大吾とアジト➂
●前回のあらすじ●
廃教会はいわく付きだけど破格で買い取れる物件だった―――。
人は先入観に捉われる事がよくある。
例えば漫画や小説などで主人公側を軸に話が進むため敵対する相手側が悪、という固定概念がどうしても拭えないだろう。
他には如何にも毒毒しい見た目のキノコは知識は無くても食ったらヤバイと思うし、容器に表示されている賞味期限が全然先の食い物が実は中身だけ入れ替わった腐りかけのものでもうまいうまいと言って食うだろう。
このように人は見た情報や知識で物事を判断し、それが間違っていても気付かず捉われてしまっている場合がある。
大型の蜘蛛であるタランチュラも見た目のヤバさとは裏腹にその毒はミツバチよりも弱いし攻撃的な生き物ではない。
流氷の天使クリオネもその美しい見た目から一変、獲物を捕食する時はバッカルコーンと呼ばれる触手を出して捉える悪魔に早変わりする。
つまりは見た目だけで決めつけるのは早計だという事。
だから先入観を捨て、柔軟に物事を考えるべきなのだ。
白だからいいとは限らない。
黒だから悪いとも限らない。
悪魔だから敵だとも限らない。
そして、天使だから味方だとも限らない、と。
―――
深夜の廃教会。
俺とマール、スズラン、そしてメアが大聖堂のちっぱい像前に集合していた。
これからここで行われるかもしれない例の黒い翼を持つ悪魔と話し合いもしくは戦闘に備えるためである。
昼間のうちにある程度は情報を集めた俺たち。
俺はここ廃教会内部を、マール&スズラン組はサンとルナに聞き込みを、ヴィヴィはある人物の監視を、といった具合で。
簡潔に説明すると俺は黒い羽を見つけた以外は特に何もなかった。
ただひたすらに一緒に何かを探してるふりをしてるシオンが可愛かったくらい。
マール&スズランはバニラを連れてサンとルナに聞き込みに行ったが二人が廃教会にいた頃には別に変わった事はなかったらしい。
そして今現在ここにはいないヴィヴィの方はというと、こちらも特に動きはなかったらしい。
何故今ここにいないかと言うと、ヴィヴィには引き続き監視をお願いしているからである。
「私がいない間にそのような事になっているとは…、皆様。申し訳ありません。以後このような事が無いよう調整致しますので」
「俺たちも急に決めたからさ。気にしないでくれ、メア」
「ありがとうございます。ダイゴ様」
「でもだいご。本当に今日ここに例のあの人が来るかしら?」
「この教会を寝床をしてるのなら必ず来る。もしかしたら酷く疲れているかもしれないけど」
「疲れている?」
ハテ? するマールちゃんちっぱい像と瓜二つ可愛い。シオンもママって言って喜んでたよ。
「疲れてるって言うか、苦しんでるって言うか」
「だいご、何か知ってるなら勿体ぶらずに教えて。あなたに探偵役は全く似合ってないわ。見ていて滑稽よ」
「毒突いてくるねスズランちゃん。俺だってまだ確信があるわけじゃないのに俺の推理はこうだドヤァして全然的外れだったら顔真っ赤になるから言いたくないの」
すぐ答えがわかるんだからもうちょっと我慢してくれ、と。
「大吾さんは何故その方が疲れてる? 苦しんでる? で帰ってくるって思うんですか?」
「今日は俺たちが古代遺跡から帰って二日目の夜だ。昨日の朝に絆のアーティファクトを手に入れたわけだし、噂になるとしたら今日くらいからだろうと思っている」
「えっ、と? すみません、大吾さん。話が全然わかりません」
ポッカーンするマールちゃん。
スズランも勿体ぶられてムッとほっぺぷっくりしてて可愛い。
メアもハテ? のポーズ。可愛いフルプレートであった。
ちなみに今シオンはランプに戻って寝ています。バニラを添えて。
「じゃあちょっとだけ俺の推理を言うよ」
的外れでも笑わないでね、と前置きをしてコホンと咳き込む。
「えっと、スズラン。例の黒い霧が目撃されたのはいつくらいからだったか覚えているか?」
「え? 確かあれは」
「メアリー様に俺たちのクランがお墨付きを貰ったくらいじゃないか?」
「えっ」
スズランとメアから驚きの声が漏れた、ってどうしたメア?
