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大吾とクエスト①

ルンルン書いてたら長くなってしまった( ゜Д゜)

最後まで読んでくれたらマール教に入れます。



 クエスト、とは。

 冒険者ギルド管轄の元、冒険者が各々のレベルに合った依頼を受注し、目標を達成させる事を目的とするもの。

 クエストは大きく分けて3つのジャンルがある。


 特定モンスターの討伐、捕獲を目的にした『討伐クエスト』

 指定のアイテムを回収する『採集クエスト』

 モンスターの生態や地形、気候などを調査する『調査クエスト』



 討伐クエストが一番冒険者として馴染みがあり、よくゲームなどでも取り上げられていて知ってる人も多いだろう。

 強大なモンスターに怯むことなく立ち向かうその姿は冒険者を目指す少年少女の憧れであり、一攫千金を狙う冒険者の主流でもあって稼ぎはいいがその分危険も伴うハイリスク・ハイリターンのクエスト。

 採集クエストは植物や鉱石などの回収を目的とし、討伐クエストより危険は少なくなるがその分稼ぎも悪いローリスクローリターンなクエスト。

 しかし一部を除いて採集クエストを卑下する冒険者はいない。

 自分たちが使用する武器や防具、アイテムなどは全て採集クエスト受注で回収された植物、鉱石を使っている為だからだ。

 故に採集クエストしか受注しない冒険者が後ろ指指される事はないし、ギルドのトップランカーでも採集専門の冒険者がいる程。

 そして最後に調査クエストだが、これは特殊で、冒険者は本来自分のレベルに合ったクエストを受注するわけだが、ギルドに登録している冒険者には例外なく『ランク』が言い渡される。

 ランクとは、冒険者本来のレベルではなく『冒険者として』のレベルを表すもので、E(駆け出し)~S(最上位)まででランク付けされている。

 冒険者はクエストをこなす事で自分のランクを上げる事が出来、報酬もランクが上がる程に増えていく。

 より高難度のクエストへ挑み名声を得ようとする者や、未知の地に足を踏み入れたい者、希少な鉱石など得たい者など実に様々な理由で冒険者たちは自分のランクを上げていくのだ。

 討伐、採集クエストは自分のランクより一個上のランクまで受ける事が出来る。

 Eランクの冒険者がDランククエストまで受けれるのだ。

 それ以上はいくら同伴するパーティー内に高ランカーがいようとも、そのクエストを受ける事は出来ない。

 身の丈に合ってないモンスターと戦っても命を捨てるようなものだし、高ランクのクエストを見てるだけで報酬を得たところで冒険者としての質が落ちる為である。

 そして調査クエストはこの縛りが一番キツく、自分のランク一つ下のクエストまでしか受ける事は出来ない。

 調査を見てくるだけと勘違いしている冒険者も多いが、実際はそのフィールド全体の監視であったり、他の冒険者が安全にクエストをこなせるかどうか調査する必要があるからだ。

 故に自ランクより余裕ができる一つ下までが調査クエスト範囲。

 しかも誤報防止や怠慢対策でギルド側からの推薦がある者しか受注出来る権利が与えられず、現時点ではAランクの調査クエストを受注することが最高位の冒険者の証となっている。

 討伐クエストのような『華』が無い為、人を選ぶクエストだが、そういう冒険者はそもそも推薦されないようだ。


「まぁ、ダイゴさん、それにマールさんは今日ギルドに登録したばかりのEランカーですから、気長にコツコツ頑張ってくださいね」


 そう言って俺とマールにギルドカードを差し出して来たのはギルドの受付嬢ユリさん。

 茶髪ロングで落ち着いた雰囲気があるギルドでも人気の受付嬢で、今日は非番でいない妹のスズランさんと一緒にギルドを盛り上げている事から『二輪の花』と呼ばれているらしい。

 しかし残念なことにユリさんは――、巨乳であった。

 懇切丁寧にギルドやクエスト、冒険者としての在り方などを教えてくれたユリさんであったが、俺の『看破の神眼』であるちっぱいスカウターが『ちっぱいレベル2』と出ていたので話が半分も入ってこなかった。

