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暗躍の裏側

「……そう。ここ、まだ完成していなかったのね」

 エルティシアが屋敷の壁や床、窓の外をぐるりと見回した。


「だからこんなに殺風景なのね。調度品も何にも無いし、お庭だって随分荒れていたもの」

「……いえ、前はこうじゃなかったんですよ」

 エリオットは苦笑した。


 ヒューゴはこの隠れ家でも、エリオットたちに王都の屋敷と変わらぬ生活をさせようとしてくれていたらしい。始めてエリオットがこの家に足を踏み入れたときは、壁には元々癖のある父の絵が一層奇怪なものに見えてしまう程の立派な絵画がずらりと並び、何かの展覧会をしているのではないかと思うくらい、あちこちに彫刻が林立していた。屋根裏の小部屋でさえも、洒落た天蓋付きのベッドや凝った装飾の施された棚が置いてあり、見た目は言わずもがな、中身の方だっていかにも貴族が住んでいる家といった内装が施されていたのだ。あの制作途中の庭だって、本当はもっと美しく整備されることになっていたはずだろう。


「お金になりそうなものは、全部僕が売り払いました。活動資金のために」


 ミランダたちを陥れるための計画は、何かと費用が嵩んだのだ。ミランダたちに管理されているローゼンベルク家の資産には当然手は出せなかったし、エリオットの私有している財産など無きに等しかった。そんなエリオットが資金を得るには、ここに置いてある家具だの絵画だのを捌くしかなかったのである。ヒューゴがこの屋敷に置いていた調度品は全て高価な品ばかりで、資金を得たいエリオットとしては助かったのだが、それが祟って、買収だの情報収集だのを何度も行う内に、いつの間にか別邸からは物がなくなっていた。


「きっと、お父様は許してくださるわ」

 エルティシアは面白そうに笑った。何の活動資金かを詳しく説明されるまでもなく、エルティシアは全てを察したようだった。ヘレナはどういう解釈をしたのか、神妙な表情になっていた。だが、ふとそれが訝しげなものに変わる。ヘレナは首を傾げながら絵画を見つめた。


「この絵は売らなかったんですか?」

「売れると思う? こんな下手な絵」

 明け透けな言い方に、ヘレナは、なるほどと頷きかけて「そ、そんなことないです!」と慌てて首を振った。


「お上手ですよ。その……こ、個性的? えっと……玄人向けと言いますか……」

「そんなことないわ、下手よ」

 エルティシアが口を挟んだ。しかし、口調に棘は無い。


「だって……ヘレナはもっと綺麗だもの」

 ヘレナが息を呑むのが分かった。エルティシアがヘレナの方に向き直る。そして、頭を下げた。

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