メアリー様だぞ。メアでもなければメアリーンでもない。似てるから呼ばれてドキってする事あるよね。俺は大誤算でドキっとします。
「もしかしたらもっと前からちょいちょい噂にはなっていたかもしれないけど、話が広まったのはそれくらいじゃないか?」
「……何か俺は何でも知ってるぞって話し方が癪に障るわね。決めたわ。この件の片が付いたら確実に孕まさせる。どんなに泣き叫んでも逃がさないわ」
「おっかねー冗談言うなよスズランちゃん。…えっ? 冗談だよね?」
「うふふ」
スズランはただ笑っている。
こ、怖ぇぇ…。
それに前も言ったけど孕まさせるって脅し文句はやめてくれ。
俺はちっぱい女子に対しては優しくタッチする以外何も出来ないんだからマジでパパになるよ。シオンがお姉ちゃんになるよ。
とりあえずスズランが怖いので俺は慌てて続きを話すことにした。
年下に恐怖を覚える俺マジで尻に敷かれるタイプ。
「マールやスズランやメア、それにヴィヴィはあまり経験がないかもしれないけど、今まで頑張って来たのに急に出て来た知らない奴が自分たちよりも少ない成果しか出してないのに褒め称えられるのを見るとどんな気分になると思う?」
「凄いと思います! おめでとうございますって!」
「マールちゃんは本当に優しさで出来てるね」
「私はまだまだ精進が足りなかったと自分に言い聞かせます」
「騎士の鏡だねメアちゃん」
「嫉妬で毒を盛るわ」
「スズランちゃんが言ってほしい事を言ってくれたけどストレート過ぎる上に過激すぎるからもうちょっとオブラートに包もうね」
そうだ。
普通は嫉妬するし、憎悪する。
毎日必死にトレーニングした選手が試合だけに顔を見せる選手より劣っていたら嫉妬する。
寝る間も惜しんで勉強してる優等生が遊び呆けているヤンキーにテストで順位を下回ったら嫉妬する。
そして、超有名なクランが大きな成果を上げても王女様からお墨付きを貰えたのは駆け出しの無名クランだったら。
「薄々おかしいなと思ってたんだ。俺がヴィヴィゲームでヴィヴィに勝って仲間になって以来、これと言って喧嘩っていうか何か吹っ掛けられる事がなかったから」
変な疑いを掛けられた事はあったけど、と。
ヴィヴィゲーム後に来た武闘家のモリ男(あだ名)もその後は何もなかったように今では挨拶までかわすくらいだからね。
「最初はスズランが言ってたクランに問題を出したメンバーがいると活動停止か解散になるのを恐れて行動に移さないのかと思ったけど、手を出さないまでも普通は目で牽制したりあからさまな嫉妬や憎悪オーラを出すだろ?」
それが全く感じなかった。
俺が如何に人の評価を気にしない我が道を行く鈍感野郎だったとしても人の視線を全く感じないわけじゃない。
だから、と。
「あの黒い霧がその嫉妬、憎悪そのものなんじゃないのかって。現に俺たちも触れると気持ちの悪いものだったし」
黒い霧調査クエストの時のようにアイツにとってもあまり気分のよくないものだったのだろう。
しかしそれを耐えて吸収しないといけない理由があった。
その理由が何なのかまでは俺には分からないが、この推理が正しければ今の俺が嫉妬や憎悪の対象になってないのはその黒い翼を持つ奴のお陰でもあるわけだ。
「それで大吾さんはその方が苦しんで帰ってくるって思ったんですね。わたしたちがアーティファクトを手に入れたって噂が広まるであろう日の夜である今夜に」