 すみませんユリさん。男とはそういうものです。お胸様をチラ見しながら話すんです。

 でもユリさんも悪いんですよ? 俺は何も感じないが、その豊満なスイカバーを受付のテーブルの上に置きながら話してるんですから。

「大吾さん、分かりました?」

 わたしには何が何やら、と隣には見るからに理解してないマールちゃん。ちっぱいレベルは98。化け物かよ(誉め言葉)。

「まぁ大体は。要は低ランクで下積みして、その気があったら上を目指す感じだろ」

「ギルドからすればその気になってほしいんですけど、そんな感じですね」

「ほぇ~、さすがです! 大吾さん!」

 ニコっと笑うユリさんとピカーっと目を輝かせるマール。

 まぁギルドとかクエストとかはゲームで大体の事は知ってたしね。受験勉強もせずに4人でやってたあの頃が懐かしい。皆元気かな。

「ではギルド登録は以上となります。もう今日からでもクエストを受けられますので、クエストボードをご確認下さい」

 ふふっと笑うユリさん。

 なるほど。二輪の花と言われるだけあって綺麗なお顔をなされていた。しかしちっぱいレベルは2だ。

「あれ? 職業っていうか適性判断みたいなのはやらないんですか?」

 俺の知ってる異世界モノは例外なくやってた気がしたけど。水晶みたいなのに手を当てたりしてさ。

「扱う武器は多種多様ですし、そのあたりは冒険者の判断に任せています。私たちギルド側から『あなたには魔法の才能がないから剣で戦って下さい』と言ってしまったばかりに、魔法使いの道を閉ざしてほしくはないですから」

 色々試行錯誤して自分に合った武器を選ぶのも楽しみの一つです、と笑うユリさん。

 言われてみれば確かにその通りだ。

 俺はDEX値が低いので遠距離武器の適性が低いと思っていたが、使えないわけじゃない。

 そりゃあ命のやり取りをする職業で自分に合ってない武器を使う奴はいないだろうが、それを踏まえても冒険者としてのレベルアップをギルドは期待しているのだろう。

「もちろんサポートはしっかりさせてもらいますよ。調査クエストで分かったフィールドの条件とか、モンスターの変化とか」

「なるほど。わかりました」

 そう言って俺たちはクエストボードを確認するため受付を後にした。が、すぐに帰って来た。

「ユリさん早速で悪いんですが、クエストボードの見方がわかりません」

 だって何か色々な種類があるんだもの。

「あっ。ボードの見方を教えていませんでした。ダイゴさん達、クエストを初めて受注されるのに落ち着いてますし、雰囲気が他の駆け出し冒険者と違っていたので」

 ごめんなさい、と両手を合わせるユリさん。俺がちっぱニストでなければ血を吐いていたな。

「ですよねー。今日の大吾さんは昨日以上に頼もしく見えます!」

 そしてキラキラお目目を向けるマール。君はもっと緊張感持とうね? 当事者なんだから。

 でもちっぱい女子に頼りにされるのは悪い気がしないので今はスルーしておきます。

「この額に入ったクエストはなんですか?」

 クエストボードには本来、紙が貼りだされていて冒険者はそれを取って受付に行き受注の手続きをする、らしい。

 しかし俺が指す紙は額に入れられていた。何かめでたいクエストなのかしら。

「このクエストは『随時採集クエスト』ですね」

「随時採集クエストとは」

「随時採集クエストとは、その名の通りいつでも採集してきてくれれば買取ます、といったクエストです。薬草だったり鉄鉱石だったり生肉だったり、冒険者や商人の消耗品はいくらあっても困りませんから」

