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大吾と異世界⑤



「ねぇねぇマールちゃん」

「なんですか大吾さん」

「今夜は凄く冷えるらしいよ。風邪引いちゃうといけないからお布団で寝た方がいいんじゃないかな」

「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫です。大吾さんに買ってもらった寝袋も、とっても暖かくて快適です」

「あ、そうなんだ」

「はい。これなら朝までぐっすり寝れます」

「…」

「…」

「ねぇねぇマールちゃん」

「なんですか大吾さん」

「やっぱり女の子を寝袋で寝かせるわけにはいかないよ。俺が寝袋使うから、マールちゃんはベッド使うかい?」

「大吾さん優しいんですね」

「誰にでも優しいわけじゃない。マールだからだよ」

「もう…。大吾さん、ストレート過ぎです…」

「俺ストレートだけで抑えてきたピッチャーだから」

「少年漫画みたいで格好いいです」

「そうかな」

「はい。で、本心は?」

「そろそろ寝袋にマールの匂いも染み込んだ頃だし、その匂いに包まれて寝たいなと思って」

「大吾さん本当にストレートだけで抑えて来れました? ボコスカ打たれまくったんじゃないですか?」

「そんな事ないぞ。ただストライクが入らないだけ」

「深刻な問題ですね」

「…」

「…」

「ねぇねぇマールちゃん」

「なんですか大吾さん」

「俺の記憶が確かなら、抱き枕ないと寝れないって言ったような気がするんだけど」

「そうですね。言ってました」

「掛け布団抱いて寝るのは何か違うし、やっぱり抱きごたえのあるやつのほうがいいんだよね」

「それは初耳です」

「どこかに抱きごたえのあるやつは…、あっ。マールの使ってる寝袋なんか丁度いい大きさだし最高かもしれない」

「この寝袋ですか。でもこれ今わたしが使わせてもらってるのでこれ返しちゃうと」

「いいよいいよ返さなくて。マールはただそのまま寝袋で寝てるだけでいいんだ」

「大吾さんは本当に優しいですね」

「マールのためなら出来る事だけするよ」

「分かりました。ではそんな出来る事だけする大吾さんにお願いがあるのですが」

「聞きましょう。聞く事は出来る」

「恥ずかしながら、わたし今寝袋に入って完全芋虫状態でして。ベッドまで抱いて運んでくれませんか?」

「お安い御用だ」

「優しくして下さいね?」

「任せておけ。ところでマール。ちょっといいかな」

「なんでしょう大吾さん」


「この結界消してくれないとマールに近づけないんだけど」


 はいー。

 俺たちは夕飯のカップラーメンを食べ終え今は宿屋の寝室にいまーす。

 宿屋に帰るとナンシーさんがやってきて、俺たちにバーベキューなどでよく見かけるステンレスのコップと歯ブラシ2本をくれた。

 これも一か月の長期滞在のサービスらしい。ナンシーさんマジおかん。

 俺とマールはナンシーさんの前では恋人関係って事になってるのでコップは一個だったが、洗面所を使わせてもらって一緒に歯磨きをした。動きがシンクロしてたらしい(ナンシー談)。

 それからは特にやる事もなかったので、宿のエントランスみたいなところでナンシーさんと3人で話し込んだ。

 旦那さんの店に行ったと言ったら『お湯入れるだけの何が楽しいんだかね』と言って笑ってた。

 聞けばあの店主、いやナンシーさんの旦那さんは元冒険家で名前はギルと言うらしい。

 現役時代のキャリアハイはBランクのガンナーで、ギルドでは結構有名だったとか。

 ナンシーさんとはその時、冒険者と宿屋の娘として知り合って、高難度のクエストで得た報酬や素材で色々買ってもらっり連れ出してもらったりしていたが、正直危なくて見てられなかったらしい。

『こいつぁ、私が見てないとダメだね』と思っちまったのが運の尽きさ、とナンシーさんは溜息混じりに話していたが、悪い気はしていなかったんだろう。

 その後現役を引退したギルさんは飲食店の店主へ。

 しかし店主になったはいいものの当時のギルさんは冒険者が作る即席飯くらいしか作った事がなかった為、他の冒険者も街に帰ってまでこの味はな、となかなか客が寄り付かなかったとか。

