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お見舞い

 短い廊下を渡って、エリオットたちは祖母の部屋に辿り着いた。グラントがノックして「母さん、開けるぞ」と言った。


「どうしたの。もうお薬の時間?」


 意外と元気そうだ。


 それがエリオットの抱いた第一印象だった。確かに記憶にある祖母よりも痩せて髪も肌にも艶はなかったが、ヘッドボードに背を預けて本を読むサラは、そこまで重篤な病を患っているようには見えなかった。エリオットと同じことをエルティシアも思ったのだろう。彼女の硬い表情も幾分か和らぐ。


「母さん、エルティシアとエリオットが来てくれたよ」

 グラントに言われ、サラは初めて本から目を上げた。まあと口を少し開く。


「あら……本当に二人なの?」

「はい、おばあ様」

 エルティシアがすかさずベッド脇に移動して、晴れやかに笑った。


「お見舞いに来ました。大したことなさそうで良かったです」

「あらあら、誰が知らせたのかしら」

 サラは肩を竦めた。


「見ての通りよ。わざわざ来てくれて申し訳ないけれど」

 サラは、次にエリオットの方を向いた。


「エリオットね? ますますお父様に似てきて」

「ありがとうございます」

 エリオットは笑って答える。


 部屋に白衣を着た男性が、助手の女性を連れてやって来た。この領内に住む数少ない医師の一人だ。 医師はエリオットたちに挨拶すると、「大奥様、お薬の時間ですよ」と優しく言った。


「嫌ねえ。あれ、苦いのよ」

 サラの言葉に、助手の女の人がクスクス笑った。行こうかとグラントがエリオットたちを目で促す。


「それではおばあ様、ごきげんよう。帰るときにもう一度挨拶に来ますね」

「また、何か面白い物語を聞かせてください」


 二人は個々に別れを告げ、伯父と一緒に退出した。外では、気を使って入って来なかったヘレナが待っていた。


「昼食はとっていくんだろうな?」

 サラの部屋から遠ざかりながら、グラントが聞いてきた。


「オードリーがお前たちの分も用意しようと張り切っているぞ」

 オードリーはグラントの妻だ。この家には最低限の使用人しか置いていないので、当主の妻といえども台所に立つことも珍しくない。


「ええ、いただいていきます」

 突然の来訪にも関わらず、食事まで用意してくれることに恐縮しながらもエルティシアは頷いた。良いわよね? とばかりにこちらを見てきたので、エリオットはにっこり笑って同意を示した。


「私、これからもこうして時々お見舞いに来ようかしら。だって、あんな風にずっと本を読んでいるだけじゃ、おばあ様も退屈でしょうし」


 エルティシアは、ここに来た時より、ずっとリラックスしているようだった。きっと、伯父が祖母の病状を大げさに手紙に書いたのだと思っているのだろう。グラントは微笑を返しただけで何も言わなかった。エリオットも黙っていた。エリオットは、母のカサンドラも亡くなる前日まで元気そうにしていたと聞いていた。


「食事ができるまでもう少しかかるだろうから、墓参りに行ってやると良い」

 やや間を置いてグラントが言った。


「そうね」

 エルティシアは、はっとなったようだ。祖母のことに夢中で、墓参りなんて思いもつかなかったことにショックを受けたような顔をしている。


「あなたは伯母様を手伝ってあげて」

 エルティシアは、いつもよりかは優しい口調でヘレナに命じた。ヘレナは、通常通り素直に「はい」と応じる。


 ヘレナはグラントの後をついて、台所へと向かった。エリオットは、エルティシアと共に家の外に出る。

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