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『宝物』の絵

「この絵のタイトル、『宝物』っていうらしいですよ」

 エリオットが静かに言った。

 

 絵画は肖像画だった。三人の子どもが描かれている。栗色の髪の女の子と、ピンクの髪の女の子が、金髪の男の子を挟んで立っていた。独特なタッチだが、それぞれの特徴をよく捉えているので、誰が描いてあるのか判別することができた。


「私たち、ですか?」

 ヘレナが言った。困惑しているような声だった。


「……お父様の絵だわ」

 エルティシアが呟く。絵画に書かれた署名を見ずとも、父のヒューゴの絵を見慣れた彼女には、すぐに判断がついたようだった。


「どうして? どういうことなの?」

 何故ここに父の絵があるのか、そもそもここはどこなのか、エルティシアは様々な疑問が湧いてきて、上手く問いかけの言葉を発することができないようだった。


「ここは父上が作った別邸です」

 そんな姉の様子を見て、エリオットは一つ一つ説明していくことにした。


「父上は、ここに僕たちを移すつもりだったようですよ。僕たち三人を。……ミランダさんから匿うために」

 

 ヒューゴが自領に別邸を建てたのは、ミランダと再婚した後のことだった。自分の子どもたちに辛く当たる後妻に、彼は頭を悩ませていたのだ。しかし、ミランダの実家はローゼンベルク家と同じく、影響力のある名門である。下手に彼女を追い出したりして今後、両家の間に波風が立つのは避けたかったに違いない。


 だがヒューゴはエリオットとは違い、故意にミランダを陥れて屋敷から追い出す口実を作り出すことは考えなかったらしい。その代わり、彼は子どもたちを隠すことにした。この隠れ家に、自分の二人の子どもともう一人、新しく出来た血の繋がらない娘を迎え入れようとしたのだ。


「でも、この家の完成を見ない内に父上は事故に遭って、帰らぬ人となってしまったんです」


 初めはエリオットも、この家のことをまるで知らなかった。父の死後、その存在を教えてくれたのは、クロウだった。彼は葬儀の後、自室のベッドで一人で泣いていたエリオットを初めて『我が主』と呼び、この家のことを話してくれた。彼は、家はまだ完全には出来上がっていないが、住むのには何の不自由もないと言い、すぐに移り住むか尋ねてきたのだ。


 しかし、エリオットはその問いに首を横に振った。ヒューゴという後ろ盾を失った今、たとえ別邸に移ったとしても、さっさとミランダに見つけ出され、連れ戻されてしまうのが関の山だ。継子との別居などという、新聞社の格好の餌食になりそうな事態をミランダは好まなかっただろうし、エリオットは家の跡取りで、エルティシアはシャルル王子の婚約者である。ローゼンベルク家の未来のために重要な二人を、ミランダが放逐しておくはずがなかった。


 ミランダにとっては、エリオットもエルティシアも、ローゼンベルク家を盛り立てるための便利な道具にすぎなかったのだ。道具だから、いざというときに備えて磨いておくことはすれども、所詮、愛情を向ける対象ではなかったのである。これからも、その認識は変わらないだろうとエリオットは確信していた。


 息苦しい屋敷からの脱出を、エリオットは諦めざるを得なかった。だが、じっと耐え忍んでいるばかりのエリオットではない。父がいなくなったその日から、エリオットは義母の凋落のために動き出したのだ。その内に屋敷にアイリスが住み着くようになり、復讐するべき対象がもう一人増えたのである。

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