事件後日
昨夜の泥棒騒ぎは、早速、翌日の朝刊の一面記事になった。
何種類かの宝石や飾られていた小さな置物などが無くなり、公印が壊されたことがあっという間に皆に知れ渡った。動揺したり、怒ったりするローゼンベルク家の者たちの様子が克明に取り上げられ、サンドリヨン・タイムズの結びには「コソ泥め、見つけたらただじゃおかないよ。豚箱にぶち込んでやる前に、私が半殺しにしてやる」というアイリスのコメントが記される程だった。もっとも、本当に彼女がそんなことを言ったのかは分からないが。
だが、記者たちの興味を最も引きつけたのは、公印の喪失と言うよりはむしろ、ローゼンベルク家に代々伝わる貴重な指輪が盗まれたことのようだった。各紙面は、そのことをセンセーショナルに書き立てた。
「まあ、何だろうね、この記事は!」
アイリスは、怒ってスミス・ウィークリーを投げ捨てた。新聞には、今回の件は、賭け事で作った借金の穴埋めに、ウィリアムが宝石や指輪を質に入れてしまったことを知ったアイリスが、彼の不祥事を隠すためにでっち上げたと記載されていた。
スミス・ウィークリーは、その根拠として、ウィリアムがその夜の内に、ローゼンベルクの屋敷から追い出されたことを挙げている。借金は返してやるから、もう二度とローゼンベルク家の敷居をまたぐなという意味だと、スミス新聞社の記者は解釈したらしい。
この事件はアイリスが仕組んだことではないが、ウィリアムが屋敷から放り出されたのは事実だった。彼の愚鈍さに、アイリスは愛想が尽きたようである。ウィリアムは散々抵抗したが、結局は守衛たちに取り押さえられて、門の向こうに打ち捨てられたのだった。
今回の騒動について好き勝手な推論を述べているのは、スミス・ウィークリーだけではなかった。オートム・デイズなど、宝飾品品評会の最大のライバルを蹴落とそうとした、クリアリー家の差し金だというのだ。
「まったくの事実無根だ!」
学院にまで押しかけて来た記者相手に、クリアリー家の当主の息子、ニルスが怒鳴るのをエリオットは耳にした。彼は、この手の不正が大嫌いなのだ。
この一件のせいでエリオットはしばらくの間、廊下ですれ違う度に、ニルスから険しい視線を向けられることとなってしまった。クリアリー家の陰謀説を流したのはエリオットではないというのに、迷惑な話だ。
だが、それだけではない。エリオット自身も、皆の関心を引き寄せていた。主に、クロウが大げさに巻いた包帯のせいだ。どこからか、強盗が逃げていったのは、エリオットとの決死の格闘の末だとか、そのせいでエリオットが全治一か月の大怪我を負ったとか、ありもしない噂が流れ出したのである。
エルティシアは、事件の翌日には弟が元気に学院に登校していたと知っているはずなのに、エリオットが強盗と刺し違えたという話を半分鵜呑みにしていたし、心配したシャルルは、休み時間になる度にエリオットの教室に様子を見に来た。