 そこでギルさんはカップラーメンと出会い、そのあまりの美味さから製造元というか街に卸している転移者にお願いしてお店で出させてもらってるんだとか。

 お湯をいれるだけだし、カップラーメンなので皿洗いなどがなく店はギルさん一人で全然回せる為人件費は掛からなく、客周りもよくなったことで結構な稼ぎになってるらしい。

 まぁ異世界ならではの商売って事だな。

 日本にもカップラーメン専門店はあるが、飲食店でそのまま出すってのはない(と思う)。

 そんなこんなで話しているとギルさんが帰ってきて俺たちはエントランスを追い出された。

 ギルさん曰く『寝れる時に寝とかねぇ冒険者は痛い目をみる』らしい。

 確かに明日は初クエストを受ける予定だし、この辺りで寝るとするか、とマールと話し部屋に戻った。

 その時にナンシーさんから『おやすみ。ゆっくりネンネしな』と言われた。

 二人はやっぱり似たもの夫婦だった。

 そんなこんなで寝室に戻って来たのはいいんだが、俺とマールにとって一番の問題は寝袋抱き枕計画(INマール)だ。

 マールもその事を知ってかなかなか寝袋に入りたがらないし、俺も正直ソワソワしてたので逆に怪しまれていたようだ。

 何とも言えない時間帯が続いたが、不意にマールが『あっ。そういえば私、信者の子が増えたのでレベルも4になりました』と言ってきた。

 そういえばあったねそんな事も。

 まぁ俺は相変わらず全ステ1上がっただけだけど(真顔)。

 しかしマールは魔法周りに特化して能力が上がって、しかもまたスキルを覚えたらしい。

 そのスキルこそ――



聖域(サンクチュアリ)


 光属性保護魔法。消費MP50。

 任意の相手からの接近や遠距離攻撃を防ぐことが出来る結界を張る。

 結界で防げる条件の相手、攻撃は一つまで。

 『人』や『モンスター』、『魔法』など大きな区切りで分けることは出来ない。

 区切る場合は条件を追加しなければならない。

 聖域の中に術者がいる限り特定スキルで無効化される場合を除き結界が破られる事はない。

 術者は聖域発動中、他のスキルを使う事は出来ない。

 術者が結界の外に出た場合、結界は効果を失う。



 とんでもねぇチートスキルだった。

 俺たちは並んでマールのステータスモニター見てたけどさ、このスキル紹介見終わったらマールが俺の方向いてニッコリ笑ったの。その可愛さに思わず心臓が破裂した(過去形)。