「なるほど。普通の採集クエストとは違うんですね」

「そうですね。採集クエストは『とりあえずこの量だけ欲しい』という先方からの要望です」

 ふむ。なんとなく分かった(ような気がした)。

「随時採集クエストはクエストって名前になってますが、要はクエスト帰りに薬草などを持って帰ってくれたら買い取りますよっていうことですね」

 随時採集クエストだけを目的として受ける冒険者はいないってことか。

 確かにこの随時採集クエストには『達成報酬』がない。

 通常の討伐クエストなんかは、討伐に成功するとそれに見合った報酬が支払われる上にそのモンスターの素材も手に入れられる。

 採集クエストもそのアイテムを納品する事により買取定価+報酬が支払われる。

 しかしこの随時採集クエストは定価で買い取ってくれるのみ。報酬がないらしい。

 常にあるクエストなので小銭稼ぎ程度、と冒険者も割り切ってるようだ。

「大体は分かりました。な、マール」

 ここで唐突の振り。マールも勉強になっただろう。

「はぇ?」

 ダメな子だった。

 もう見るからにポッカーンしてた。

 マールはダメだ。全然ついてこれていない。俺がしっかりしないと。俺がしっかりマールを支えないと(使命感)。

「ユリさん、ありがとうございました。あとは大丈夫そうなのでちょっと探してみます」

「はい。では決まりましたら受付にクエストの紙を持ってきて下さいね」

 ペコリとお辞儀をして戻るユリさん。お上品であった。

「ユリさんありがとございました!」

 それを受けてお辞儀し返すマールちゃん。天使であった。

「さて、と」

 改めてクエストボードの確認をする。

 ふむふむ。

 クエスト内容が書かれてある紙に怒ってるような顔の赤いスタンプが押してあるのは討伐クエストだな。一目で分かるようにしてあるギルドマジ有能。そして完スルー。

 採集クエストは緑の葉っぱスタンプ。自分以外の人間がいない動物の町でよく見かけるマークだな。俺はタヌキを絶対許さないんだなも。

 そんな中で一枚の採取クエストの紙が目に止まった。




【コーコー鳥の卵の殻納品】


 依頼主:ジョージアおじいさん


 適性ランク:E


 エリア:エメラルドマウンテン


 報酬:土のう袋一袋に対し5パルフェ(5000円)


 内容:コーコー鳥の卵の殻納品


 依頼主コメント:エメマンにいるコーコー鳥の卵の殻は畑の肥料として最適なんじゃ。その殻を持ってきてくれよん。儂足腰弱って登山無理。




 フレンドリーなおっちゃんからの依頼だった。コメントの文章は依頼主が決めるのか人相が分かるな。

 まぁコメントはともかくこのクエストは初陣にはもってこいなのでは。

 一日かけるかもしれないクエスト報酬は最低でも一日の家賃分の5パルフェは欲しいところ。

 その条件はクリアしてるし、クエストの帰りに随時収集クエスト対象のアイテムを回収すれば飯代くらいにはなるだろう。

 探せばもっといい条件のクエストもあるだろうが、多くの冒険者が集うミスニーハの街のクエストボードはそこそこ大きく、大量の紙が貼ってあるので探すだけでも時間がかかりそうだ。

 それにエメラルドマウンテンという場所には初めて行くし、俺もマールもまだ私服なので防具屋に寄って宿に私服を置いてそれからでないと行けない事を考えると時間がギリギリかもしれん。

