大吾とアーティファクト➂
●前回のあらすじ●
メアはロボみたいに湯気出してロボメアだった。
「わー。結構人がいますね、大吾さん」
「だな。アーティファクトは高値で取引されるらしいし一攫千金を狙ってる冒険者や、それ以外の歴史的価値がある遺跡を一目見たいって調査団たちだろうな」
はいー。
そんな訳で俺たちは古代遺跡レゾナンスへとやって来ました。
遺跡に着いてまず驚いたのが冒険者、調査団の多さ。
めっちゃおる。
人の多さで言ったらミスニーハの方が当然いるんだけど、遺跡前に集中しているので実際よりも多く感じます。
以前トロピカルジュースを買うのにヴィヴィゲームの順番待ちと一緒になってたあの列くらいの人の多さ。
それにその人たちをターゲットにしてる食料の屋台なども目立つし、ちょっとしたお祭りのように騒がしい。
俺たちが遺跡に着いたのは陽が沈むちょっと前だったが、それでもまだまだ遺跡に入る者出る者がいるくらい。
「とりあえず先にテント張っちゃうか」
よっこいしょ、と荷台からテントの袋を取り出す。
ケイの店で買った収容人数最大六人まで可能な大型テント、お値段50パルフェ(五万円)。
キャンプなどのアウトドアをあまりしない俺には相場が分からないのでちょっと高い気がしたけど、これから先、野営をするクエストでもまた使えるし思い切って買ってみた。
皆で使うんだしお金を出すとマールたちに言われたのだが、マール以外寝袋を持っていないのでとりあえず各々の寝袋と今回のクエスト用の水と食料代、冷蔵食品庫のレンタル代や野営用の薪代などその他費用を出してもらう事にしました。
そんなテントはご丁寧に取扱説明書も入っているし、テントを張る場所、張り方、注意点などが書かれていて助かった。
異世界人も気が利く、と思ったけど多分これも転移者が何かしらの能力で出したものなのだろう。
とりあえず俺一人ではこのデカいテントは張れないのでマールたちに手伝ってもらって少しずつやっていった。
俺とマールはもちろん、スズランもテント初心者だし、ヴィヴィとメアは経験者かと思ったけどヴィヴィはどこでも寝れるらしいしメアは野営自体した事ないとのこと。全滅であった。
しかし今のテントは初心者でも結構しっかりしたものが張れるようになってる(と信じたい)ので大丈夫でしょ。
一夜だけ雨風凌げればいいし、ここに住むわけでもないし。
でも日没までには組み切らないと作業がやり辛くなるので急がないと。
シート敷いてインナーテント張ってポール建ててペグ打って固定してフライトシートを被せて、と取説を見ながらの作業だったが無事日没までに組み切る事ができた。
思いの外早く出来たけどこうして考えると某青狸が出すゴルフボールとティーの形をしたキャンプ道具ってめっちゃ便利なんだな。流石は22世紀です。
「よし、皆ありがとう。ちょっと休憩して夕食の準備をしよう」
「「がるるるる…!」」
ダブルぷにっ。)3(。
「「ふぁっ」」
ビーストモードになるフルもっふ族のマールとヴィヴィを止める。
ちょっと目を離すと食い物全部持って行かれるからね。危ない子たちだよホント。
ちなみに休憩は食後に、と思ったがインドア派であるスズランがそれはそれはヘロヘロになっていたので入れる事にした。
御者をずっとやって疲れてる所をテント張るの手伝ってもらったしね。
「大吾さんどこ行くんですか?」
ハテ? するマールちゃん可愛い。
俺と離れたくないのか聞いてきてくれるんだね。
「ちょっと遺跡がどんな様子かだけ見てくるよ。それによって夜入るか一晩待って朝方入るか決めようと思う」
「なるほど。流石です大吾さん」
ぱっと笑顔を見せるマールちゃんマジマルチテン。
そんな訳で俺は遺跡の入り口へと向かったのだった。
のだが。
「はい。君の番号札」
「へ?」
遺跡の入り口近くにいた調査団っぽい男の人から木の札を貰った。
そこには『35』と書かれている。
えっと…、これは?
