大吾とアジト①
●前回のあらすじ●
大吾さんはヴィヴィのホットパンツが貰える羨ましい。
古代遺跡レゾナンスからミスニーハの街に帰る馬車の中にて俺はこれからの事をクランの皆、そしてメアにも自分の考えを言う事にした。
これからの事、とはアーティファクトであるランプと、そのランプを家とする幼精の保護も兼ねて以前より話が出ていたクランの‶アジト″を作ろうという話だ。
アジトを作る事により皆が今まで以上に集まれるし、メアもミスニーハの街に来た時に寄りやすいだろうから。
それにこのアジトを作る事でクランメンバーのクエストが受けやすくなるらしいし、何より安全な場所が手に入るからである。
俺たち一般冒険者のアジトは普通の建物で街中は皆が行き来するのにどこが安全? と疑問に思うかもしれないが、実は俺の嫁であるちっぱい天使マールちゃんが母性に目覚めて覚えた(と思いたい)スキルがあるのだ。
正確には強化されたスキルなのだが、そのスキルこそ。
『神聖域』
聖域の強化版スキル。
聖域と効果や消費MPは同じだが、発動、解除の条件である『術者の多重スキル不可』や『術者の結界から出た場合の効果消失』が無くなる。
神聖域によって張れる結界は一か所のみで、発動には媒介が必要。
その媒介を中心に結界を張り、その媒介が破壊されない限り神聖域の結界が消える事はない。
マールちゃんマジマルチテン。
ここぞって時にこれしかないってスキルを覚える事に定評のあるちっぱい天使。
要は『任意の場所を半永久的にマールの結界で守られる』ということ。
結界を掻い潜りつつ媒介を破壊出来るようなモンスターや人に来られたら流石にお手上げだけど、そんな事を言い出したらこのモンスターが蔓延る異世界のどこに絶対安全な場所があるかって話になってしまうので今の最善策なのである。
でもマールちゃん。
神聖域の結界条件で『邪な考えを持つ者の遮断』だけはやめてね?
もしかすると俺入れなくなっちゃうから。
マールちゃんのちっぱいはぁはぁしてる俺が入れなくなっちゃうから。
…いや? もしかするとマールの聖浄化にもかからなかったくらいだしワンチャンあるかも?
あっ。バニラの事じゃないよ、モフモフ。
でもマールのちっぱいの事を考えると浄化されちゃったんだった。ダメだった。
「定期的にステータス画面は確認しておくものですね。こんなスキルあったの全然知りませんでしたよ、わたし」
「ゲームみたいにスキル覚えた強化されたってテキストも出なければ効果音も鳴らないからな」
「ゲーム? テキスト? 効果音?」
ハテハテハテ? するメア。
あっ。すまん。こっちの話です。
「わたしはこのスキルで『邪な考えを持つ者の遮断』の結界を張りたいと思います!」
「マールちゃんそれはダメだ! それはいけない!」
「なぜですか? 大吾さん」
「なぜってそりゃあ俺がマールのちっぱいはぁはぁ…じゃなかった。えっと、あれだ、ほら、…そう! その結界条件だと誰のだか分からないおやつを見たマールが結界に跳ね返されるかなって」
「前半に邪な考えが聞こえた気がしますけど確かにそれは困ります」
「わかってくれたんだねマールちゃん」
でもおやつを前にしたマールちゃんは邪な考えも何もないと思うけどね。
ただ純粋に『美味しそうなおやつ!』って思って食べそうだから。
「じゃあどうしましょう? 大吾さん」
「『窃盗を目的とした者の遮断』なんてどうかな?」
「だいご、それは私が困るわ」
「え?」
「アーティファクトとその子を護る為にアジトを作るって事はそのアジトに住むって事よね?」
「まぁ…そうなる、のかな?」
ランプだけをアジトに置いておくって手もあるけどランプと幼女がどれくらい離れられるか分からないし、ご飯の魔力水をあげるにはランプが必要だし、そのランプを保管する意味ではその方がいいだろうし。
でもそうなると何が困るのだろうか?
