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悪だくみは悪役令息の嗜みです

――それでは、簡単に筋書をご説明します。まずノストルダムさんが、フォーレスト大臣が票の集計時に、不正を行ったという証拠を見つけます。

――ちょ、ちょっと待って?

 エリオットの話す内容を聞き咎めたハリスは、自分が最初に名指しされたという衝撃も吹き飛んでしまったようだ。


――まだ票の開示は行われていないよ? なのにどうして、大臣が不正を行ったなんて分かるの?

――分かりますよ。そうなるように、僕たちがこれから仕組むんですから。

 まさかの発言だったらしく、ハリスはぎょっとなった。彼は人が好いのだ。ダニエルは眉一つ動かしていないし、ユリアなど目を輝かせているというのに。


――ノストルダムさんは、その証拠を持って、品評会の公正実行委員会辺りにでも行ってください。そしてその後、スミス新聞社で取材を受けます。もちろん、大臣の不正の件を話してくださいね。

――次はそのインタビューを、うちのスミス・ウィークリーが一面に載せるのですね!

 流石にユリアは話が早かった。舌なめずりをしながら相槌を打つ。


――名門貴族の裏の顔……。素晴らしいです! 最高のネタですよ、本当に。記事のタイトルは『偽りの王者! 真っ赤な薔薇の真っ赤な嘘!』とでもしておきましょうか。……いいえ。『嘘で塗り固められた真っ赤な薔薇』の方が良いかしら。ね、あなた、どうお思いになります?

――二番目の方が良いんじゃないか。

 体を揺らして興奮するユリアに、ダニエルは心底どうでも良さそうに返事した。エリオットは構わずに続きを話す。


――ノストルダムさんが見つける不正の証拠は、得票数の改ざんについてと、ローゼンベルク家からの収賄についてです。それと、ノストルダムさん以外にも、新聞にインタビューを載せてほしい人がいます。

――あら、どなた?

 ユリアは興味深そうに尋ねてくる。エリオットは「ウィリアムという男の人です」と返した。


――当主代理の義妹の元愛人ですね。

 過去にウィリアムのことを記事に書いた経験があるからなのか、エリオットが説明するまでもなく、ユリアはすぐに答えを返した。どうやら彼女はゴシップに関しては、抜群の記憶力を持っているらしい。


――ウィリアムさんは、どんなお話をしてくださるのですか?

――今回の計画には、アイリスさんも関わっていたということです。あの人のことですから、買収はミランダさんの独断で行われて、自分は何も知らないと白を切り通すに決まっていますからね。ついでに、大臣だけでなく、審査員たちも抱き込もうとしたということも話させましょう。……あっ、審査員を買収する話の方は、でっち上げではありませんよ。本当にあの人たちが画策していたことです。


 ミランダは自分たちの密談を盗み聞きされたことで、贈賄がエリオットの知るところとなったと思ったようだったが、それは間違いだ。ずっと前からミランダたちの身辺を探っていたエリオットは、あの話を聞かずとも、そんなことは前から把握していたのである。


 最初は、スミス新聞社に匿名の手紙でも送ってやろうと思っていたのだが、運良く、ウィリアムというまたとない証人を確保することができたので、彼を利用することにしたのだった。ローゼンベルク家にとって不都合な秘密を知る者を野放しにしておくなんて、まったくアイリスもミランダも迂闊なことをしたものだ。


 アイリスに捨てられたウィリアムは、王都の路地裏で世にも哀れな生活をしていた。そのため、クロウが鼻薬を嗅がせてやると、彼はあっさりと元恋人を裏切る決断をしてくれたのだ。

 しかし、そんな口の軽い人物は、今後は邪魔になるだけだ。事が済んだらクロウに適当に処分してもらおうと、エリオットは考えていた。

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