「何だ、君はこの遺跡初挑戦か」
「そうですけどこれはなんですか?」
俺何か注文したわけでも病院の順番取りしに来たわけでもないんだけど。
「レゾナンスへの挑戦は一組ずつって決まってるんだ。絆を示すのに他の冒険者がいたら邪魔になるだろ?」
その事を考慮してだ、と。
はー。
遺跡に着いた時に見た人たちは丁度出入りのタイミングだったって事か。
まぁ確かに俺がマールちゃんとイッチャイチャしてるところを他の奴らが見て発狂したら申し訳ないもんね。
その逆もまた然りだろうからこの取り決めは妥当…なのだろうか。
「35って今は何番の人が入ってるんですか?」
そこで気になるのが待ち時間。
もうすぐだよって言われれば急いで戻ってマールたちに言わないといけないし、まだまだ先って言われれば仮眠を取る選択肢も出てくるからね。
で、調査団の人から帰って来た答えは。
「今は24のパーティーが入ってるよ。時間の制限はしてないけどそんなに大きくない遺跡だし、調べる事がなくなったら出てくるんじゃないかな。でも君の番になるのは早くても明日の朝方だと思うよ」
「ありがとうございます。明日の朝また来ます」
俺はペコリと頭を下げて踵を返した。
さっきの選択肢で後者の方だったからね。仮眠じゃなくて朝まで熟睡の方だけど。
戻る途中に食い物の屋台などを覗いてみたけど、やっぱりと言うべきかミスニーハの街よりは高く売られていた。
この値段でフルもっふ族のマールとヴィヴィが満足する量を買ったのなら店側はボロ儲けなのだろうがそうさせないように事前に買っておいたからね。
だからあの屋台の前で滝のような涎を垂らしてるマールちゃんはきっと別のマールちゃん。
ちっぱいレベルは99。本物だった。
「こら」
「ふぁっ」
突然のほっぺぷに。)3(。涎がぴゅーと放物線を描く。
「ふぁれ? 大吾ふぁん? ふぁやふぁったでふね」
あれ? 大吾さん? 早かったですね、と言った。
喋る時に3ってなってる上唇と下唇がピコピコ動くのが可愛い。ハムハムしたい。
とりあえずマールちゃんが自我を取り戻したのでぷにぷにをやめた。
「遺跡に入るのはパーティー毎みたいでな。早くても明日の朝まで順番待ちらしい」
「そうなんですか。でもゆっくり休めると思えば全然その方が良かったですね」
「だな。スズランも疲れてるみたいだったし逆にラッキーだったのかもしれない」
「えへへ」
「ところでマールちゃんはここで何をやっているのかな?」
「うっ」
涎を垂らしてた手前、何もしてませんでしたとは言えず言葉に詰まるマールちゃん。
お財布をぎゅっと握り締めている手前、何もしてませんでしたとは言えず言葉に詰まるマールちゃん。
何とも可愛いけどここは高いから我慢しようね。
俺はまだ未練がましく屋台の食品を見ているマールをズルズルと引きずってテントに戻った。…ら、これまた驚きの光景が広がっていた。
「あっ、お帰りなさいませ。ダイゴ様、マール様」
まずメアがトントントントンとサンダルフォンで何かを斬っていた。
剣を包丁みたいに扱うメアさすがと思ったが、斬ってるのは薪だった。
薪を大根みたいに斬ってた。
綺麗な細切りやせん切り。
俺はビックリし過ぎて二度見どろか五度見くらいしたよ。
「火の焚き付け用に細かくしております」
「そうね。太い薪だとなかなか火が点かないもんね」
「だいごだいご。ゔぃゔぃを止めて。食材全部使うつもりよ」
メアの驚きの剣技に目を奪われていたが、スズランがビーストモードになってるヴィヴィを抑えて俺に助けを求めている。
しかし冒険者ではないスズランが完全にヴィヴィを抑えれるわけはなく、ただおんぶしてるだけだった。
俺は危ないからヴィヴィから離れるようにスズランに言って降りさせる。
そして決死の説得タイム。
「ヴィヴィ。落ち着け。もうすぐ夕飯だ。今準備す」
シャッ! っと背後を取られる。
は、はえぇ…。
相手は飢えたパンサー。俺はガゼル。辺りは薄暗いし、いよいよ俺に勝ち目はない。
「……ふぁれ? ダイゴのいい匂い…」
俺におんぶした事によって自我を取り戻したヴィヴィだけど、クンクンしてるのは何故?
いい匂いって食う意味でのいい匂いって事じゃないよね?
前もそんな事言われたけど、フルもっふ族のヴィヴィが言うと体が震えます。
とりあえずヴィヴィに食材を使い切られる心配は無くなったし、明日分の食料を残して準備しよう。
今夜はバーベキューという事で仕上がっているものではなく料理前の食材。
って言ってもただ鉄串に刺して焼くだけなんだけどね。
メアが薪を細かくしてくれたお陰で焚き付きが早くて助かります。
「大吾さん大吾さん。お肉だけの串はサービス串ですか!?」
隣からじゅるるる…っと音が聞こえるけど、その音の主はもちろんちっぱい天使マールちゃん。
よく聞いたらステレオサウンドになってたので逆を見てみるとヴィヴィも同じくらいじゅるるる…してた。
両手に‶ちぱ″で嬉しいし可愛いけどもうちょっと待っててね。
「バーベキュー串を初心者が作って失敗するパターンの一つが見栄えをよくするように肉や野菜、魚介などを一緒の串に刺して焼く事らしい」
「そっちの方が色鮮やかで見た目も美味しそうでいいと思いますけど」
ダメなんですか? と首を傾げるマールちゃんマジ主役の肉。
俺はそんなマールの引き立て役のピーマンか玉ねぎ。子供には人気が無かった。
「肉と野菜、魚介などを一緒の串で焼くとまず最初に野菜が焦げる。野菜がいい感じに焼けても肉はまだ生だし、肉に合わせると野菜が焦げるからね」
「焦げるくらいなら生で食べますよね」
「あたしはどんな状態でも食べられるよ!」
「いや? そういう話じゃないんだけどね?」
フルもっふ族の二人には関係ない話だったのかもしれない。
俺は肉串、野菜串と分けて焚火周りに刺していくが減っていくのは肉串ばかり。
おかしいな。野菜が減らない。
1:1くらいで食っていけばバランスがいいのに今じゃ1:9くらいで食わないとバランス取れないよ。
それに誰だこんな所に綿あめ置いた奴は。危ないだろうが、と思ったらバニラだった。
もふもふのバニラは火が弱点な見た目してるのでもうちょっと離れようね。危ないからね。
「そういえばメアは食わないのか?」
「私の事はお気になさらず、皆様で召し上がって下さい」
「そうは言ってもな。もしかして肉とか好きじゃなかったとか? ごめんな、マールたちが大好きだから肉にしちゃったけど悪かったかな」
「いえそんな、ダイゴ様が謝る事はありません。私が食べないだけですので」
私もお肉は大好きです、と。
うーん。
今日の昼もそうだったけど、てかメアが食事してるところ見た事ないな。
素顔を見た事がないってのもあるんだけどそんな食わないでよく力が出るよな。
マールやヴィヴィだったら多分一食抜いただけでも充電切れてその辺に転がっちゃうよ?
