表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
定時退社の男  作者: 三箱
1/23

「サバの照り焼き」

 ある日のこと。とある近場のスーパーで、私はカートを押しながら生鮮食品売り場を眺めていた。

 理由は簡単。「今日の晩御飯は何にしようか」である。

 私の毎日の課題である。

 人間生きていく上で食事というのは絶対に必要なものである。その食事を何にするか毎回決めなければいけない。所謂生きていくための課題である。

 まあ大袈裟に言っているだけであって、実際そこまで深く考えなくても、独り身である私は気分でご飯は決められるので、気は楽な方ではある。

 いつも買うものは、カートの籠には入れたものの、流石に毎日同じ料理だと飽きてはくる。もう飽きを通り越して慣れてしまう。いや違うな。安心している領域まで達してしまっている。でもそれだと毎日に彩りがなくて話のネタが減る。何の話かというと、会社での会話である。同じ食べ物の話でそろそろ飽きられたから、そろそろ何か変えないと。

 そう朧げに思いながらカートを押していると、ピタっとある場所で目が留まった。

 魚コーナーである。

 最近魚を食べていなかった。というか魚料理は個人的に敷居が高く感じていたせいで敬遠していたのが最たる理由である。その上、家にグリルがないのも相まって。

 だがそろそろ魚を料理するべきではないのかな。


「ん?」


 私は一つの商品を手に取った。 

 塩サバである。

 子供の時の家庭科の授業で鯖の照り焼きをしたなという薄らな記憶が過った。とはいえ記憶が曖昧だから、ポケットからスマホンを取り出して、料理方法を確認する。

 サバの照り焼き……。

 ふむふむ。よし。これに決定。

 何かできそう。そんな感じであった。


 家に帰ってから、すぐにとりかかった。

 魚は加工されて、丁度いいサイズに切られているから、ラップを開くだけで準備完了。

 味付けを小茶碗に醤油と味醂と料理酒をそれぞれ大さじ一杯ずつ混ぜていき、最後に片栗粉を少々混ぜて完了。

 フライパンを火にかけ、薄く油をひく。温まったらサバを皮側から置いて中火で焼いていく。そして何となく焼けたかなというタイミングでひっくり返す。

 いい感じの焼き色に、食欲をそそる香ばしい匂いが広がる。

 ふと白身の横側の焼き色を見るとちょうど色の差が分かったので今度は色を見て判断する。綺麗に白くなったらいいんだろう。たぶん。

 じっとフライパンの横から眺めて、身の全体が白くなったら弱火にする。

 そして先ほど混ぜて作った調味料をかけて、強火にして照りをつける。

 ポコポコと泡を立てながら煮詰まっていく味付け醤油、サバに味が付くようにヘラで掬ってかけたりひっくり返して醤油を染み込ませていく。もうちょい、もうちょいかな。

 醤油の色も濃くなり、サバもいい濃さになって……。そして黒く。


「ああああああ! 焦げたあああああ!」


 気が付いたら照り用の醤油が真っ黒の炭と化していた。黙々と煙まで舞っている

 慌てて火を止めるがもう手遅れ、サバの周りにびっしりとこびり付いた焦げた炭の塊。

 急いでフライパンから救出して、皿に移して、サバの周りの焦げを箸でそぎ落とす。サバの身は大丈夫そうだった。だけど肝心の醤油の部分は炭素化していた。ちょっと食べたけどやっぱり炭だった。

 まあ。サバが無事だからいいか。

 重くなった背中を起こして、焦げがついたサバをテーブルに運んだ。そしてご飯とお茶と納豆を置いた。

 テーブルの前に座ると、納豆をかき混ぜてご飯にかける。そして醤油を少し垂らして、準備は完了した。


「はあ。いただきます」


 ため息交じりのいただきますであった。

 先にサバに箸をつけた。慣れない手つきで白身を一つまみ、そしてパクっと口に含む。サバの少し甘みのある味に、締まった身の柔らかな食感。

 旨めえ。

 これに醤油の味がついていたらなという若干の後悔を噛みしめながら味わう。

 久々に食べた魚は高揚と悔しさが混ざった複雑な形だった。

 そして、ふと思った。


 あー。今日は飲まずにはやってられない。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