大吾と勇者③
●前回のあらすじ●
大吾さんはマールちゃんに即死させられた。
有名な物語の中に『矛盾』というものがある。
内容は盾と矛を売る人が「私の盾はどんな鋭利な刃物でも突き通すことは出来ません。また私の矛はどんな堅固なものでも突き通してしまいます」と話すが、それを聞いた人は「ではあなたの矛であなたの盾を突いたらどうなりますか?」と尋ねたところ商人は何も言うことが出来なくなってしまったというもの。
このように矛盾が生じる事、つまり辻褄が合わない事などはゲームの中なんかでは多く目にする事がある。
先程の盾と矛の例もそうだし、勇者にしか抜けない伝説の剣を村人が抜いてしまったり、女の子にしか使えない能力を世界でただ一人男が使えたりと様々である。
しかしその矛盾こそが読者やユーザーの好奇心を刺激し、どうしてそうなったかその物語を知りたいという欲に繋がる。
さて。
今回の勇者召喚の件。
正確に言えば勇者の能力で操られてしまったメアの対抗策の件だが、『触れるもの全て何でも例外なく斬れるスキル』を持っている人物にどうやって勝つことが出来るのか? という問題。
相手からの攻撃に関しては回避一択で終わっているがこちらから攻めるにはどうすればいいだろうか?
水攻めや宇宙空間に飛ばすなど所謂酸素枯渇で制したり、高所からの落下でダメージを与えたりと相手に触れない戦い方も出来るだろうが、戦闘の条件に物理攻撃のみという縛り付きなのだ。
触れたらこちらがダメージを受ける相手にどうやって物理ダメージを与えるか。
相手の攻撃は当たったら負け、こちらの攻撃も当てたら負け。
一撃必殺の最強の矛に、受ける事で相手を斬れる最強の盾。
この相手に勝つにはこの矛盾を突くしかない。
つまり何でも斬れるメアの剣でメア自身を攻撃する相殺効果を期待するしかないのだが、
「そこはあまり期待出来ないかな。メアちゃんは自分の意思で斬る斬らないを選択できるから。何でもスパスパ斬ってたら何も出来なくなっちゃうでしょ?」
とヴィヴィ。
そう言えばメアの切断スキルは獲物のサンダルフォンの能力ではなく、メア自身の能力だ。
つまり触れるもの全てを切断する、と言っても柄の部分を切断するわけではなく刀身でのみ完全切断する能力をサンダルフォンに与えているといった方が正しい。
もちろん獲物なら何でもいいわけなのでサンダルフォンを運よく手放せる事が出来ても、この中庭に生えている草でさえメアにかかれば鋭利な刃物に早変わりというわけか。
しかしそうなるといよいよ詰みの状況になってしまう。
相手の自滅は見込めない。
この状況を打破するにはメアの『何でも例外なく斬れるスキル』でも斬れない矛盾する何かを用意するしか――
「いーじゃんいーじゃん! あなた強いのね! あっちの銀髪のおねーさんも強そうだけど、あなたの事気に入ったわ! おっぱいも大きいし!」
メアの影に隠れ、ルンルン上機嫌の小学生勇者指宿あかり。
勇者の定義を疑うが仲間の功績は勇者の功績というRPGあるあるはこの世界でも有効なのだろうか。
あと今おっぱい大きいって言った?
乳のデカさで人を見るとかこれだから小学生は(特大ブーメラン)。
「ヴィヴィ。ちなみになんだけどもっとその靴を用意出来ればメアに勝てたりする?」
「んー。正直言ってあたしには無理かな。触れた時点で引かなくちゃあたしもダメージ受けちゃうし、攻撃を打ち抜けない以上重い一撃は負わせられないから」
メアちゃんくらい強い冒険者なら尚更ね、と。
ふむ。つまりジャブのみで実力が均衡しているプロボクサーを倒せないのと同じ理屈か。
左ジャブを制する者は世界を制す、と言葉があるがそれはその後のコンビネーションがあってこそだ。
強力な右ストレートが封印されては神の左ジャブを持っていても試合に勝つのは難しい。
「さっきのキックで左の靴ダメにしちゃったし、攻撃するにしても受けるにしても後一回が限界かな」
「ぐぬぬ…」
「ねぇ。さっきから聞いてるとなんか私が悪者みたいじゃない。私は勇者なのよ? 悪い奴らをやっつけに行くの。それの何が不満なの」
「おまっ」
「じゃあ聞くけど、その悪い奴らっていうのは誰が決めたの? 君?」
俺のセリフを遮りヴィヴィがあかりに問い出した。
また我を忘れて駆けだすところだったぜ。
「私じゃなくて凄いイケメンのお兄さんが言ってたの。変な格好してたけど。でも困ってる人がいたら助けてあげるのが勇者。ヒーローでしょ」
「そのせいで悪い奴らっていう人たちが困ってしまっても?」
「そんなの知らない。だって悪い奴らなんでしょ? 悪い事をしてるんだからじごーじとくじゃん。魔法少女だって空飛ぶヒーローだってそんなの気にして戦ってないよ」
最後は悪は滅んで皆が幸せに暮らすの、とあかりは続けたところで俺はぷっちんした。
「子供向けアニメの見過ぎだな」
「え?」