「ふっふっふっ。今日はわたしから皆さんにプレゼントがあります!」
そして突然のマールちゃんからサプライズ予告。
も、もしかして指輪? 婚約飛び越していきなり結婚ですか? よろしくお願いします。
でもそんな新婦マールちゃんがバッグから取り出したのは見た事ある焼き菓子の箱だった。
「じゃーん♡ パウンドケーキ持って来ちゃいました♡ 皆さんで一緒に食べましょう♡」
マールが以前お土産で買って来てくれたパウンドケーキ!
確かメアリー王女のお墨付きである☆マークが焼かれてて、しっとりしてて美味いんだよな。
マールも俺やナンシーさん、ギルさんにお土産にしたり今回のクエストにも持ってくるくらいだし、その味の虜になっているのだろう。
このパウンドケーキならメアも食べてみたいと思うんじゃ…えっ?
「…、…、…」
「メ、メア…? どうした? 大丈夫か?」
メアがヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴって超微振動しとる。
何かの意思を断ち切るように手は強く握り締められているし、フルメイルの隙間から『コォォォォ…』って音だか声が聞こえる。
ヴィヴィとスズランは「あー…」って感じでパウンドケーキとメアを見比べているけど、もしかして俺とマールが知らないだけでメアって超絶甘党だったりするのだろうか。もしくはスイーツに目がない女子。
「えっと…メア? もし良ければだけど俺の分のパウンドケーキ食う、か?」
「よろしいのですか!? …あっ、いえ、そんなわけには」
「俺はこの前食ったからさ。マールもいいだろ? 俺の分はメアにやってくれ」
「大吾さんがそう言うならいいですけど、メアさん!」
はいどうぞ♡ と、俺の分を合わせてパウンドケーキ二箱をメアに差し出したマール。
って一人一本かよ。
一本を皆で食うんじゃないのかよ。
どれだけ食うんだよ。
食後にそれだけ食べれるのはフルもっふ族のマールとヴィヴィくらいだからね?
スズランを見ろスズランを。
驚きのあまり可愛い口ポッカーン開けちゃってるじゃねーか。わたあめ入れたい。あっ、これバニラだ。
「マール様…、この御恩、一生忘れません。必ずお返し致します」
こっちはこっちで何か凄い事になっとる。
いくらそのパウンドケーキが美味いからってそこまでじゃないと思うけど、メアにとっては深刻な問題なのかしら?
「しかし皆さまの前で醜態を晒すわけには参りませんので、申し訳ありませんが後程頂きます」
そして深々と礼をするメア。
醜態って何すか?
晒すって何すか?
そのパウンドケーキ食べるとマールちゃんみたいに顔の筋肉という筋肉が蕩けてふにゃふにゃになっちゃったりするあの現象かな?
そんなの気にしないでいいのに。
マールやヴィヴィ、スズランのでさえ見てる俺はメアの蕩け顔も余裕で直視出来るよ。
俺はそんな事を思いながらマールたちがケーキを食っている間、残った野菜串を頬張るのだった。
明日は遺跡攻略するから力を蓄えておかないとね。
ちょっと肉が足りない気がするけどマールたちの美味しそうな顔を見てるだけでも力が湧いてくる不思議。
いや、不思議ではないな。
俺はちっぱいの神。
ちっぱい=パワーの源。
ちっぱい=力の象徴。
もしかしたら俺ってマールたちがいれば飲まず食わずでも常人より生きていけるのではないだろうか。
一応は神って事になってるらしいし、天使のマールみたいに高位な生命体である可能性もある。
ってそんな訳ないか。
だって食わないでもいい体ならマールちゃんがここまで美味しそうに食べる事なんてないからね。
ね? マールちゃ、あっ。スズランが残したパウンドケーキをヴィヴィと半分こしとる。
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皆さん押さないで順番にお並びください。
参加費はマール教への入信書にサインをするだけです。