「アーティファクトは貴重なものだし手に入れたとなれば偉業として称えられるわけだからね。その事を気持ちよく思ってない人もいるでしょうね」
「そんな…、私の出したクエストでダイゴ様たちにご迷惑をおかけする事になるなんて」
「私の出した?」
「あっ、いや、何でも…」
俺の推理を聞いて納得したようなマールとスズラン。
そして何故か全身プルプルカタカタ音を鳴らすメア。どうしたの。
「でも大吾さん。ヴィヴィさんは今監視に行ってるんですよね? 昼間聞いた話だとその黒い翼の方は知らないけど行きそうな場所は知ってるって。じゃあ誰の監視をヴィヴィさんはしているんですか?」
ハテ? するマールちゃん。
いい質問ですねぇ。
マールちゃんのたまに出る真面目モードは急に核心を突くからね。
やる時はやるちっぱい天使マールちゃん。
「マールの言う通り俺がヴィヴィに監視をお願いしてるのはその黒い翼を持つ奴じゃない。ヴィヴィが今、監視をしているのは」
ゴクリっと喉をならすマール。
そして。
「ケイだ。俺はケイをヴィヴィに視てもらっている」
「ケイ…さん?」
ポッカーンするマール。
だが誤解ないうちに言っておくことがある。
「ヴィヴィに視てもらってると言ってもさっき言ったようにケイが‶黒い翼を持つ悪魔″の正体ではないと俺は思っている」
確か前に聞いた時、黒い翼を持つ悪魔の容姿は金髪、短髪、人型、男、華奢、黒い翼だったはず。
黒い翼を覗けばケイの容姿にピッタリと一致するが、ケイは体調不良のマールを診てくれたわけだし何より悪い奴じゃ絶対にない。
そもそもこの件に関しては悪い奴なんか誰もいないんだ。
黒い翼を持つ悪魔にしたって人の‶負の感情″を吸収しているだけだし、黒い霧が出た翌朝には調子がいいという話があるくらいだってスズランも言っていた。
あれは恐らく負の感情を吸われて心が軽くなったから。
それに実害が出てるわけじゃないし、マールの体調不良も心が純粋過ぎた為に負の感情にあてられただけかもしれない。
「でもだいご? これからここに帰ってくるその人と話をするのよね? でも今まーるが張ってる結界の条件って」
「ああ」
俺たちがまた集まった事により今度は『窃盗を目的とした者の遮断』から『翼を持つ人間、魔族の遮断』に戻したのだ。
しかしそうなると黒い翼を持つ悪魔はこの教会へ入る事は出来ず、話し合いにすらならない。のだが。
「ここも俺の推理通りならそいつはマールの張った結界に掛からずここに入って来れるはずだ」
「え? だってわたしの神聖域の条件で翼を持った方が入れるのは」
「そうだ」
スズランやマールの疑問に答えるように俺は頷く。
そう。
翼を持っていながらマールの神聖域の条件に掛からず、ここに入って来れるのは。
「‶天使″だ。もしくは神族。黒い翼を持つ悪魔の正体は天使のはずだ」
「ふーん。ただの変態かと思ってたけど結構鋭いわね、アンタ」
俺の言葉に応えるように、教会の入り口には天使が立っていた。
その天使は金髪で、短髪で、華奢で、黒い翼を持っていて、男ではなかったが―――、ちっぱいだった。
それに俺はこの声に聞き覚えがある。
同時に恐怖も覚えている。
何故ならこのちっぱい天使、髪の色は違うが俺をボコボコにしたあの赤髪の武闘家だったのだから。
さて。
ここからはこのちっぱい天使との話し合いだ。
間違っても拳での語り合いはしない。しないよね?
ちっぱい天使が…二人!




