赤い薔薇と黒い薔薇
「ミランダさんもアイリスさんも、影でこんなことをしていたんですね」
記事を読み終わったエリオットは、大仰に驚いて嘯いた。「ふざけんじゃないよ!」とアイリスは歯を剥き出しにする。
「何だい、このウィリアムの証言は!? 強盗が狂言? 気でも狂ったのかい、あいつは。見つけ出して問い詰めてやろうと思ったら、どこへ行ったか分かりゃしない! あのクズが! よくも逃げてくれたね!」
真っ赤な顔をするアイリスに対して、ミランダは体温のない人形のようだった。春の女神ならぬ氷の女王のような顔で、エリオットを見ている。
「あなたの仕業でしょう?」
ミランダの声は、ぞっとするほど冷たかった。
「去年の夏頃かしら……。聞いていましたわね、わたくしたちの会話を。あなたが、あの男を唆したのではなくて? わたくしたちが審査員を買収したことを記者に話すように、と」
かつてエリオットは、ミランダたちが密談をしている場に偶然居合わせてしまったことがあった。その時彼女たちが話していた内容は、ミランダも言ったように、審査員に賄賂を贈る件についてだった。
それを聞いたエリオットは笑った。いつもの感情の籠らない微笑ではない。愚者たちを嘲笑う、冷笑だった。もう良いだろう。猫を被るのも、そろそろお終いにする時期だ。エリオットは口元を歪めたまま、酷薄な目つきになった。
「あんな話を聞かなくても、そんなこと、とっくの昔から知っていましたよ」
突然のエリオットの様子の変化に、アイリスはぎょっとなり、ミランダは息を呑んだ。まるで、道を歩いていたら、見知らぬ人から突然横面を叩かれたような反応だ。
二人とも、今の今まで、エリオットに完全に頸木をかけた気でいたのだろうか。こうしてエリオットが、いつか獅子身中の虫となる事態なんて、予想もしていなかったに違いない。そう思うと、愚かというよりは、むしろ哀れみすら感じた。だが、幼い頃より燻り続けた復讐の炎は、今更消えることはないのだ。
「僕をあなたたちみたいな小悪党と一緒にしないでもらえますか?」
凶悪という言葉がこれ以上ないほど似合う傲岸な表情で、エリオットは衝撃を受け止めきれないアイリスとミランダを見据えてやった。