 初陣でいきなり野営なんてなったらマールと一緒に寝袋に入って寝ないといけない。いいな、それ。野営しようかな。俺がマールを温めるんだ(高揚)。

「マール、このクエストでいいか? コーコー鳥の卵の殻回収ってやつ。報酬5パルフェ」

 マールはマールでクエストボードを眺めていたが、俺が言うとすぐに頷いてくれた。

「わたしは大吾さんに合わせますよ。大吾さんなら間違いないでしょうし」

 全面的に信用してくれてるのは嬉しいけど、とんでもねぇプレッシャーだよマールちゃん。でも信用するなら寝る時結界解いてね。

「何かいいの見つけてたのか?」

「いえいえ。赤いスタンプ可愛いな~と思ってみてただけです」

 全然探してなかった。

 赤いスタンプってお前、討伐クエストのやつじゃん。

 俺は見向きもしなかったけど、よくよく見てみたら確かにちょっと可愛いスタンプだった。でも君の方が可愛いよ。

「じゃあこれで受注してくるな」

「あっ。わたしも行きます」

 トテテと寄ってくるマール。香りが深い。相手の嗅覚を圧倒するマールちゃんマジマルチテン。

 こんなマールが入った寝袋で寝た日には安楽死するかもしれん。

「初クエスト、頑張りましょうね!」

 そして天使の笑顔と激励ボイス。

 既に嗅覚を破壊された俺は、視覚と聴覚も持ってかれた。

 残りの五感は触覚と味覚だがこれはつまり抱き寄せてペロペロしてと遠回しに言ってるのかもしれない。違うかな。

「あぁ。危険なモンスターが出たらマールに抱き着くからよろしく」

「一気に頼り甲斐がなくなりました!」

 マールも緊張してないみたいだし、これなら上手く行きそうだ。…クエストがね?

「ユリさん、お願いします」

 そして受付に戻ってユリさんにクエストの手続きをお願いをする。

 ユリさんはクエストの用紙を受け取ると、一通り内容を確認しポン! とハンコを押してくれた。

「はい。『コーコー鳥の卵の殻納品』、場所はエメラルドマウンテンですね。街の北門から出てもらって1時間程歩いた先にある山です。普通の山と違って青い木が生えてるのが特徴なので遠くからでも分かると思いますよ」

 青い木だと?

 俺の実家でもあるのかな?

 決してエメマンのラベルが青の山だからとかではない。

 この街に来た時はミノタウロスに追いかけられて周りを見る余裕はなかったけど、確かに青い山なら一発で分かりそうだ。

「エメラルドマウンテンの情報ってありますか? 大型モンスターが出る、とか」

「いえ。先日調査クエストを行いましたが、これと言って大きな変化は見られずいつも通りでした。敢えて言うなら『ベルベア』が住みついてるって事ぐらいですかね」




『ベルベア』


 黒の毛皮で全身を覆う熊。大きさは平均2メートル。討伐推奨ランク:D以上。

 一般の熊と違い、熊除けの鈴の音色を好み、寄ってくる。

 大人しい性格をしているが、子育て中のベルベアは気性が荒くなっているので注意が必要。




「討伐クエストじゃないので、見かけても大声をあげたりしないで逃げちゃって大丈夫ですから」

 まだランクの低いうちは無理しないで下さいね、とユリさん。

 まぁ自然が相手だからね。絶対安心安全なクエストなんかゲームの中だけだろう。

 最近はゲームでもオープニングにパッケージモンスターと鉢合わせして完敗し、ランクを上げてリベンジってシナリオが多いもんな。最新のやつキャラメイクだけしかやってないけど。

「むしろ道中の方が危険かもしれないので注意して下さい。昨日なんか街の近くでミノタウロスが目撃されているので」

「知ってます。俺たちも命かながら逃げて来ました」

 そう考えると昨日の今日で街の外に出るのもなかなかのメンタルの強さだな、と自分を褒めたい。正確にはマールに褒められたい。

「今は街の外を冒険者の方に見回りクエストをお願いしているので大丈夫だとは思いますが」

 そう言ってユリさんは土のう袋を三袋出してくれた。

「納品用の土のう袋です。特殊な素材と編み方をしているので破れにくくなっています。コーコー鳥の殻を入れたら踏んで砕いてください」

 体積が減って持ち運ぶのも楽ですよ、と教えてくれた。

 そう言えば一袋換算だから三袋納品すれば15パルフェになるのか。

 一袋がどれ程の重さとして取ってくれるのかは依頼主によるだろうが、多く持ってくるに越したことはない。頑張って集めるか。

「では手続きは以上になります。ダイゴさん、マールさん。お気をつけていってらっしゃい」




  ―――




 武器防具雑貨店『ねぇもんはねぇ』。

 冒険者ギルドから俺たちの泊っている宿屋の丁度中間くらいに位置するなんでも屋だ。そして安定のネーミングセンスで、これでナンシー一家だけではなくこの国全員のネーミングセンスが残念だという結果になった。

 いや? もしかしたらナンシーさんとギルさんの子供が経営してるのかもしれん。

 俺たちはギルドでクエストを受けると、まずは身支度として動きやすい服やサバイバルナイフを買うためにここを訪れた。

「いらっしゃい」

 ドアを開けるとカウンターには俺と同年代くらいの若い男が立っていた。

 金髪碧眼と女の子なら受けてた顔立ちに、細身で中背、笑顔が眩しい好青年だった。店主だろうか?

