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嵐の前触れ

 例年のごとく、宝飾品品評会の選考結果は、各新聞の一面記事となった。『栄冠は薔薇の上に輝く』『悲願達成! ローゼンベルク家、三年ぶりの優勝』『独占インタビュー ~勝利への軌跡を徹底取材! ~』等の見出しが、あちこちの紙面を飾る。ミランダは、ローゼンベルク家の優勝を報道した新聞を一つ残らず使用人に買いに行かせ、客間や書斎に新しく設置した大きな掲示板の上に張り付けて、嫌でも客人の目に入るようにした。


 アイリスもアイリスで、誰かを屋敷に招待する度に、そのことを話題にしていた。だが彼女の方は、勝利の喜びというよりはむしろ、負けた者たちをからかうことに快感を覚えているようだった。下世話にも、敗者の様子を記録した記事を探してきて、読み返してはほくそ笑んでいると、使用人たちが呆れ顔で陰口を言っていた。


 しばらくは、ローゼンベルク家の中は幸福な空気で満ちていた。優越感に浸っているおかげか、ミランダやアイリスの他者に対する棘のある態度も、多少は和らいだ程だ。それが終わりを告げたのは、結果発表から何日も経って、年が明けた頃の話だった。


 ある寒い冬の夕暮れ、エリオットが学院から帰って来ると、何やら屋敷の前に人だかりができていた。


「来たぞ! ローゼンベルク家の馬車だ!」


 人々に囲まれ、エリオットの乗った馬車は、あっというまに身動きが取れなくなった。彼らは記者のようだった。「何か一言お願いします!」「今回の件についてどう思われますか?」と、外から叫ぶ声が聞こえてくる。


「何の騒ぎだ! 退きなさい!」


 驚いた御者が記者たちを怒鳴りつけたが、彼らは聞く耳を持たなかった。馬車がガタガタと、転倒しそうな程揺れだす。中には無理やりドアを開けようとした者もいるようで、扉が不穏な音を立てて軋んだ。


 少々身の危険を感じ始めたエリオットだったが、やっとのように屋敷から守衛が飛んできた。彼らが体を張って記者たちとの間に壁を作り、馬車はどうにかこうにか再び動けるようになった。敷地の中に入ると、記者たちが押し入って来ない内に、門が素早く閉じられる。それでもなお、彼らは外からこちらを爛々と目を光らせて見ていた。柵の隙間から物欲しげに手を伸ばしている様は、まるでゾンビ映画のワンシーンのようだ。


「お帰りなさいませ」

 屋敷の中に入ると、外の騒ぎなどどこ吹く風とでも言いたげな涼しい顔で、使用人頭のマリーがエリオットを出迎えた。


「お手紙が届いておりますよ」


 マリーが一通の封筒を渡してきた。エリオットがそれを受け取ると、マリーは下がっていく。それと入れ違うように、ミランダとアイリスが足音も荒く、こちらに近づいてきた。


「何をしているのですか!」

 ミランダは真っ先にエリオットが持っている手紙に目を止めると、それをひったくった。


「学院からのお知らせですよ」

 エリオットは平然と答える。ミランダは素早く差出人に目を通した。確かにそこには、聖エリザベート学院の名前が記されていたが、ミランダは手紙を返そうとはしなかった。偽装されたものだと思っているのだろう。サリヴァン家での出来事以来、元々低かったミランダの中のエリオットに対する信用は、がた落ちしていた。


「手紙なんかどうでも良いんだよ」

 アイリスは美しい顔に険を滲ませた。


「外の騒ぎ、あんたも見ただろう」


 アイリスは手に持っていた紙の束を投げつけた。今日の夕刻に出たばかりのスミス・ウィークリーの号外だった。床に落ちた新聞にエリオットが目を遣ると、『偽りの王者! 嘘で塗り固められた真っ赤な薔薇!』という見出しが躍っているのが分かった。


「読む時間くらいはくれてやるよ」

 アイリスは怒り心頭に発していた。エリオットは新聞を手に取る。

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