黒に交われば……
――大丈夫ですよ。こんな美味しい話を聞かせてもらったのに、エリオットさんを裏切ったりしませんから。
ユリアは自信満々に頷いて、エリオットの顔を見ながら、「本当ですよ?」と念を押した。日頃の行いのせいなのか、信用されていないと思ったらしい。
――要するに、悪者をミランダさんとアイリスさんにしてしまえば良い訳でしょう? あの二人を徹底的に扱き下ろして、エリオットさんのことは、悪い義母と叔母にいじめられていた、可愛そうな令息ということにしますから。そうすれば、皆の同情心も買えますよ。エリオットさんはローゼンベルク家の次期当主ですし、これで、家名に残る傷も最小限で済みますよね?
ユリアは、人々の印象を操作するのに慣れ切っているようだった。意地悪な義母と叔母にいびられていた過去を持つ、貴族家の当主――逆境を乗り越えた、健気な若者という訳だ。エリオットの実母のカサンドラも、かつて悲劇のヒロインに価値を見出していたようだし、自分も悲劇のヒーローになってみるのも悪くはないのかもしれない。「構いませんよ」とエリオットは返した。続いて、ダニエルの方を見る。
――スミスさんさえも了承したのに、まさかあなたが首を横に振るなんてことは……。
――何だ? 私も口車に乗せる気か?
エリオットが、先程ハリスを言い包めたようとしたことを言っているのだろう。だが、ダニエルは、いつもの嫌味な口調ではなかった。
――ローゼンベルク家を潰す絶好の機会だが……仕方ないな。約束しよう。君の家の者が犯した罪を材料に、ローゼンベルク家を攻撃したりしない、と。
充分な言葉だった。エリオットは「感謝します」と礼をした。
――……という訳です。僕のことは心配いりませよ。
エリオットは、改めてハリスに向き直った。ハリスがゴクリと息を呑むのが分かる。
――どうします、ノストルダムさん。僕たちに協力して、大臣の地位を手に入れますか?
一連の流れを見ていたハリスは、意を決したようだった。と言うよりも、真っ黒なこの場の空気に毒されたのかもしれない。呆けたような顔になって、「ぜひとも」と掠れた声で囁いた。
――決まりですね。
エリオットは、悪戯っぽく緑の瞳を輝かせながら頷いた。