「もちろん私も一緒に住むからよ」
「えっ。でもスズランはほら、ユリさんと住んでるし、ユリさんだってスズランがいないと寂しくて何をするか分からなくないか?」
と俺の言葉を受けスズランが『うっ…』と言葉を詰まらせるが、
「別に離れ離れになるわけじゃないわ。ミスニーハにアジトを作るなら同じ街、同じギルドだもの。それにお姉ちゃんにもそろそろ妹離れしてもらわないと」
「ユリさんは美人だもんな。いつまでも百合さんじゃ勿体ない気がするよな」
別に百合がいけないって言ってるわけじゃないけど、親御さんたちだって孫の顔がみたいだろうし。
「だいごがお姉ちゃんを褒めても何故か嫉妬しないわね」
「ユリさんおっぱい大きいもんね! ダイゴはちっちゃい子が大好きだもんね!」
「でも大吾さんはお胸だけで女の子を判断する悪い癖があります!」
「ダイゴ様は小さい胸がお好き…」
ちょっとユリさんを褒めただけでこの仕打ちである。
何かメアがタワワニ・ミノったフルプレートの胸部をサスサスしてるけど別に巨乳だから嫌いってわけじゃないですよ?
マールちゃん変な事言わないで。
俺はマールちゃんがちっぱいだからってだけで好きなわけじゃない。
マールちゃんがちっぱい可愛くて一緒にいて楽しいから好きなんだ。ちっぱい好きは認める。
「私が一緒に住む事になって、もし脱衣所にホカホカの脱ぎたてパンツがこれ見よがしに置いてあったらだいごはどうする?」
「ポッケに入れる」
「大吾さん?」
そういう事か。
アーティファクト以上に価値があるちっぱいガールズのパンツをゲットする機会が無くなるわけだ。
それは確かに困るな。
でも盗らなくてもくれれば何も問題ないのでは? 贈呈であって窃盗ではないのでは?
「冗談は置いといてこの条件が一番無難な気がしないか? これならランプは安全だし、もしアジトに依頼があって来る人がいても引っ掛からないだろうし」
「冗談でしたか! 目が本気だったので信じちゃいましたよ! 危うく大吾さんがベッドの下に隠してるわたしのおパンツのようになるところでした!」
「どこ行ったのかと思ったらマールちゃんが持ってたんだね。それ俺のなんだ。返してくれ。名前書いておけばよかったね」
「俺のとは」
一つ断っておくが俺は盗んだんじゃない。
新しいのと交換したんだ。
この場合は結界に引っ掛かるかな? ダメか?
「でもダイゴ。皆が暮らせるアジトって言ったら結構なお金が必要だと思うんだけど」
持ってるの? とまでは言わないヴィヴィちゃん優しいちっぱい魔王。
確かに俺たちはDランカーのちょっと食っていけるくらいになった冒険者だからね。
ギルドの受付嬢の給料は知らないけど、AランカーのヴィヴィやSランカーのメアと比べたら貯金の桁がニ、三桁違うかも。もっとかも。
「あたしも一緒に住みたいしお金出すよ!」
「ありがとうヴィヴィ。でも皆で住むわけだし、ヴィヴィだけに負担はかけないからな。ちゃんと人数分で割るから」
「出してもいいけど」
うーんするヴィヴィ。
そんなだんだん焼き買うのとはわけが違うんだよヴィヴィちゃん。
でもアジトと言う名の家を買ってもいいって言えるヴィヴィの貯蓄がどのくらいなのか知りたいドキドキ。落差で生きる希望失うかな。
「私ももちろん出すわ」
「ありがとうスズラン。でもスズランはまだ若いし給料もそんなに貰えてないだろ?」
16っつったら地球じゃ高校に入ったばかりの子供だ。
そんな子に金を出させる24歳の男。なかなかのクズ野郎じゃねーか誰だそのクズ俺だ。
「家って一括でポンって買うものじゃないでしょ? ローンを組んで毎月のローン返済分を引かれた夫の少ない給料でどうやり繰りするのかが妻の腕の見せ所だと思うの」
「少ない給料で悪かったね。ついでに夫とは」
スズランちゃんいい嫁になりそうだけど尻に敷かれる未来しか見えない。
ちょっと服に香水の匂いをつけて帰ろうものなら亀甲縛りされて真実を問われそう。
「大吾さん! わたしも出します!」
「え? マールちゃんお金持ってるの?」
「失敬な! わたしだってお金くらい!」
だって俺とマールは一緒のクエスト受けてるんだぞ?
