表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/65

偽りの王者

『 昨年行われた、サンドリヨン王国宝飾品品評会にて、ローゼンベルク家が悲願の優勝を飾ったことは、読者の方々も鮮明に覚えておられるだろう。しかし本紙は、この勝利が偽りに満ちたものであったという証言を独占的に入手した。


「あれは、私が再来年の王室主催の宴の予定表の草案を、フォーレスト宮内大臣に届けに行ったときのことでした」宮内副大臣のノストルダム氏は語る。


「大臣は不在でしてね。しかし、不用心なことに、執務室に鍵は掛かっていなかったんです。あの人は少々だらしないですからね。私は、待っていればその内帰ってくるだろうかと思って、入室しました。そのときに、机の引き出しの一つが開けっ放しだと気が付いたんです。神の啓示と言いますか何と言いますか、私はその中を見なければならないような気がしたのです。そして……驚きましたよ。そこに置いてあったのは、先月の宝飾品品評会の投票結果だったのですから」


 もちろん、ただの投票結果だというのなら、彼がその後、品評会の公正実行委員会に駆け込むことも無かっただろう。しかしノストルダム氏によると、書類には、明らかに改ざんされた痕跡が見受けられたという。

「宮内大臣は、投票結果を閲覧することができる数少ない人物の一人ですからね。開票が行われる前に、フォーレスト大臣が手を加えたのでしょう」


 なぜフォーレスト大臣は、そのような不正をするに至ったのか。当然浮かんでくるその疑問についてノストルダム氏は、フォーレスト大臣と、ある名門貴族との黒い関係を明かしてくれた。

「実はね、改ざんされた投票結果以外にも、あるものを見つけんたんです。ローゼンベルク家の当主代理からの手紙でした。公印も押してありましたし、間違いありません」


 手紙はすでに実行委員会に証拠として提出してしまった。しかし、ノストルダム氏は、その内容をはっきりと覚えているという。

「この度の宝飾品品評会にて、我がローゼンベルク家が勝利の栄冠を手にするように便宜を図ってくれるのなら、相応の礼はする。まずは前金として、この指輪を受け取ってほしい。潰して売れば、良い値段になるだろう。……そんなことが書いてありましたね」


 ノストルダム氏の言う指輪とは、ローゼンベルク家に代々伝わる家宝のことである。だが、その指輪は、ローゼンベルク家の発表によると、四か月前に屋敷に侵入してきた強盗によって、盗まれたということになっている。そのことに関して、ノストルダム氏は、「本当に強盗なんていたんでしょうか」と疑問を口にする。


「件の指輪も手紙に同封されていたんですよ。あんなに珍しいものは、一度見たら忘れません。間違いなくローゼンベルク家の指輪でした。盗まれていたのなら、大臣の引き出しの中に、そんなものがあるはずがないですよね?」


 疑惑の強盗事件について、本紙はある人物から、詳しい証言を得ることができた。取材に応じてくれたのは、かつてローゼンベルク家に出入りしていた、当主代理のミランダ女史の義妹であるアイリス女史の元恋人、ウィリアム氏だ。


「あの強盗は、アイリスが用意したニセモンさ」ウィリアム氏は、衝撃的な事実を語ってくれた。「何せ相手は宮内大臣だろ? ちっとやそっとの贈り物じゃ、満足しねぇ。だから、家宝の指輪を渡すことにしたって訳さ」


 強盗によってローゼンベルク家が被った損失は、指輪だけでは無かった。強盗は逃亡の際に、ローゼンベルク家の公印を破壊していったのだ。しかし、フォーレスト大臣が受け取った手紙には、失われたはずの公印が押されていた。だが、ウィリアム氏によると、そもそも公印が壊されたということ自体、虚偽の証言なのだという。


「公印なら、ローゼンベルク家の庭に埋めてあるぜ。壊されたなんて大嘘さ。何でそんなことしたかって? そりゃあ、指輪が盗まれたことの目くらましさ。ま、上手くいかなかったけどよ」


 また、贈賄についても、その相手はフォーレスト大臣だけでは無かったらしい。

「宮廷の職人だとか宝石商だとかが、審査員に選ばれてただろ? あいつら、皆ローゼンベルク家からの贈り物をもらってるぜ」


 狂言強盗に多額の賄賂。どうやら名門ローゼンベルク家の輝かしき勝利は、偽りに満ちたものであったようだ。もし、このような不正が無かったとすれば、品評会で優勝していたのは、次点のクリアリー家であっただろう。卑怯な手段で勝利を奪われたことについて、本紙はクリアリー家当主、ダニエル氏に直接話を伺った。


「ローゼンベルク家の犯した過ちは、非常に許しがたいものである」ダニエル氏は憤りを露わにした。


「品評会は、それぞれの作品の出来栄えを競うための場であって、このような密約を持ち込むところではない。近々、他の貴族家から署名を募り、陛下に拝見していただく所存である。その暁には、ローゼンベルク家の当主代理とその義妹殿には、相応しい罰が下るだろう。次回の品評会以降は、このような言語道断な事態が二度と起こらないことを願うばかりだ」


 前当主ヒューゴ氏が亡くなって以来、ローゼンベルク家の栄華は鳴りを潜めたと、もっぱらの噂であった。ミランダ女史とアイリス女史は、その汚名を返上しようとして、今回のような行動に出たのだと考えられる。しかしながらその行いは、かえってローゼンベルク家を凋落に導くものとなりそうだ。』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