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騒動を越えて

 ユリアは事前の約束通りに、エリオットたちが義母と叔母に酷い扱いを受けていたということも、大々的に報じたのだ。「今でも覚えていますよ。『庭に家畜小屋を作ってくださる? あの子豚の新しいお家ですわ』と言われたことを。子豚というのは、エルティシアお嬢様のことですね」「アイリス様はいつも仰っていました。『エリオットは、どうしようもない役立たずだね。婚約者を別の奴に掻っ攫われるなんて、間抜けも良いとこだよ』って。酷いと思いませんか?」などの言葉が、その日の紙面には踊っていた。


 記事の末尾には、ダニエルのコメントも寄せられていた。彼は、悪いのはローゼンベルク家そのものではなく、性根の腐ったミランダとアイリスであり、ローゼンベルク家の者だからと一括りに忌み嫌う現在の風潮に、苦言を呈していたのである。


 長年ローゼンベルク家を目の敵にしてきたクリアリー家の者がこんな発言をしたことに、皆は驚いたようだ。だが、あの密談の場でダニエルに認められたと感じていたエリオットとしては、これはその認識に相違はなかったと確信する言葉となった。その証拠に、学院で顔を合わせたダニエルの息子のニルスも、事件のことで自分に嫌味を言ってくるようなことはなかった。恐らく、悪辣な態度を取ることを父親に禁じられたのだろう。一方、ユリアの息子のエドマンドは、新聞部の部員を連れて、始終エリオットとエルティシアを追いかけまわしていた。


 スミス・ウィークリーが発表した記事はそれだけではなかった。かの新聞は、お得意の虚構と妄想を文章にしたものを、次々と世に出したのだ。その内容は、実は例の強盗の正体はウィリアムであったとか、アイリスが取り調べを免れようと警邏隊員を誘惑したとか、ミランダが抗議の自殺を試みるも未遂に終わったとか、そんなところだった。


 特にウィリアムの件は、強盗がまだ捕まっていなかったこともあって大きく取り沙汰され、実際に警邏隊が動くまでになった。流石のエリオットもこれには危機感を覚え、ユリアに頼んで、新たに「ウィリアムは捜査の手が届く前に国外逃亡した」という旨の記事を出してもらったほどだ。


 おかしなことにその記事が出ると、「ウィリアムが国境を越えるところを見た」と話す目撃者が何人も現れて、警邏隊は完全に徒労に終わる調査に、長い時間を費やすこととなった。


 だが、その目撃者たちは、たとえ件の越境者が女子供であってもウィリアムだったと錯覚してしまうような、思い込みの激しい者たちだったようだ。彼らがスミス・ウィークリーの読み過ぎで、実際には存在しなかったものを、さも見たように誤認したと警邏隊が判断を下したのは、随分と後になってからだった。そして、事件は今度こそ本当に迷宮入りとなった。

 

 スミス・ウィークリーは、それらの経緯についても面白おかしく取り上げた。そんな刺激的な話題をたくさん目の前に並べられたために、人々はあちらこちらへと目移りしてしまい、結果的にローゼンベルク家そのものを悪者扱いする気運は立ち消えとなった。誹謗中傷する文書の類をローゼンベルク家に送りつけようとした者が、友人に「時代遅れ」と揶揄されてしまった、という笑い話まで出てくる始末だ。要するに、退屈した飽きっぽい人々の関心は、他のところへと逸れていったということだ。

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