隣国のサウス帝国は長い間戦争をしてまいりました。両国とも戦乱つづきで国民も王族、貴族も疲弊しきって、長年の交渉の末ようやく平和への道筋ができてきたのです。その一つがウエスト王国の第二王女であらせられるパラダイス姫さまとサウス帝国のマッシュ・デ・ポテト王子様の結婚なのです。
しかしそれをよく思わない勢力によって二人の接近は散々邪魔をされてきました。例えば靴に画びょうを入れられるとか、傘を隠されるとか、教科書を隠されるとか、机に落書きされるとか(学校のいじめかー!)
今はまだお二人は一度も出会ったことがありません。当然お互い顔も知らないのですが(この世界は写真とか電話とかスマホとかテレビいう異世界の文明の利器なんてないものですから)、噂では帝国のマッシュ王子は歌とダンスがお上手なイケメンとのことです。
近々にサウス帝国の王城で舞踏会が開催されるとの噂もあって、マッシュ王子の顔を見るチャンス到来なのです。
そこでイケメン好きの姫さまがどうしても一目お顔を見たいと仰せられ、わたくしたちは無理やり国境を越えて(不法入国ともいう)サウス帝国の王城に潜入しようとしているのです。二人ともスパイのようなことはしたことないのに!ああ面倒くさい!
王城近くの安い宿屋に二人で潜伏して、お城に侵入する方法を探っていたある朝、起きてみるとハダカデバネズミに二人とも変えられていたというのが現在の状況ですね。
ああ、宿屋のお部屋の中でよかった!いいえちっともよくはないのですが、なんたってハダカですからね。淑女としてはお肌を見ず知らずの者に見られるわけにはいきませんし、わたくしも憧れのあの方以外に肌を許すつもりはありませんからね。あの方というのは内緒ですからね!特に姫さまに知られたら大変なことになりますからね!親衛隊のゲッツ様なんてことは秘密ですよ!絶対の絶対ですからね!ああ、愛しのゲッツ様!ジョンレノンを陰気にしたような恐いお顔で不愛想でちょっとなにを考えているかわからないところが堪りませんわ!
そうそう、この世界は電気、ガスのようなインフラは完備されてはおらず、当然のことながら飛行機、自動車を駆動するためのガソリンのような化石燃料を使用するテクノロジーも発達していないという設定なのです。
その代わりに魔法というものがございまして。魔法は相手に呪いをかけるために発達したんですね。どこかの世界で、陰陽師と呪術師が相手を呪い殺す戦いを繰り広げるような。平安時代?そんな感じですね。
着てるものは中世ヨーロッパ的な?当然お城もヨーロッパ的なのです。間違っても姫路城とか忍者のような和風のイメージじゃないですよ。
あら、わたくしなにをおっしゃっているのでしょうか?平安時代とか忍者とか口が勝手に・・・。これも敵の呪術によるものでしょうか?だとしたらわたくしの口を操る高等呪術にかけられてしまったということですね!ちなみに呪術で空を飛べたり敵を魔法で攻撃したりなんてことはできませんよ。そんな物理法則を無視したことがらなんて・・・。
え?呪術でハダカデバネズミに変えられるのは質量保存の法則を無視しているんじゃないかって?ファンタジーだから仕方がないのです!と呪術で無理やり言わせられているんですね、きっと。そうに違いありません!