もちろん収入は同じなわけで、あとは支出がどれくらいあるかなんだけど色々雑品を買ってるとは言え俺よりもマールの方が絶対使ってるよね。
主に食費に。
そんな食費に財産を費やすマールちゃんは財布をバッグから取り出すとおてての上で逆さまにした。
ジャラララって撒き散らすと思ったけどそんな事にはならなかった。
「…」
「…」
「…」
「…」
「え?」
マールの財布から出て来たお金を見て固まる俺たち。
急に静かになるもんだから御者のスズランも何事かと見て来たよ。
いや、使ってるとは思ったけどまさかこんな―――、100コーン(100円)だけだなんて。
「マールちゃん」
「な、なんですか? 大吾さん」
「昨日さ、遺跡の屋台の食べ物を涎垂らしながら見てたよね? 残金100コーンで見てたの?」
「み、見るのはタダですから」
「ちなみになんだけど、お金はどうしたの?」
「ヴィヴィさんと行くミスニーハの街美味いもの巡りツアーで使いました」
「そのツアー今すぐ廃止にしなさい。金がいくらあっても足りないよ」
Aランクの収入とDランクの収入は違うんだよマールちゃん!
ディラゴォン素材のヴィヴィのチューブブラだって聞けば2000パルフェ(200万)は下らないって言うじゃないか!
そんな素材を狩れる冒険者と同じツアーに参加しちゃダメだよ!
同じフルもっふ族でもダメだよ!
ヴィヴィを見ろヴィヴィを。
まさかこんな残金になってるなんて思わなかったのかポッカーン可愛い顔してるじゃねーか。おんぶしたい。
「こ、今回のクエストの報酬がありますし…」
「マールちゃん。残念だけどクエスト報酬はお金じゃなくてこのランプなんだよ。しかも売るわけにはいかないやつ」
「うぅ…」
見る見るしおしおになっていくマールちゃん儚い可愛い見てられない。
でもこれを機にお金の使い方を見直してもらわないといけない。
行く行くは専業主婦になって俺の収入で家の事を管理するんだから。
マールちゃんが嫁になったら俺はお小遣い制でも全然喜んで受け取るよ。
贅沢も言わないしお小遣いの前借なんてのもしない。
むしろそのお小遣いも全部マールと子供たちの為に使うんだ。俺はサキュバスの店には行かないよ。
異世界では会社でのクソ面倒な忘年会や新年会も無いだろうし、クラン関係で何かあれば新妻マールちゃんも参加するだろうからね。
「あ、あの…」
「ん? どうした? メア」
マールがぷるぷるしているの可愛いと見てると隣のメアが控え目に手を上げていた。
「今回のクエスト報酬の件ですが絆のアーティファクトの他にも追加でお金が支払われる、ようです」
「え? そうなの?」
おかしいな。
メアリー様の依頼書には報酬は絆のアーティファクトって書いてあっただけで、お金は書いてなかった気がするけど。
「私がメアリー…様に言ってお金を頂いて参ります」
「ええええ。いやいやいや、いいよそんな事しないでも。てか出来るのそんなこと」
「私はこう見えて王都では結構名が通っておりまして、城にもよく出入りさせて頂いているのです」
それはもう、とウンウンするメア。
メアの名が通ってるのは知ってるけど王女様に金くれなんて一介の冒険者が言える事なのだろうか。
冒険者は本業じゃないって言ってたけど、その本業の方が王家に関わる事なのだろうか。
