大吾とアジト⑥
●前回のあらすじ●
マールちゃんは大吾さんが嫌いじゃなかった。
『運命の輪-MALL-』
ちっぱいの神専用スキル。消費MPは全MPの半分。
スキル、魔法、物理攻撃などで破壊出来ない運命の輪を作り出す。
運命の輪で繋がれたちっぱい女子が受けるダメージ、状態異常を自身が代わりに受ける。
何人たりともちっぱい女子を穢す事は許さない。
スキル発動時、自身にHP、MP自動回復効果を付与する(5%/毎秒)。
我は、神。
ちっぱいの神。
ちっぱいの神は、ちっぱい女子がいるだけで無限の力を得る。
今この場において俺を凌駕出来る者は存在しない。
マールが俺の信者になった事によりボトルネックスキルをマールに移し、そのマールが狙われても俺が身代わりになるスキルを得た。
しかも俺が持っていた不屈のちっぱい愛によりマールを対象とした攻撃で戦闘不能になる事はない。
戦闘不能にならなければHPが自動回復し何度でも蘇る。
正にチート。正に神。正にゾンビ。
マールが狙われてもと言ったが、今現在はチハとの一対一の勝負なのでその心配もない(と思う)。
つまり今は俺がHPMP自動回復の効果だけを得ている状態の勝負なのでした。
これは卑怯ではないよ。
だってチハも黒い霧でパワーアップしてるんだから。
ちっぱい女子がよくて俺がよくないなんて言う奴がいたら俺はそいつの事を褒め称える。
ちっぱい女子は何やっても許される。世界の中心だから。
やっぱ俺は卑怯なのかもしれない。
だが。
「くっ!」
「見える」
今までドムッっと顔面に貰ってたパンチが見切れる。
あれ程脅威だったスピードもパワーも元気100倍の俺のAGIの前には止まって見える。
今なら史上最強のラインバッカーが言っていた事が良く分かる。
触れもしないスピードにはどんなパワーも通用しない。
「ちっ…! さっきまでと全然スピードが違う…!」
「降参するなら今のうちだぞ。今降参すれば俺の本気を見せずに済む。だが降参しなければ本気でお前を倒す。そして動けなくなったお前をちっぱいが映えるように拘束しケイの元へ連れて行く」
「ひっ」
「本当はマールに使いたかった『ちっぱバインド』だが、お前が初になるようだ」
ぐへへへへ、と笑う俺。
もうただの畜生だった。
あぁ、マールちゃんを始めスズランからも軽蔑の眼差し。
違うんだよ聞いてくれ。
こう言えば殴り合わないで済むかもしれないでしょ?
別に俺がちっぱい女子を縛りたいって思ってるわけじゃ、あれ? マールちゃん何で『運命の輪』を外そうとしてるの?
それは俺とマールちゃんを繋ぐ大切なものだよ? ちゃんとつけてないと俺が悲しむよ?
「アタシは負けない…! アタシはケイをッ! ケイの夢を!」
ボボッ! と重拳のストレートを放つチハ。
本来ならばこの連撃で俺の顔が二段クレーターみたいになる筈だが、今は空を切るだけ。
黒い翼の禍々しいオーラがどんどんと増していく。
「そんなになるくらいなら尚更ケイと二人でクランを作って一緒にいた方がいいじゃねーか」
「アンタは分かってない! 天使のアタシは非力、堕天使のアタシはケイにとって毒なんだよ! この負の感情は人がずっと浴びてていいものじゃないんだ!」
でもこうしないとケイを守れる力がない、と。
うぅむ。話がループする。
「そもそも一度堕ちた天使は簡単には戻れない! アンタはさっきアタシを天使に戻すって言ったけど、それこそ創造神様クラスの神じゃないとそんな事出来っこない!」
それは初めて聞きました。
俺はマールにそうなの? と目で確認するがマールはハテ? してるだけだった。
多分この事も天使学の授業で習っていたんだろうけど、空腹でそれどころじゃなかったんだね。
「確認なんだけど、天使として非力ってケイが言ったのか? そんなお前はいらないって」
「…」
言ってない、だろうな。
同じちっぱニストのケイがちっぱい女子にそんな事を言うはずがない。
恐らくはチハが勝手に暴走したんだろう。
でもチハを責めたりはしない。
ケイを想っての事だし、ちっぱい女子に悪い奴はいない。
迷いに迷って堕天使になったのだろうから。
だから。
「本人に聞いてみるといい。今までの事とこれからの事も」
「………えっ」
今は深夜の時間帯。
場所は廃教会。
屋内である為、窓から差し込む月の光だけが唯一の明かりだが、暗闇の隅で『赤い光』が二つ動いた。
その赤い光は役目を終えたようにその場を離れ俺の元へとやってきた。
「お疲れ、ヴィヴィ。ありがとな」
「いいよ。声を潜めるのは慣れてるしね」
「知ってる」
俺が何度警備された事か分からないからね。
気づいたら部屋の隅に大の字で張り付いてるもんだから心臓が止まりますよ。
さて。
もうお気付きだと思うけどバッチリ罠を張らせて頂きました。
チハと会う前にヴィヴィにはとある人物の警備を続けて貰ってると言った。
でもここにはいないと言っただけで具体的な場所までは言ってない。
何故ならヴィヴィは闇に融け、ずっと廃教会の隅にいたのだから。
監視の対象であったケイと共に。
「チハ」
「ケイ…」
いきなりの出来事についてこれない感じのチハ。…なのだが顔がもう完全に恋する乙女になっとる。
ちょっと待とうか?
