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手折られた薔薇

「さあ、どうしますか、ミランダさん、アイリスさん」

 エリオットは、玄関ホールで凍り付いている二人に笑いかけた。


「お二人の悪事はすでに発覚しているんですよ。今更、どう言い訳しますか?」

「……そんなものは知りませんわ」

 我に返ったミランダが、エリオットをキッと睨み付ける。


「その新聞に書いてあった手紙など、わたくしは出していません。フォーレスト大臣だって、受け取った覚えが無いと仰るに決まっていますわ」

「それは、身に覚えがあってもそう言うでしょうね」

 エリオットは、訳知り顔で頷いてみせた。


「大臣がどう反応するかは知りませんが、手紙にはローゼンベルク家の公印が押されていたんですよ。ローゼンベルク家からの正式な依頼の証です。そこはどうやっても誤魔化せませんよ?」

「一体どこまでが、あんたの小細工だって言うんだい……?」


 アイリスは今や、エリオットに対して恐怖すら覚えているようだった。とは言え、こんなことになってから脅威を感じ始めるなんて、エリオットからすれば呆れるほど鈍い反応だった。もっと早くに自分の甥の危険性を悟っていれば、このような目に遭わずに済んだかもしれないのに。

 アイリスは、青い顔でエリオットの方を見つめていた。「壊されたはずの公印、出した覚えのない手紙、それに……」と呪詛のように呟く声が聞こえる。だがその独り言は、ホールに大きな靴音を響かせて入って来た男たちによって遮られた。


「お、奥様! アイリス様!」

 正面玄関とは別の入り口から、使用人のライザが泡を食った様子で駆け寄って来た。


「警邏隊の方々が……!」

 ライザから知らせを受けるまでもなく、玄関ホールに突然乗り込んできた者たちの正体に、ミランダもアイリスも気が付いたようだった。二人とも、獰猛な肉食獣に見つかってしまった草食動物のような顔をしていた。


「ミランダ・フォン・ローゼンベルク様とアイリス・フォン・ローゼンベルク様ですね?」

 他の者より一回り格式が高そうな制服に身を包んだ、隊長風の男が尋ねてくる。


「サンドリヨン王国宝飾品品評会の件でお話があります。警邏隊の本部までご同行を願えますか?」

「な、何だって!?」

 アイリスの声は上ずっていた。


「私たちを捕まえるって言うのかい!? 冗談じゃないよ!」

「お話を聞くだけです」

 丁寧だが有無を言わせぬ口調だった。アイリスが顔を引きつらせる。


「失礼いたします」

 警邏隊がミランダたちを取り囲んだ。二人とも貴族なので、流石に強引に拘束されることはないようだが、大柄の男たちに四方を囲まれるのは、さぞや胃の縮むような思いをするだろうとエリオットは思った。

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