表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

第一章 時報がメリーの人

一次創作かつ長編は処女作となります。

あと群像劇にしたけど果たして終わりまで書けるのやら。群像劇だとあらすじの所に主役の名前とか書けないっていう。だってみんな主役だし。

こんな感じのやんわり作者です。

良ければ短編も読んでね!

「いいかい? お前さん達は、望まれて産まれて来たんだ。だからその在り方を、嫌っちゃあいけないよ。

 だぁいじょうぶ。何にも、悪い事なんてありゃせんからね。」



 ***



 坂祝富加さかほぎとみかは足を止めた。キャンパスを出てすぐ、交差は目の前。信号は青を知らせ、三人の友人達は既に歩道の上だ。


「え、何。どしたの?」

「……いや。着信。お母さんから。」


「夕飯を作って置いて下さい」という通知に了解のスタンプを送り、富加はスマホを仕舞った。


「…………よし。ごめん止まって。」

「ルールに従順で流石というか、すればいいのに歩きスマホ。」

「歩道ならしてたよ。けど道路は危ないから。」

「ウンウン、そーゆー所が流石やなぁ!」

「そうかな………あっ、信号が。」

「点滅になっちゃったか。まぁいいよこれくらい。バイト遅れそう!とか、そんなんじゃないしね。」


 申し訳無さそうに肩を狭める富加に、友人達は軽いフォローを入れる。

 その中の一人、阿寺久慈あでらくじは「それじゃあ」とリュックからチョコレートを取り出した。袋には業務用、とデカデカと書かれている。一口サイズのチョコレートが透明な包装の中から芳しい匂いを周囲に漂わせた。


「いい子の富加ちゃんには……これをあげよう。チョコレート!」

「え……なんでそんなの学校に持って来てるの?」

「ヒント、私のバイトは小学生のガキの家庭教師。」

「御褒美かぁ。成程ね。そんなバカでかいの買ってもお釣りが来るのか。じゃあウチらも遠慮無く。」

「あっコラ! アンタらは良いって言ってない!」

「えっ駄目なん?」

「いや良いけど。」


 交差点を前、白昼堂々歩道で何をやっているんだろう。富加は疑問に思ったが、好意に甘んじる事にした。何の変哲もないチョコレートを、友人達がとても美味しそうに食べて行く。それを見て我慢しろと言うのはチョコのカロリーよりも身体に毒だ。


「あの~~。」


 口に含んだ所だった。物を食べて居るのは見て分かるだろう、と言わんばかりに富加は声の主に首を傾げる。


「その、道を教えて欲しくて。」

「お下げ髪だ!?」

「セーラー服や!」

「眼鏡っ娘だッ!」

「「「中々にベタベタだ!」」」

「えっ。」

「…………初対面にそれはレベル高いよ。」


 困惑する彼女を他所に興奮する友人達。富加にも気持ちは分かる容姿だった。セーラ服に、腰まである柔く結われたツインテール。そして赤い縁の眼鏡。オロオロと狼狽える様には如何にも似合っていた。そして片手には白い紙。地図だろうかと富加は思う。


「あぁ、ごめんなごめんな? お詫びにほら、チョコ!」

「いやそれ私の持って来た奴ぅ。」

「えっ駄目なん?」

「いや良いけど。」

「ありがとう、ございます。」

「ほらほら、あんたらのせいで困っちゃってるよー?」

「いやアンタも便乗してたじゃん。」

「何の事かなー?」


 このままでは埒が明かない。そう判断した富加はセーラー服の彼女に本題を始める様に、地図らしき紙と彼女を交互に見て訴えた。


「あっ……と、それでですね! 道を教えて欲しくて!……と、言いますか地図はあるんですけど、現在地が何処だか分からなくて。」

「おっけー。じゃあさ、その地図を見せてよ。」

「はい、これなんですけど。」

「ん? アパートなん?」


 富加の予想通り、地図だったらしい白い紙。覗けば簡素に、道路と目的地の名前、それと電車の駅が書いてある。

 目的地には、八百津やおつアパートと一言。


「会いに行く所なんです、この家の人にーーーー。」



 ***



 はいどーも。

【時報がメリーの人】ことダルイでーす。

 ってまた放送開始直後に人が多い現象……。

 いやさぁ、確かにKAMOとは仲良いよ?

 昔放送に来てくれた事もある。

 でもさ、今の俺は視聴者伸ばそうなんて気が無いんだよ。

 常駐の人とコメで話が出来りゃそれで良い。

 わかる?

 此処はそういう生放送部屋。


 ……ん?

 ガチの初見さんが混じってるっぽい?