 そしたらマールは何を思ったか寝袋持って立ち上がり、床で寝だしたの。

 あれ、マールちゃん寝るのそこじゃないよ、こっちだよ、とベッドをポンポンしてもマールは『わたしは床で大丈夫なので大吾さんだけどうぞ』って言ってきた。

 可愛くて遠慮深いなんてマジマルチテンだな。


「と、思ってた時代も俺にはありました」


 そう。

 聖域(サンクチュアリ)の結界が邪魔してマールに近づけないのだ。

 何なんマジで。今日一日今この時この瞬間を俺がどれだけ待ち焦がれたと思ってますのん。

 俺は結界の中で可愛く寝るマールをトランペットに憧れる少年のように涎垂らしてピッタリ結界にくっついて眺める事しか出来ない。

 ちくしょう…ちくしょう…。

「大吾さん。どうしたんですか」

「いや、だからねマールちゃん。結界消してくれないとそっち行けないんだってば」

「おかしいですね。大吾さんはわたしを抱き枕として一緒に寝たい、と言っていたはずですが」

「言った」

「わたしのこの結界の条件は『邪な考えを持つ者の遮断』です。大吾さんならすんなり通れるはずですが」

「…」

「もしかしたら大吾さん。邪な考えがあるんじゃないんですか?」

「…」

「嘘は言わない大吾さん正直に言ってください。正直に言ってくれれば結界を消すのも吝かではありません」

 今日はたくさんお世話になりましたし、とちょっと頬を染めて言うマール。圧倒的ヒロイン。

 なので俺は正直に言う事にした。

「寝袋に入ったマールが身動き取れないのをいいことに色々弄ろうと思った。マールが照れて背中を向けば俺は後ろからマールのちっぱい弄れるし、マールが意を決して向き合って寝てくれたらちっぱいに顔埋めて寝られるし、仰向けでもちっぱい弄れるし、でもうつ伏せで寝られたらどうしようって思ってた。マールのちっぱい堪能出来ないどうしようって思ってた」

「ビックリするほど欲望に忠実ですね! お互いの同意がないと手を出さないと言ってた大吾さんはどこに行ったんですか!?」

「いや、ベッドに来た瞬間に同意があると見ていいのかなって」

「ダメに決まってるじゃないですか! どこの世界に飢えたハイエナの巣に入る人がいますか! そんなの18歳以上対象のゲームでCG、シーン回収してる大吾さんくらいですからね!」

「お前どれだけ俺の性癖暴露すれば気が済むんだ」

「ひっ」

 それに一つだけ修正させてもらうと、CG・シーン回収をやっているのは俺だけじゃない。そうだろ? そう、君だ。君に言っている。

 一個だけ見てないシーンがあったり、CGでも11/12とかだったりすると気分悪いだろ? それだよハリー。

 それにしてもここ一番ってところでなんつーピンポイントなスキル覚えやがるんだマール。

 つかスキル覚え過ぎじゃね?

 俺なんか未だにスキルなしのまま…、あっ。

「…」

「…大吾さん?」

 俺が無言なのでマールがちらっと寝袋から顔(目から上)だけ出してきた。もうお前の可愛さは暴力だよ。

「俺もなんかスキル覚えてる」

「そうなんですか!? やったじゃないですか!」

「そ、そうだな! 俺もようやくファンタジー出来るんだな!」

 まだ初日の夜だけど! と大喜びする。

 だってやっぱり魔法とか使ってみたいじゃん。討伐には行かないにしても手から炎とか氷とか出したいじゃん。学生時代に考えたちょっと痛い魔法陣とか抵抗しかないけど出してみたいじゃん!