何にしてもメアがめっちゃ偉い人ってのはわかった。
そうでないと王女様相手にそんな事言えないもんね。
サンがメアの事を『メア様』って言った意味が今やっと分かった気がする。
気がするだけでもっと偉いランクが違うかもしれないけど。
「でも王女様にもメアにも悪いからいいよ。それに俺たちはお金が欲しくてクエストを受けた訳…も多少はあるけど、絆が深まるって噂のアーティファクトが欲しくてクエストを受けたわけだし」
「しかし…、それではダイゴ様たちのアジトが」
「平気平気。ミスニーハにだってお金借りれる所はあるだろうし、他のクエスト受けてちょっとずつ返していくから」
それまでは節約生活だよマールちゃん、と。
マールもさすがに使い過ぎたと思ったのか小さく頷いてくれた。
今度のクエスト受けるまではマールのご飯代とお風呂代は彼氏の俺が責任を持って払います。
俺も残金100コーンにならないかな。
「でしたらせめて…、これを」
そう言ってメアはマントの留め具として使っていたバッジピンみたいなものを俺に差し出した。
バッジには紋章が刻まれていて、どこかで見たような…そうだ。メアリー様の手紙の封蝋! あれと同じ紋章だ。
「フェリエ城に入る通行手形のようなものです。お金に困った時は是非いらして下さい。お力になります」
「えっ。メアって城に住んでるの?」
「あっ。い、いえ! 仕事で入る事があるだけ…でもないですけど、その、と、とにかくお受け取り下さい!」
「おぉう」
半ば強引に通行手形を貰いました。
それは見た目よりずっしり重く、きっとこれだけでもお高いのでしょう。
「フェリエの王都はミスニーハの街より北へ馬車で四半日の距離にあります」
「ミスニーハの北? エメラルドマウンテンの方ってこと?」
「そうです。と申しますか、エメラルドマウンテンを越えた先が王都です。なのでミスニーハの街にはよくお伺いします」
「はぇー」
異世界生活で初めて行ったクエストの先が王都だったのか。
この辺の地理はまだまだ全然詳しくないから今度地図でも買うか。
ケイの店とかで探せばありそう。
「ありがとうメア。本当にどうしようもなくなったら行くかもしれないから、その時はよろしく頼むよ」
「はい、ダイゴ様」
出来れば自分たちだけで何とかしたいけどな。
と、ここでヴィヴィとスズランが何か言いたげにしとる。
毎回思うけどメアの話になると二人共大人しくなるよね。いつもの元気はどうしたの。俺は元気なヴィヴィ、毒づくスズランが好きよ。
そんな事を思っていると俺たちの馬車は小さな湖に差し掛かった。
日も高くなってそろそろお昼の時間だし、休憩がてら寄って行こう。
もしかしたら魚釣れるかもだしここから節約の第一歩だ。
異世界の淡水魚がどんなのがいるのか知らないけど、味見はヴィヴィにお願いしようかな。あっ。ヴィヴィちゃんめっちゃ涎垂らしとる。
猫は魚も好きだもんね。ヴィヴィなら釣り具なしでも素手で捕まえそう。
マールちゃんも涎垂らしとる。
でもマールちゃんは逆に釣りの餌に食いついて釣られる方かもしれない。
ランプの幼女は…、バニラを抱いてハムハムしてた。
やっぱりマールとヴィヴィにそっくりだった。
パンツは手に取るもの。そしてポッケにしまうもの。そして、拝むもの。