【時報がメリーとは?】って……。

 知らずに迷い込む人も居るのか。

 メリーはメリーだよ。

 メリーさん。


 もしもし?

 私、メリーさん。

 今あなたの家の前に居るの。


 そんな電話を掛けて来る奴。

 あなたの後ろに居るのって電話してくる奴。

 俺の場合は、生放送中にそれが来たんだよ。

 メリーさんが。

 何が愉快かって、さぁ。

 その前の生放送が、ひとりかくれんぼだった事だよ。


 視聴者伸ばそうとしてる頃でさ。

 ひとりかくれんぼ生放送をしたんだよ。

 ひとりかくれんぼは分かる?

 詳しい人、コメありがとなぁ。


 ぬいぐるみの中身を米と、自分の爪にする。

 あ、米はコメントじゃない。

 デンプンで出来た方、美味しい奴な。

 切れ目を縫い合わせる。

 赤い糸でぐるぐる巻きにする。

 ぬいぐるみに名前を付ける。


 ここから先は自分で調べてどうぞ。

 試されると怖いから全情報は言わねぇよ。

 そんな訳で俺はぬいぐるみにメリーと名付けた。

 羊のぬいぐるみだったから、メリーさん。

 ひとりかくれんぼは恙無つつがなく終わった。


 次の日。

 俺はメリーをゴミ捨て場に捨てた。

 回収車が持ってく所まで見送った。

 生放送で報告するだろ?

 昨日はありがとうって。

 あのぬいぐるみ捨てて来たよって。

 そしたらコメに紛れてんだよ。


 もしもし?

 私メリーさん。

 今ゴミ捨て場に居るの。


 ノリのいいコメの奴が居るなって。

 視聴者も草を生やしてた。


 もしもし?

 私、メリーさん。

 今ピー駅に居るの。


 駅の名前は自主規制な。

 兎も角、最寄り駅の名前だった。

 特定犯か、ヤバいなって。

 思った程度だった。


 もしもし?

 私、メリーさん。

 今踏切に居るの。


 丁度、近くの踏切の警報機が。

 煩く耳障りにカンカン鳴ってた。

 こいつガチで来る気かよって。


 もしもし?

 私、メリーさん。

 今あなたの家の前に居るの。


 ピンポーン。

 そもそもコメントでもしもし?って。

 変だよなって。

 笑ってた。


 もしもし?

 私、メリーさん。

 今階段を昇ってるの。


 視聴者が見た事ない数になってた。

 俺はモニターだけを見てた。

 階段を踏む音は止んだ。


 もしもし?

 私、メリーさん。

 今あなたの部屋の前に居るの。


 荒れるコメント欄の中から見付けた。

 もうモニターも見れなくなった。


 もしもし?

 私、メリーさん。

 今あなたの


 俺はそこまでコメを読んで。

 生放送をぶった切った。

 眼を閉じたままベッドにダイブして寝た。

 後ろも前も、見られるモンじゃなかった。


 そんな訳で、漸く引っ越して来ました。

 あの家とはおサラバ。

 もう住めるかあんな所。

 その後も生放送したけどさ。

 居るんだよ、ずっと。


 もしもし?

 私、メリーさん。


 だから、【時報がメリーの人】。

 メリーさんコメが出たら放送終了。

 時報。

 さて、この新居でもメリーさんは来るのやら。



 ***



「一応言っとくぜ。この上にな、兄貴が越して来た。今後会うかもな、宜しくしてやってくれ。」

「誰が、誰と会うって?」

「そりゃ、お前と兄貴だよ。」

「冗談……何処の客が、自分のデリへルと兄弟を合わせるってのよ。」

「俺。」

「バぁっかじゃないの。背中のファスナー上げて。」

「ハイハイ。」


 神戸恵那こうどえなは大事な顧客を顎で使いながら笑った。


「因みに、どんなお兄さんなのよ?」

「何処にでも居る、ふっつーな兄貴だけど。趣味が生放送。」

「へぇ。生主って奴?」

「そうだな。でもそのせいで引っ越して来たんだよなぁ。」

「?」


 輪之内下呂わのうちげろは言われた通りにファスナーを上げてから、彼女を背後から抱き締めて首元に顔を埋めた。


「妙な奴に特定された、らしい。

 ……実は兄貴ってのは、義理の兄貴なんだけどさ。俺の兄で居てくれるんだよ。気に掛けてくれる。

 だから俺も、出来る事はしたい。」

「そう………………。

 じゃあ尚の事、顔は合わせられないわね。大事な弟が、法律上は問題無いとしてもよ? 未成年の癖にデリへル雇ってるだなんて知られてどうするのよ。」

「なんだ? それじゃあ、お前がデリへルじゃなかったら顔を合わせてくれた、みたいに聞こえるぜ?」


「それこそ、冗談。」


 恵那は下呂の腕の中からすり抜けて、掴み所の無い笑みを浮かべた。



 ***



 垂井不破たるいふわには秘密があった。けれどそれが、カメラ越しの画面の住人に露呈する事は無い。そもそも不破が、この事実を世間に晒す気がなかった。

「自演乙」のコメントの中に紛れた、見慣れた恐怖。


 もしもし?