「ナイフと防具を探しているのですが」

 いくら同年代に見えると言っても初対面の相手にいきなりタメ口は使わない。社会人の常識なのであった。

「あぁ、武器は左側。防具は右側に揃えているから見てみてくれ」

 しかし好青年はタメ口でした。

 まぁ荒くれ者が集う冒険者相手の商売だから気さくな方が受け入れられるのかもな。

「じゃあ見させてもらいます。行こう、マール」

「あ、はい。お邪魔します」

 ペコリと頭を下げて店内に入る俺とマール。

 その時事件が発生した。

「…」

 店主がマールを見て固まってやがる。

 ふっ。それはそうだろう。俺コーデの大天使がいきなり店に来たら魂も抜けるというものよ。

 マールが可愛さで世界を制する日もそう遠くはないのかもしれないな。可愛さを制する者は世界を制す、は異世界でも通用するようだ。

「し、失礼ですが、そのお召し物はご自分で選ばれたのですか?」

 店主はマールに恐る恐る訪ねてきた。

 え? マジでマール狙いなの?

 ダメダメ。この子は俺のだから。誰にもあげない。

「いいえ。こちらの大吾さんに見繕っていただきました」

 ニッコリ返すマールちゃん。

 確かにパジャマはマールに選んで貰ったが、白ワンピと皮サンダルは『ちっぱい女子の普段着はこれだ』と言って俺が選んだものだ。

 店主はマールの答えを受けて俺をキッと睨みつけてきた。

 おぉう。なんなのこの人。俺がお客は神様の国出身だったら大暴れしてるところだぞ。

「……君がこの子の服を選んだ。それは間違いないな?」

 マールに対しては敬語なのに何で俺だけタメ口で何でちょっと上からなんだよ。別にいいけど。

「そうですけど?」

 プルプルプルプルプルプル…と震える店主。

 何か気を悪くするような事でもあったのだろうか。

 いや、待て。これは――、

「気に入った! 彼女のこのプロポーションを最大限引き出させる完璧なワンピース! しかも白! そしてそれを生かす皮サンダル! 君は本当によく分かっている! 素晴らしい! 素晴らしいよ!」

 バンバンと背中を叩いて肩を組んできた。

 えええ。何このフレンドリーな人。異世界人はみんなこんなにフレンドリーなの?

 しかし俺コーデのマールを褒められたので悪い気はしなかった。

「あっ。自己紹介が遅れたな。俺はケイ。ケイ=スズキノだ」

 突っ込まん…! 俺は決して突っ込まんぞ…!

 異世界のネーミングセンスには決して、決して…!

