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 トンプソン家領の街でしばらく時間を潰してから、エリオットたちはサリヴァン家へと帰った。館に着いたとき、門の傍に一台の馬車が止まっているのが目に入ったが、エリオットは特に気に掛けなかった。

 エリオットが、その馬車がローゼンベルク家のものだと思い至ったのは、館の食堂で、ティーカップを傾けているミランダと鉢合わせたときだった。


「あら、やっと帰ってきましたの」


 あんなにたくさんいた弔問客は、ミランダによって一人残らず追い出されてしまったらしい。「おかしな味ですこと」と呟きながら、ミランダがカップをソーサに置く音が、人気のない部屋に冷たく響いた。エリオットは、とっさにヘレナを背中に隠す。

 まったく予期せぬ姿を見止めて、エリオットは動揺していた。しかし、すぐに平静を装って「どうしてここに?」と尋ねる。


「今朝、アイリスさんがお出掛けしたときに、町の辻馬車にあなたによく似た子が乗り込むのを見た気がしたと仰っていましたわ」

 どうやら運が悪かったらしい。ミランダは、つっけんどんとした様子で続ける。


「学院の方に聞くと、あなた方姉弟が今日は登校していないという返事をもらいました。それから、使用人たちに行方を探させましたわ。随分と見つけるまでに時間が掛かりましたけれど」


 恐らく皆、できる限り時間を稼ごうとしてくれたのだろう。しかし、その努力は無駄に終わってしまった。


「わたくしが、どうしてこんな辺鄙なところまでわざわざ足を運んだのか、お分りかしら?」

「新鮮な空気でも吸いたくなりましたか?」

「あなたたちを連れ戻すためですわ!」

 とぼけるエリオットに、ミランダの美しい眉が吊り上がった。


「あなたたちはローゼンベルクの家の者です。サリヴァン家とは、何の関係もありませんわ。そんな無関係な者の葬儀に、当主代理のわたくしの許可も無しに行くなんて、どういうつもりですの?」


 僕の祖母の葬式ですよと、エリオットは心の中で反論した。しかし、そんなことを言えば、ミランダを逆上させてしまうだけだ。ここは穏便に済ませようと思って、エリオットは「そうでしたね」とできるだけ申し訳なさそうな顔を作った。


「すっかり忘れていました。次からは気を付けます」

「次なんてあるとお思いで?」

 ミランダは冷たく吐き捨てた。


「本当に油断も隙もありませんわね。これからは不要な外出は一切認めませんわ」

 ミランダは椅子から立ち上がった。


「わたくしは馬車で待っています。すぐに支度をして、あの子豚と一緒においでなさい」


 ミランダは、もうこんなところにいたくないとばかりに、さっさと食堂から出て行った。去り際に、ヘレナにも刃のような視線を向けておくのも忘れない。

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