 私、メリーさん。


 やっぱりか。駄目なのか。放送を終了したディスプレイを前に、不破は落胆を隠す事無く頭を抱えた。ネットカフェを転々としたり、ビジネスホテルで放送してみたり。不破は思い付く事を全て、やってのけたつもりだった。

 メリーさんを、撒く為の方法を。


 ヴヴヴヴヴヴ。


『ダルイ』の視聴者達は知らない。

 垂井不破だけが知っている。


「…………巫山戯んなよ。」


 不破はメリーさんについて調べていた。しかし何処にも、明確な答えが無い。そもそもメリーさんの電話という怪談系都市伝説が、余韻の恐怖を楽しむ物らしいという結論に至った不破は、泣いた。


「あなたの後ろ」の、その先。


 どのメリーさんを読んでも散々な恐怖を与えてくる癖に、一番気になる所がボヤけているのだ。そこを書いてくれている都市伝説サイトもあったが何処を巡回しても統一感が無く、結末はてんでバラバラ。


 どうしてくれるんだよ。俺は今まさに、メリーさんに襲われようとしているってのに。


 ヴヴヴヴヴヴ。


 視聴者達が知らない秘密。

 それは放送を終わらせた直後から、ずっと鳴り続けるスマホの着信音の事。


 ヴヴヴヴヴヴ。


 その電話に、メリーさんの電話に、出た事は無い。けれど、この新居に越しても駄目だったら、と決めていた事が不破にはあった。もう諦めていたのだ。


 何かあったら弟が、下呂が何とかしてくれる。


 その覚悟は、最早遺言に近く。遺書はとっくの昔にしたためられており、パソコンの隣に置いてある。不破は数多くの見られたくないフォルダも削除していた。部屋中のソレらしき物全てを尊い犠牲として無に帰し。傷を付けたブルーレイディスクをこれでもかとオーバーキルに叩き割った時、不破は再び泣いていた。

 目も当てられない終活である。


 大丈夫だ。万が一にも俺が死んだ時に、恥を掻く様なものは残っていない。

 だから。

 だから!

 俺がメリーさんが何なのか、誰よりも知ってやる!!


 もう不破はヤケクソだった。適う適わないの問題では無く。ただやられっぱなしは性に合わない彼は、メリーさんの被害者という立場では無く、メリーさんを仕留める者としての覚悟を決めていた。

 これから死ぬ覚悟なんてのは、彼にとっては保険でしか無かった。

 ……そう強がるしか無かった。


 ヴヴヴヴヴヴ。


 保険の犠牲になったバキバキのブルーレイディスク……もとい鋭利な刃物を片手に、けたたましくバイブレーションを機能させているスマホを手に取る。


 何も難しい事は無い。着信のアイコンをスライドして、スマホを耳に当てるだけ。けれど最初は礼儀正しく。実はこの時間帯にしか電話して来る事が出来ない知り合いかもしれない、なんて。


「はいもしもし、垂井ですけど。」

「もしもし? 私メリーさん。今あなたの家の前に居るの。」

「おーおォそうかいこのアバズレ!! 御足労御苦労さんだァいつもいつもいつもいつも!

 いいか、今日からはテメーのツラを拝んでやる方針にシフトチェンジしてやったからな! その微塵も抜けやしねぇストーカー属性たたっ斬ってやるッ!」

「えっ、」

「全部全部テメーのせいだッ! そこで大人しく待ってやがれ!! そして頭っから弁償しろや俺のオカズフォルダあアああアアッッ!!!」


 不破は心の底からそう叫びながら、そう遠くない玄関まで大足を踏み、内鍵とU字ロックをスマホを持った手で秒速で解錠、そしてレバーハンドルに手を掛けて扉を開け放った。


「うぎゃ!?」


 果たしてそこにあったのは、今しがた開けた扉で、生き物らしき声を上げる何かを押し退けたという感覚と。


「ッちょ、嘘ぉ!?」


 セーラー服の少女が、銀色に光る何かをこちらに向かって振り被ろうとしていた光景だった。

ぎぶみーレスポンス。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