「この店のオーナーをやっている。アンタは?」

 スッと手を出してくる店主、改めケイ。

 何かもう色々吹っ切れたのでなるようにな~れ感覚で握手に応じた。

「俺は大吾。青木大吾だ。職業は、冒険者かな。一応」

「ははっ。一応ってなんだよ。まぁその格好からすると今日なりたてみたいだな」

 部屋着ですからね。冒険者には見えないですわ。

 そしてケイはマールにも握手を求める。

 まぁ握手くらいならいいだろう。俺は束縛しないタイプだからな。あとで石鹸で手を洗わせるくらい。

「わたしはマールです! わたしも大吾さんと同じで今日冒険者になったばかりです!」

 きゅっとケイと握手するマール。

 マールちゃん、あとで僕とも握手してくれなかな。

「ところでダイゴ」

 おう。どうしたフレンドリーなケイ。もうケイでいいわ、こいつ。

「なんだ。言っておくけどマールはやらんぞ。こいつは俺のだ」

「いつわたしが大吾さんのものになったんですか!?」

 ビクッとして顔真っ赤で反論するマール。

 何が違うというのだろう。なので俺は正直に言うことにした。

「昨日だって俺がやめてって言ってるのにベッドの上で俺に跨って体を揺らしてたんだぞ」

「ちょっ…! そ、そうですけど! 確かにそうですけど言い方ってものがあるでしょう!?」

 完全茹ダコ状態でガウガウ怒りながら俺を揺するマールちゃん可愛い。

「す、既にそこまでの関係だったなんて…!」

 ケイも俺のカミングアウトにショックを受けて崩れ落ちた。

 ふっ。勝ったな。

 俺とマールの仲を引き裂こうなんてのは例え創造神でも許さない。

「で、話を戻すんだが」

 ショックから立ち直ったケイ。

 正直早く装備とか選んでクエストに行きたかったから助かった。

「お前がマールさんにこの服を着せた理由を聞かせてもらおうか」

「理由…?」

 そんな事は決まっている。


「「ちっぱいだから」」


 ハモった。

 俺とケイで。

 まさか…、まさか同じタイプ! 同じタイプの人種…!

 そして俺たちは互いを認め合うようにガッシリと握手をしたのだった。

「やはりそうか。マールさんのちっぱいは神秘的な何かを感じさせる素晴らしいもの。それを生かす服装と色使い。お前は出来る男だよ、ダイゴ」

「お前もやるな、ケイ。このワンピースのこだわりは、マールのちっぱいのアンダー部で結んである紐にある。本来この手の紐は胸を大きく強調させてしまう危険性があるが、マールクラスのちっぱいともなればその干渉も受けずにちっぱいを主張できるからな」

「胸を大きく見せる為のワンポイントで敢えてちっぱいを主張するとは…!」

 勉強になるぜ、とメモを取るケイ。

 いい事だ。どんどんメモを取りなさい(先輩風)。

「あの~…、さっきからわたしは褒められているのでしょうか? それとも貶されているのでしょうか?」

「「褒められてるに決まってる(でしょう)」」

「息ピッタリですし! むぅ。もう大吾さん? 早く装備選びましょうよ~」

 ほっぺた膨らませてグイグイ腕を引っ張るマール。おいおい何て可愛さだよ。ケイがいなかったら爆発してたぞ。

「分かった分かった。じゃあケイ。悪いけど色々見させてもらうぞ。俺たちこれからクエストに行かないといけないからさ」

「いいぜ、好きに見てくれ。あ、そうだ。久々に話の分かる奴に出会えたからな。サービスしてやるよ」

「サービス!?」

 ドキっと反応するマール。

 この子お金やご飯に対する反応が凄いの。いい嫁になるよ。俺の。

「どんなサービスなんだよ」

「なに、簡単なことさ。この店の中にある武具や服を使ってマールさんをクエスト用にコーディネイトするのさ。それを俺が認めればマールさんの装備はタダにしてやろう」

「ふむ」

「でもお前のは金出してもらうぞ。二人分もタダにはできねぇ」

「わかった、二人分の装備が一人分の金で手に入るんだから贅沢は言わないよ」

「おいおい。あくまでも俺が認めた場合のみだぞ? この白ワンピと同等以上の装備でないと俺を唸らせる事はできねぇ。しかもクエスト用という実用性の縛り付きだ」

「残念だったな。俺は昨日から既にマールの服装は108までシミュレーションしてるんだ。この程度は朝飯前よ」

「ふっ。期待してるぜ」

 そしてまたガッチリ握手する俺とケイ。もう親友だった。

「あの~…、わたしの装備なのにわたし抜きで勝手に話が進んでいるような気がするんですけど…」

 お金がないので贅沢は言えませんが、と言ってくるマール。

 大丈夫だマール。俺がお前を誰もが羨むような、胸がキュンキュンするような最高のメインヒロインにしてやる。

 そんなわけで店内物色。

 ふむふむ。色々あるな。さすがは『ねぇものはねぇ』。本当に何でもありそうだ。

 でも売り切れだったり、店で扱ってない商品を求められた時でも『ねぇものはねぇ』って言うんでしょ? うちの近くにも似たような名前の店があったよ、むかし。

「大吾さん大吾さん! これなんか可愛くて良くないですか!?」

 マールに呼ばれて見てみると、トンガリ帽子にフリフリのスカートにマントと『ザ・魔女服』の王道衣装をマールが合わせていた。

 正直可愛かった。可愛かったのだが…!