「どんなスキルなんですか?」

 ハテ? するマール。そんな事してると暴力反対している街から追い出されちゃうぞ。

 っとスキルスキル…。ポチッとタップ。



『看破の神眼』


 ちっぱいの神専用スキル。消費MP0。

 対象の相手のちっぱいレベルを測る事が出来る。

 その神眼はあらゆる遮蔽物に干渉されずに見透かすことが出来る。

 干渉されないだけで透視するわけではない。

 発動条件は相手の顔の一部が見えている事。

 ちっぱいレベルは0(巨乳)~100(ちっぱい)。

 レベルは主観であり、自分の理想と一致するほど高くなる。



 マールはシュバッと一瞬で寝袋に隠れた。はえぇ。

 しかし遅かったなマールよ。ここからは俺のターンというやつだ(ゲス顔)。

「なぁマール」

「すやすやー」

「おやおや。もう寝ちゃったのかい? 今日は疲れたもんな。ゆっくり寝たいよな」

「うんうん。すぴぴー」

 普通に会話しとるやないか、と思ったが構わず進めよう。この機を逃す手はない。

 ちなみに本当に寝てる人はすぴぴーって言わないよマールちゃん。

「これは独り言なんだけど、俺初めてスキル覚えたからさ。どんな感じになるのかちょっと使ってみたいんだ」

「むにゃむにゃ」

「でもこのスキルの発動条件は相手の顔が見れないと使えないんだとか」

「うーんうーん」

「だからさマール。ちょっとだけでいいから顔見せてくれないかな」

「のんのん」

「やっぱりもう寝ちゃってるから明日にしようかな」

「明日でもダメですやすやぴー」



「まぁ、さっき見たんだけどな」



「!?」

 ビクッと寝袋が震えた。

 ほう。ここで『いつの間に!』と顔を出してこないところは流石だな。マール相手にブラフは通用しないのかもしれない。

 が、それが本当にブラフなら、な。

 俺は違う。

 俺は知っている。いや、知る事が出来る。

 そんな訳でスキル発動(躊躇いなし)。

「…」

「…」

 ほう…。

 静まりかえる寝室。

 そして――

「アンダー65。トップ75.5で限りなくAに近いBカッ」

「わーっ! わーっ! 大吾さんわーっ!」

 マールが顔真っ赤で涙目で寝袋から飛び出して来た。

 寝るのに邪魔だったのかウェアは脱いでおり、キャミソールとショートパンツ姿のマールが飛び出して来た。

 キャミソールとショートパンツ姿のマールが涙目で結界の外に飛び出して来た。来たっ!

 いらっしゃいマールちゃ――

「ごふっ…!」

 が、文字通りマールを受け入れた俺は『ちっぱい弱点』によって防御0になっており、そのタックルでHPが1になった。

「何で言うんですか! 何で言うんですか! 何で言うんですかーっ!」

 そしてベッドの上でマウントを取られてガクガクと胸元から揺らされる。

 ちょっ、マールちゃん待って。デジャブ感じちゃうから待って。マールは顔面殴ったりしてこないよね? 信じていいんだよね?

 しかし次の瞬間。

「大吾さんが小さいお胸が好きなのは知ってますけど、恥ずかしいんです」

 ターン! もしくはビーン! と、脳天をワルサーで打ち抜かれたか、胸を弓矢で射抜かれた衝撃に襲われた。

 ちっぱい女子からの攻撃は必ずHP1で耐えていたが、これを受けて俺は気を失った。

 木製の台車で猫たちによってキャンプへと戻されるだろう。




  ―――




「はっ」

 ここは?

「あっ。大吾さん。おはようございます」

 目覚めると、そこは天国でした。

 目の前には白ワンピの天使。うん。間違いない天国だ。天国は本当にあったんだ。天国は朝だった。

「今日は初クエストですね! ゆっくり休めましたし、張り切って頑張りましょう!」

 ファイファイと両手でやる気を出す天使は天使だった。よく見たら天使はマールだった。でもマールは天使だし、天使で間違いなかった(寝ぼけ)。

「おはようマール。…あれ、俺昨日」

「ナンシーさんとお話しして部屋に帰ったらすぐ寝ちゃいましたもんね大吾さん。よっぽど疲れてたんですね!」

「あれ、そうだったかな…」

 ポリポリと頭と首裏を掻いて欠伸をする。

「異世界生活初日でしたもんね。でもいつまでも寝てはいられませんよ? クエストに行ったり、布教したりとやる事たくさんです!」

「そうだな。まぁ確かに疲れてたのかもしれん。ちょっと頭が痛いけど、疲れはなくなったかな」

「そうですか」

 よかったです、と笑うマールちゃん可愛い。けど、その笑顔はいつものような天使スマイルではない。なぜだろう。

「そうだ。さっき一階に降りたらナンシーさんがおにぎり作ってくれてましたよ。一緒に食べに行きましょう」

「朝飯作ってくれるって言ってたもんな。じゃ行くか」

「はいっ」

 今度は満面の天使スマイル。可愛さは指名手配レベルであった。

 部屋を出た俺たちだが、俺は先にトイレに行きたかったのでマールを先に一階へと向かわせた。

 そんな天使の背中に俺は、

「マール。実は俺、Bカップが一番好きなんだ」

 と正直に言ってトイレに入った。

 マールは顔を真っ赤にして何か言ってきたが、トイレに入ってたのでよく聞こえなかった。

 その後一階に降りた俺たちはナンシーさんから『もうちょっと静かに出来ないのかい。ベッドが壊れちまうよ』と言われた。

 はて何のことかと思ったが、隣のマールはさっきよりも顔を真っ赤にしていていた。

 今日の朝ごはんは高菜とゴマのおにぎりだった。



オラもマールにマウント取られたいだ

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