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激しき(!?)魔術師の戦い

作者: まちゃこ


 荒野に風が吹いていた。

 土煙が舞い、枯れ草がかさかさと音を立てている。


 夕暮れ時、四つの影が浮かび上がった。

 向かい合うように立つ二人。それを見守るかのように、それぞれの後ろに二人が控えていた。


 風が吹く。


 たなびくフードの中から、向かい合った二人の声が響いた。

『我が師匠の敵』

 そして、ばさっと二人はフードを脱ぎ捨てた。

「ここで逢ったが、百年目」

「人違いでしょう。私はまだ百年も生きてませんし」

 阿呆鳥が嬉しそうに飛び立つ。

「……形式というものがあろうがっ!」

「それもそうですね」

 二人のその会話に、後ろに控える弟子達は、真剣な面持ちになった。

 再び、一陣の風が向き合う二人の間を吹き抜ける。

「いざっ!勝負!!」

「もとよりっ!」

 間合いを詰める二人。

 その成り行きを見守る弟子達は、ごくりとつばを飲み込んだ。

 そして――――

 突然一人がどこからともなく、ゴザを取り出し、その場に広げた。

「地べたに座るのは体によくない。これ、人間の常識」

「ムッおぬし、できるな」

 そして、もう一人もどこからともなく、ムシロを取り出してその場に広げた。

「そうだ。地べたに座ると腹が冷える」

「チッ」

 そして、申し合わせたように草履を脱ぎ、それぞれの敷物の上に座り込んだ。

『一体何が……?』

 弟子達の呟きは、荒野に吹く風にかき消された。

「見ておれ、我が弟子よっ!これこそが、正当なる呪術師に伝わる秘儀っ!!」

「はいっ」

 もったいぶりながら、懐から藁を取り出すと、ゴザの上へ置いた。

「よぉく見ておくんだっ!我が弟子よ!これぞっ!秘伝中の秘伝っ。正当なる呪術師に引き継がれる技っ」

「はいっ」

 そうして、ムシロの上に粘土を並べ始めた。

「ぬぅ。それはっ」

「おぉう。そのわざはっ」

 にらみ合う二人。


 風が吹いた


「きえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

「とりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

 乾いた荒野に、乾いた声が響く。

 一人は自らの念を込めて藁を編み人形を作っていく。もう一人も自らの念を込めて粘土をこね、

そして、人の形を作っていく。

「はちょぉぉぉぉっっ!!」

「あちゃぁぁぁぁっっ!!」


 風が吹き抜ける。


 二人の弟子達は、真剣にその様子を見守っていた。

 この時までは。


『か、完成じゃっ!』

 二人の声ははもっていた。

 そして、それぞれに作った人形を敷物の上に置いた。

『これは、おぬしじゃ』

 そう言うと、二人は自らが作った人形に向かって攻撃を始めた。

「どうじゃっ!苦しいじゃろっ」

 藁人形の首を絞めて、相手に告げる。

「こっちこそ。腕がもげるようじゃろ」

 粘土で作られた人形の腕を引き千切りながら相手に告げる。


 阿呆鳥が彼方から嬉しそうに舞い戻った。


「し、師匠っ!それが、秘儀なのですか?」

「し…ししょぉ?それが、秘伝っすか?」

 弟子達はそれぞれに顔を引き攣らせて師匠に詰め寄った。

『むろんじゃっ!すばらしかろう。相手に見立てた傀儡への攻撃っ!これこそ、地上最強の技じゃっ!』

『それで、相手へどのような影響が……?』

『あえていうなら精神的苦痛じゃっ!人間、精神が一番もろいのじゃっ!よく覚えておくんじゃっ!!』


 風が吹く。


『……ば、ばかばかしい』

 二人の弟子は、呟いて、自らの師匠の後ろに立った。

『目の前に敵がいるんだったら、素手でもいいからどつきあえぇぇぇぇぇぇっ!!』

 どこからともなく取り出されたスリッパとハリセンでどつき倒された二人は、首があらぬ方向に曲がり、

その後動くことはなかった。

 そして、お互いの傀儡は、首が変な風に折れていた。

「ああっ!人形がっ」

「ま、まさか。本当だったとは」

 師匠の亡骸を飛び越え、放り出されていた人形を抱き上げ、弟子達はにらみ合った。

『今度あった時が貴様の最後だっ』

 そして、二人は旅に出た。

 師匠より預かった技を身につけるために。


 数年後。

 夕暮れ時、四つの影が浮かび上がった。

 向かい合うように立つ二人。それを見守るかのように、それぞれの後ろに二人が控えていた。


 風が吹く。


 たなびくフードの中から、向かい合った二人の声が響いた。

『我が師匠の敵』

 そして、ばさっと二人はフードを脱ぎ捨てた。

「ここで逢ったが、百年目」

「人違いでしょう。私はまだ百年も生きてませんし」

 阿呆鳥が嬉しそうに飛び立つ。

「……形式というものがあろうがっ!」

「それもそうですね」

 二人のその会話に、後ろに控える弟子達は、真剣な面持ちになった。

 再び、一陣の風が向き合う二人の間を吹き抜ける。

「いざっ!勝負!!」

「もとよりっ!」


 こうして、歴史は繰り返される。

 激しき呪術師の戦い。

 それは――――

 永遠に、繰り返される戦い。

 あまりのばかばかしさに止めるものもいない。今でもきっと繰り返されてることだろう。


 【今年の標語】

 荒野でたたずむ人を見たら、声をかけて止めて上げましょう。

  (つーか、私を止めてっ BY作者)


――End


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