さっきまでの俺を見る目とケイを見る目が全然違うんですがそれは。
確かに俺とケイでどっちがイケメン? って街行くギャルに調査したら百人中九十八人にくらいはケイって言うと思うけど。
「チハ。ごめんな」
「え?」
「俺が弱かったせいでチハに迷惑ばっかかけて。それに皆も」
本当にすまん、と頭を下げるケイ。
「ケイは悪くない! アタシが勝手にやった事だし! アタシの方こそ、黙って出て行って、皆に迷惑かけてごめんなさい」
ケイと一緒に頭を下げるチハ。
ちょっとこの子ケイが出て来た途端即堕ちすぎやしません? 十三行って。今までの苦労が十三行って。
それじゃあ堕天使にもなるよ。
こんなに即堕ち二コマ劇場みたいにすぐ堕ちたら堕天使にもなるよ。
でも許しちゃう。
だってちっぱい女子が幸せになるのはいい事なのだから。
「チハが戻ってよかったな、ケイ」
「ダイゴ、ありがとう」
「気にするな。ちぱ愛会(略称)の仲間として当然の事をしたまでだ」
ちっぱい女子にもちっぱい好きにも悪い奴はいないって親父の一人息子が言ってたからね。それ俺だ。
「今日はもう遅いし、帰って休んだ方がいい。相当疲れてるみたいだし」
黒い霧を吸収すると力は付くけど体力がガッツリ持って行かれるのか顔色もよくなかったし。
もし体調万全全力全快のチハの重拳を受けたらどうなるのかを想像した。
多分だけど*を通り越してあんぱんのヒーローみたいに頭だけ吹っ飛ぶんじゃないだろうか。
考えるのが恐ろしいので俺は考えるのをやめた。
「そう言ってくれると助かるよ。また明日お礼をさせてくれ。…さぁチハ、一緒に帰ろう。話したい事がいっぱいあるけど、まずはチハが回復してからだ」
「でも…アタシ」
しゅんとするチハ。
そういえば問題がまだ解決してませんでしたね。
ケイと会うことによってデレたツンデレちっぱい女子はもう大人しくケイの店に入ると思うけど、天使堕天使の問題があった。
堕天使である以上、黒い霧を無意識に吸収してしまうし、一緒にいるとなったらケイにも悪影響が出てしまうとか。
しかし問題ない。
要は天使に戻ればいいだけの話なのだから。
「さすがです大吾さん! 何かいい方法があるんですね! お胸を見ながら話してるので蹴り倒そうかと思いました!」
「だいご。話す時は顔を見なさいって何度言えば分かるの?」
「しょうがないよ、ダイゴだもん」
「ヴィヴィちゃんまで毒吐いたら誰が俺を癒すの?」
メアも『鎧重い脱ぐ』って超高速で言い続けているし俺はもう猛毒状態になったよ?
これは早急に癒してもらわないと。
「じゃなくて、伝説を試すんだよ」
そう言って絆のアーティファクトを手に取る。
添えてたバニラを起こさないようにね。
「伝説を試す?」
「ケイも転移者なら知ってるんじゃないか? ランプの魔神の話」
「願いを叶えてくれるってやつか。まさかそのランプが?」
「いや、まだその力が使えるって決まったわけじゃないけど。幼女だし」
「幼女かよ」
「ただの幼女じゃないぞ。可愛い幼女だ。ところでチハに聞きたいんだけど」
「な、なによ」
ジッと警戒の目。
マジで俺とケイとで反応違いすぎん? 別にいいけどさ。
「黒い霧ってのは夜間はずっと出てるのか?」
ここ重要なんです。
以前の調査クエストの時は無くなったけどたまたまだったかもしれないしね。
「皆が寝静まる時に一気に出るから今夜はもう出ない、と思う」
さっきまで出てたし、と。
ふむ。
つまり翼を消していれば今夜はケイといても問題ないってことだな。
「じゃあ今夜は帰って明日またここに来てくれ。それでシオンにお願いしてみよう」
「シオン?」
「この子の名前」
ランプをサスサス。
にゅっと出てくるシオン。
落ちないように抱っこするのも慣れたものです。
「んにゅー」
スヤーンと寝てるシオン。
まだ小さいからね。深夜なんかとても起きてられないよね。
「マジで幼女じゃないか」
「だから言っただろ。でもご覧の通りぐっすりネンネしてるから明日チハを戻せるか聞いてみるんだよ」
「ホントに戻せるのか?」
「願いを叶える力があるなら出来ると思うよ」
人殺しをするわけでも、他人を好きにさせるわけでも、死んだ者を蘇らせるわけでもないから。
てか魔法が普通にある世界なら他にも選択肢はありそうだけどね。
死んだ者を蘇らせるなんてケイはもう既に体験してるんだし。
チハに言ったら狂ったように怒って暴れそう。
「その子にお願いしてくれるのか? ダイゴ」
「あぁ。チハが望めばだけど」
と、俺とケイでチハを見て確認すると、チハは少し悩んだ後で小さく頷いた。
武神の天使からすると強さを捨てる事になるのは抵抗があるのかもしれないけど、ケイと一緒にいることを望んだんだ。
チハのこの気持ちは叶えてあげたい。
「やってくれるか? シオン」
今は寝てるので聞いてはくれないだろうが、俺はシオンのほっぺを指でツンツンした、ら。
「はむっ」
すぐに指をぱくっと咥えてちゅぴぴぴされた。
こうして廃教会の調査クエストは静かに終わりを告げたのであった。
戦闘シーン? 知らない言葉ですね。