「マール。俺たちは採集クエスト専門だ。そんなフリフリでは木の枝とかにスカートやマントが引っかかってビリビリになってしまう。そうなったらどうなると思う?」

「ど、どうなるんですか?」

「俺が辛抱たまらなくなってマールを襲うモンスターになる」

「ひっ」

「言っておくがマールに俺は倒せないぞ。俺もマールに手は出せないが、どんなに強力な魔法を受けようと滅びない。何度でも蘇るさ」

「あわわわわ…」

 ガタガタと震えるマールは魔女服を売り場へ戻した。

 よし。これで魔女服を諦めてくれるなら俺の評価など安いものだ(諸刃の剣)。

「で、では大吾さん。これは…?」

「ん?」

 そう言ってまた衣装を合わせるマール。

 今度は露出などは一切ない迷彩服。いきなりの現代コスチュームにビックリしたが、動きやすさは抜群だろう。

 軍などでも使われているし、その名の通り迷彩になっていてモンスターから見つかりにくいという利点もある。のだが――

「マール。迷彩服を悪く言うつもりはないが、俺が求めているのは可愛さの中にも実用性を求めた服装だ。その迷彩服を着たマールが森の中に入ってみろ。どうなると思う?」

「ど、どうなるんですか?」

「俺が辛抱たまらなくなってマールを捕虜にする敵兵になる」

「ひっ」

「言っておくが女の捕虜なんてのは見るに堪えないぞ。R-15タグでは到底語れない仕打ちを受ける。事後に残るのは白いプールに浮かぶ放心状態のマールだけだ」

「あわわわわ…」

 ガタガタ震えるマールはまた迷彩服を売り場へ戻した。

 正直これ以上おれの評価下がらなくね? レベルでどん底な気もするけど、気にしないで至高の一着を探そう。

「で、では大吾さん…。これ、は…」

 ガタガタ震え、顔も真っ青になりながらも俺に衣装を見せてくるマールちゃんマジ健気。

 しかし残念だがマールチョイスの服装では――

「…」

「…大吾さん?」

「マール」

「は、はい?」

 ポンっとマールの肩に手を置く。

「最高に可愛いと思う」

 俺がそう言うとマールの顔はパッと晴れた。

「い、いいですよね? 可愛いですもんね?」

「あぁ。マールは可愛い」

「わたしじゃなくて、この服可愛いですよね!?」

「あぁ。それを着たマールは可愛い」

「し、実用的ですよね?」

「そうだな。動きやすそうだし、何よりマールのちっぱいをいつでも目視で確認できる」

「実用的ってそっちの意味だったんですか!? 森に入って云々の話じゃないんですか!?」

「気にするな、言葉の綾だ。では服装はそれにしよう」

「うぅ…。大吾さんにジロジロ見られるのは昨日で慣れたつもりでしたが、また変な目で見られる事になるなんて…」

「…」

 ちょっとマールちゃんそんな事思ってたの?

 そ、それにそんな見てないよ? 確かに会話の度に一回十秒くらい見てた気がするけど、男のチラ見ってそんなもんだよ?

