3.あなたは今日から私の従者です
目を覚ますとティアが俺の左側に座ってるのが見えた。と言うか上から覗かれていた。
「なんだ?」
「ひゃ! 何でもない何でもない、起きたかなと思って」
どうやら俺は平民用医務室に運ばれているようでティアは俺を看病していたらしい。とは言え傷は魔法で治されているはずなので看病など必要ないのだが。
他のベッドを見ると寝ているのは俺だけでボマルの姿はない。まあ当然か、あいつは貴族だ、貴族用医務室に運ばれたのだからいるわけがないか。
「それで、試合結果はどうなった?」
「アディは従者になることに決まったよ」
「は? 何でだ俺の方が先に倒したろ」
「あー違う違う、私の従者だよ。アディ倒れて棄権したから」
つまりボマルと相討ちになった俺は、その後のティアの試合で指名されたにも関わらず出場することが出来なかったからティアの不戦勝になったと言うのだ。
「ふざけるな、お前の従者になるくらいなら俺は学園を辞める」
「なんでよ……そんなに嫌わなくてもいいじゃない。私アディに嫌われるようなことした? 言ってくれなきゃ分からないよ」
言えるわけがないお前が俺の両親の仇の娘だなんて。言ったとしたら当然こいつは俺を敵視するだろう、何せあり得ない存在なのだから。
「うるさい、お前に言うことなどなにもない」
俺のその言葉にティアは嗚咽を漏らし涙を流す。不快だ、涙を見せれば許されると思っているのか? 俺は絶対にお前の親父を許さないし、お前の血を許さない。師匠の言葉がなければ、俺はお前達を殺している。
「ごめんね、私、先生にアディのこと辞退してくるね」
「待てよ!」
医務室から逃げるように飛び出そうとするティアを俺は呼び止める。一つ気になることがあったからだ。
「俺、なんで早い時期に回復魔法をかけられた?」
「それは……」
普通、回復は貴族が優先される。平民が大怪我をしていてもかすり傷の貴族が優先されるのだ。そして回復魔法使いは貴族用の医務室に常駐しており平民用に来るのはかなり腰が重い。
俺の体は怪我をする前と比べて、それほど違和感もないし疲労感もない。これは出血がそれほどなかったと言うことだ、たぶん刺されてからそれほど時間をかけずに回復されたのだろう。
つまり、俺が倒れてすぐに俺を従者にして準エリートにさせたと言うことだ。準エリートは貴族と同じ扱いを受けるだから回復魔法を生死に関わる俺の方が優先されたわけだ。たぶん俺はティアに借りを作っている。
「……分かった、従者になってもいい。ただし条件が一つある。俺に命令をするな、あと俺のやりたいことしかしないからな」
「二つじゃない。でも良いよ、それでお願いします」
まるで主従が逆転しているが、今の俺ができるこれが最大譲歩だ。
「はぁ、なんで俺なんかにこだわるんだよ、お前」
「へへへ」
ティアは涙を拭き俺に微笑みかける。俺はそれを見るのが嫌で反対側を向いてやり過ごした。
◆◇◆◇◆
あれは入学式の日だった。私は朝早く宿舎を出て徒歩で学園まで向かっていた。そんな私の前を一人の学生が歩いていた。それは魔力量が尋常に高い上に全属性の魔法が使えるが初級しか使えない魔抜けのアディだと気がついた。
普通の魔法使いは2属性が限界で3属性使えれば天才と言われる。当然アディも試験当日話題になった、なにせ全属性が使えるのだ1000年に一人の天才と試験会場は湧いた。しかし蓋を開けてみれば初級しか使えないのだと言うことで逆に嘲笑された。
それでも魔力量と全属性使えると言うことで試験は楽に通過できたそうだ。私もその時に彼に対する興味を失った。その彼が私の前を歩いている、こんな朝早くに。
気になった私は彼の後をつけた。アディは森の中へ入るとズンズンとすごい早さで移動する。私は彼に追い付こうと必死で追いかけたが見失ってしまった。
そして私は森の中で迷子になった。
森を1時間ほどさまよったが出口が分からない。精神的に追い詰められると体力も消耗する。だめだ入学式に事情もなく欠席すればエリートになれなくなる。私はどうしようもなくなりその場でヘタリこんだ。
そんな私の前にアディが現れた。
「こんなところで何してるんだい?」
にこやかに笑う彼に私は怒りを覚えた。誰のせいでこうなったと思ってるのと八つ当たりもした。
事情を察したアディは私を担ぎ上げると森の中をまるでなにもないかのように走り出す。足元は草が生い茂りまともに見えない。しかしアディの足取りは迷いがなく平地と同じように走るのだ、私は唖然とした。こんなこと私でも無理だと。
私たちは入学式が始まる前に学園にたどり着くことができた。だけど服は土で汚れ髪はボサボサこんな格好じゃ入学式に出れない。私が躊躇しているとアディはウオッシュの魔法をかけ制服の汚れを落とし髪を結い直してくれた。私の髪は私が結うよりも綺麗で整っていた。アディは師匠の髪を毎日結ってたからと屈託なく笑う。私はその時恋に落ちた事に気がついた。
私は名前をいってお礼を言った瞬間アディから笑顔が消えた。あの日以来アディから笑顔が消えた、私は見たいのだアディの笑顔が。