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取引

――こうして人を呼びつけておいた以上、この子は一から十まで考えてあるに決まっている。そんなことよりも、私は先に聞いておきたいことがある。君は私たちに頼みごとをしているのではなくて、取引を持ち掛けているんだろう? この計画によって我々が得られるもの、そしてその見返りに君が望むものを教えてもらおうか。

 

 三人の中で、一番会う約束を取り付けるのに苦労したのがダニエルだ。ライバル家の者からの呼び出しに、彼がそう簡単に応じるはずもないからである。そのためエリオットは、ダニエルにだけは、おぼろげな計画の全容を伝えていた。そうすることで、やっとこうして面会に漕ぎ着けることができたのだ。だが、まだ詳しい話はしていなかった。


――まずは見返りについてですが……。

 エリオットはゆっくりと切り出した。


――ノストルダムさんには特に何も。

 エリオットは、ハリスに視線を向けながら言った。口を開けてダニエルの方を見ていたハリスが、我に返ったような表情になる。


――スミスさんとクリアリーさんにも大した要求はありません。あえて言うなら、今後は、あまり突っ掛かってこないでくださいね、ということくらいでしょうか。

――……無欲なことだな。

 ダニエルが目を細めた。端正な顔に、疑いの影が落ちている。何か裏があると思っているようだ。エリオットは彼の視線を受け流すように、「そんなことありませんよ」とかぶりを振った。


――あなた、嫌味ですから。僕の妻に対してチクチク言われたり、変な噂を流されたりしたら、困るんですよ。これは、僕にとっては重要なことなんです。それから姉上も……。


――妻? 今、妻と仰いました?

 エリオットの話が終わらない内に、ユリアが割り込んできた。その目が、アイリスのコレクションの宝石よろしくキラキラと光っている。


――やはり、あの方ですか? ヘレナ・フレミングさん。ご結婚はいつになりますか? どんな家庭を築いていきたいと考えていますか?

――そういうのに答えるのが面倒だから、今後はあまり構わないでくださいと言っているんですよ。

 エリオットはピシャリと言った。


――とにかく、平民と結婚するには、それなりに地ならしが必要なんですよ。不安の芽は、少しでも摘んでおかないと。後は姉上についてですが……。

――やはり、お父様の失敗からの教訓ですか?

 懲りずにユリアがインタビュー口調で尋ねてくる。今回もエリオットの言葉は、途中で遮られた。


――お父様は再婚されて、随分苦労なさったとか。当時のことについて、何か一言もらえますか?

――誰かこの女を摘み出せ。

 ダニエルがイライラしながら言った。


――その程度なら、考えてやっても良い。それで、我々が得る利益の方は?

 ダニエルもユリアとは別の意味で、エリオットの話を皆まで聞かずとも良いと判断したようだった。それでも、『約束する』ではなく『考えてやっても良い』と言っているところに、彼の用心深さが透けて見えるようだ。エリオットは苦笑いしつつも、「それは話を聞いていれば分かると思いますよ」と返した。


――それなら、早く計画を聞かせてもらおう。

 再びユリアが話の腰を折らない内に、ダニエルが促してきた。「分かりました」と言って、エリオットは三人に順番に視線を滑らせた。その目が最後に行き着いたのは、ハリスのところだった。エリオットと視線が絡むと、彼はギクリと身を竦ませた。

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