 心臓が張り裂けそうだ。僕はこんなにもガラスの心臓だったのか。破片が胸へと突き刺さった。

「じゃ、じゃあ靴も選ぼうか。サンダルじゃさすがに行けないし」

「あっ。そうですね」

「あと怪我防止に手袋と、炎天下の作業になるから帽子も揃えて」

「大吾さんって何でこういう細かい事を気に出来るのに残念な事口走っちゃうんですかね」

「マールを傷モノにするのは俺って決まってるからな」

「それですよ! それがなくなればいいのに!」

「いいって言った? 大吾さんカッコいいって言った?」

「いえ、カッコいいとは言ってません。それによく考えたらお胸の事を話さない大吾さんはただの一般人Aになってしまうので個性がなくなります」

 ちっぱい天使は俺に対して辛辣であった。

 でもいいんだ。俺はマールが隣にいてくれるだけでいいんだ。




  ―――




「話はまとまったようだな」

 俺たちはマールの装備というか、服装というか、とにかく衣装合わせを終わらせて今はケイと二人で試着室の前にいる。

 中ではマールが白ワンピからクエスト用の服に着替えているのだ。

 正直今すぐにでも顔を突っ込みたいところだが、さすがにそれをやると向こう百年くらい口を聞いてくれなそうなので止めておいた。

 しかし、この試着室のカーテンは床ギリギリまでの長さで出来てやがる。

 ケイお前…。試着室は足首より下は見せるチラリズムがいいのに何でそれを無くすんだよ。

 はらりっ…と落ちる白ワンピも見れねぇじゃねーか。後で切っとけよ。もしくは薄くしろ。今日本では影絵ですら興奮する時代だぞ。時代についていかないと取り残されちゃうぞ。異世界じゃ関係ないかもだけど。

「最初にこれ渡しておく」

「ん?」

「俺の武器や服、靴、手袋、鞄その他サバイバル用品の料金だ」

 そう言って俺はケイに30パルフェ(3万円)を渡した。

「毎度あり。だがどうして今なんだ? まだ俺がマールさんの料金をタダにすると決まったわけでは」

「決まっている」

「…ほぅ」

 大した自信だ、と笑うケイ。


「だ、大吾さ~ん。着替え終わりましたけど…」


 そして試着室の中ではマールの準備も完了したようだ。

 着替え中に脱いだ服は俺が預かろうか? と優しく聞いたのにキッパリ断られた。何故だろう。変な事に使うと思われたのかな。

「俺がカーテン開けるからマールはそのままにしててくれ。腕は必ず腰の後ろで組むこと。いいな?」

「うぅぅ…どんどんハードルが上がってる気がします…」

 見えなくてもモジモジしてるのが分かるマールちゃん可愛い。

「そうだぞダイゴ。女の子を待たせるんじゃねぇ。さっさと開けな」

 ケイは余裕たっぷりな顔でこっちを見ている。

 フンッ。間抜けが、知るがいい。

 こちらのお方こそ、いずれ世界を制する女神にして可愛さの象徴、ちっぱいの大天使マール様である!

 シャッ! とカーテンを開く俺。カッ! と後光を受け降臨する大天使。

 そしてそんな大天使を見たケイは――、その何者にも侵す事の出来ない神聖なオーラを受け、ドアをぶち破って店の外に吹っ飛んだ。

 いきなりの出来事に通行人たちがケイの周りに集まるが、その中の一人がケイの頸動脈に手を添えて『し、死んでる…』と言ったのが見えた。いい奴だった。

 そんな神聖なオーラを出してケイにトドメを刺したマール。

 その服装はライトブルーのデニムキャップに胸下までのオーバーオール。中に着ているのは白のフレンチ袖Tシャツ。

 靴はひざ下まであるキャメル色のレースアップシューズで手袋も同じ色で合わせている。

 俺の趣味丸出しであった。

 でもケイを有無を言わさず吹っ飛ばすくらいの衝撃を与えたのだから料金は無料だろう。

 あばよ、ケイ。大切に使わせてもらうぜ。

 俺は人差し指と中指をピッと立てて店を後にした。

 ちなみに俺も同じライトブルーのつなぎにした。収集クエストと言えば農作業に近いからね。

 ブーツと手袋もマールと同じキャメル色で揃えて傍から見てもペアルック風の衣装になった(故意)。

 更にちなみにケイは通りかかった魔法使いに蘇生魔法をかけてもらって生き返った。

 意識が朦朧としていた彼が最初に話した言葉は『天使を見た』だったようだ。



( ゜∀゜)o彡゜マール!マール!マール!マール!

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