確かに魔法少女のアニメも、空飛ぶ国民的ヒーローアニメでも、言ってしまえば全ての物語で悪を倒すというストーリーは同じものだ。
最後は消えるか、星になるかはそのアニメやドラマによって様々だが最終話後の敵を描写しているシーンは限りなくゼロに近いだろう。
それは視聴者がハッピーエンドで満足しているから。悪は滅んでめでたしめでたしだからである。
ここでの悪、つまり敵が100%悪意ある人類の天敵であればそれでもいいが、そうではない友好を望んでいる相手だっているのだ。
敵がいないバトルアニメなんか存在しないが、悪がいない世界は存在する。
少なくとも――
「俺の知ってる魔族に悪い人なんて一人もいない。俺だって魔族全てを知ってるわけじゃないけど、俺の知ってる魔族は娘想いの親馬鹿だったり、心優しくて可愛い子がいるだけだ」
ここまで魔族をこけにされて黙ってられるほど俺も大人ではなかった。
正確に言えば魔族を悪く言われ、悲しんでるヴィヴィを見ていられなかった。
悪い人ももしかしたら魔族の中にいるかもしれないが、それは人族だって同じ事だ。
時代や価値観が違う異世界で日本の常識は通用しない。
もしかしたら自国を滅ぼさない為に近隣の国に戦争を仕掛ける過激派の考えの方が正しいのかもしれない。
「それでも俺は、全ての人が100の幸せになる世界を目指しているし、そうなると信じている」
戦や戦争が絶えなかった昔とは違っても、今なお生き残りをかけた経済戦争をしている地球でさえそんな事は不可能なのに。
でもどんなに馬鹿にされようが俺のこのちっぱい女子を幸せにする大願は変わらない。
この大願が成就される事で幸せではなくなる人も出るかもしれない。
こんな矛盾だらけの大願で過激派組織や勇者の事を悪く言うことも間違っているのかもしれないが。
「ダイゴのそういうところ、あたし好きだよ」
隣で笑うちっぱい女子がいる。それだけで十分じゃないかな。
そんな十分過ぎるヴィヴィの顔はいつもに比べて赤くなっており、目もどことなく潤んでいた可愛い。
「あーくさっ。ホントくさ。クサいしくさいし草すぎだっての! アンタこそゲームのし過ぎじゃないの? もうめんどくさいからあの二人やっつけちゃってよ! 騎士さん!」
イライラが隠せない勇者はとうとう自身の護衛を解いてメアを単騎で特攻させた。
この瞬間を待っていた。
「ヴィヴィ!」
「わわっ! な、なに?」
急にガシッと肩を掴むもんだから驚かせちゃったね。でも驚いてオロオロするヴィヴィ可愛い。あと可愛い。
「メアに勝てる方法を思い付いた」
「うそ!? そんな方法があるの!?」
「本当だ。嘘じゃない。ヴィヴィはただ、俺を信じてメアの攻撃を足で受けてくれさえすればいい」
その言葉にヴィヴィも多少は不安な表情を作ったが、俺の真剣さが伝わったのかすぐに頷いてくれた。
「わかった。あたしはダイゴを信じるよ。頼りにしてるね」
ちっぱい女子から頼られる。こんな嬉しい事はない。ちっぱいの神の冥利に尽きる。
「マールちゃん」
「は、はひ?」
と、ここで突然のマール振り。
ご本人は何が何やらお口ポッカ―ン状態でとにかく可愛かった。
「俺の能力で『ちっぱい慈愛』のステータスをマールに移したい。頼めるか?」
ちっぱい慈愛の能力。
ちっぱい女子に対して攻撃を行う事は出来ないちっぱいの神の職ボーナス。
「えっと、何だかよくわかりませんが、大吾さんがヴィヴィさんの為に戦ってるって事はわかりました。ですから」
はいどうぞ、とマールは顔を差し出してくれた。
こ、これはまさかキッスしてもいいって事ですかマールちゃん!?
でも確か前に能力を移した時もほっぺをぷにっとしたから今回もそうやると思ってるのかも。
とりあえずヴィヴィと同じく俺の事を信じてくれるマールちゃん可愛いほっぺ柔らかい。
ぷにぷに。
ぷにぷに。
ぷにぷに、と。
そうしているうちにメアが攻めて来て、ヴィヴィにサンダルフォンを振り下ろした。
メアの剣技を知っている人からすれば受けるなんて到底出来ないが、俺の言葉を信じヴィヴィは足でサンダルフォンを受けた。
しかし、メアのサンダルフォンがヴィヴィの足を斬る事はなかった。
ヴィヴィの足に包帯のようなものが巻かれて刃が通らなかったからだ。
そう。
これこそ以前手にいれた神スキル。
「ちっぱバインド!」
ちっぱいの神専用スキル。
ちっぱい女子に対してのみ効果がある拘束スキル。
拘束力は想いの強さに比例する。相手を想うほど拘束力が上がる。
拘束具はイメージで具現化出来る。
明確なイメージを持てばその通りにちっぱい女子の体を拘束出来る。
つまり――
「メアの全てを切断するスキルよりも俺がヴィヴィを想う強さの方が強いっていうことだ!」
拘束スキルを守備に使う。
最強の矛に決して負けないのは、ちっぱい女子を想う心だった。
最近は仕事が休業が多く筆の進みが早いです。
そしてヴィヴィが可愛いです。マールちゃんも可愛いです。