大吾とガチ休日-夜-
●前回のあらすじ●
バニラにチェンジアップは効かなかったですの。あっ。―――。
「大吾さーん!」
「マールちゅわーーーーーーん!!!」
俺のガチ休日の終わりを告げるように空が赤く染まった頃、メインイベントがやって来た。
それはちっぱい天使マールちゃんとの再会。
夕方には帰りますから、との事だったので俺もそれくらいに合わせて宿に向かっていたら帰り道の途中でマールちゃんを発見した。
マールちゃん会いたかったよおおおおお。
俺は手をパタパタ振って可愛いマールのもとへスッタターと走っていき熱い抱擁を交わした。
「ただいま、バニラ。大吾さんとたくさん遊んで疲れたでしょう?」
「へっへっへっへっ!」
…バニラを見ました。
知ってたよ。
左右からダーッって走って来て抱き合うのかなって思った瞬間、素通りするとか別の何かに注意がいってるなんてのはアニメで腐る程見て来たからね。
これもお約束ってやつなんだが、いざ自分が体験するととても切なくなります。
バニラてめぇ。
さっき男同士で語り合った事なんか忘れてマールちゃんの可愛い顔をペロペロ舐め回しやがって。
狼はペロリストだが、それにしたって舐め回し過ぎでしょ。
マールの顔が美味しいのは分かるけど舐め回し過ぎでしょ。
「今日はミスニーハの街を食べ歩きしたんですよ! とっても楽しかったです!」
「ちゃんと口の周り綺麗にしながら食べた? 店潰すまで食べてない?」
「スズランさんが拭いてくれました! それにいくらヴィヴィさんと一緒でもそんなに食べられませんよ!」
スズラン…、よくやった。大変だっただろう。あとでまた高い高いしてあげようね。
それにスズランもマールもヴィヴィもいい気分転換になったのかな。
いつも自由気ままにクエストを受けているって言っても一応は仕事だし、スズランは人を相手するからストレスもあったろうしな。
定期的に遊んで発散するのはいいと思うけどマールちゃんいないと寂しい辛い。
「そういえば大吾さん。今日ミスニーハの街に王女様がいらっしゃってたんですって」
知ってました? とハテするマールちゃん殺人兵器。
半日ぶりだけど気が狂う程可愛いちっぱい天使だった。
「あぁ、そんな事言ってたな。串やのおばちゃんとか屋台のおじちゃんが。俺別に興味なかったから見に行かなかったけど」
「わたしも王女様を見に行ったってわけじゃないんですが、凄い行列だったのでこれはどんな食べ物が!? と思って見に行ってみたら王女様でした」
「多分その行列の中で王女様目当てじゃなかったのマールたちくらいだったと思うよ」
ニポーンでもたまに芸能人が街中に出歩いていたら野次馬が出てくるけど、俺はそんな奴らを横目に美味い棒(めんたい味)買う自信がある。
一般ピーポーの俺たちにとって芸能人や王女様なんてのは住む世界が違うんだから憧れの念を抱くのもわかるけど。
俺だってその王女様が仮にちっぱいだったらタイムセールに力を発揮するマダムレベルに当たり負けしないフィジカルで最前列を取るよ!
「大吾さんの事だからてっきり暴走して騎士の方たちに捕まったんじゃないかと思いましたよ」
「え? どゆこと?」
「王女様、大吾さんが好きなお胸が小さい女性の方でした」
どこかで見た事があるようなないような、とムムムする(可愛い)マールちゃん。
俺が好きなのはマールちゃんだよおおおお。
「王女様ってか偉い人には騎士が付くんだなやっぱ。俺もシルヴェストリの宿の子が騎士連れてたのはビックリしたけど」
「この時代のSPみたいなものですからね。って大吾さんも王女様見たんじゃないですか」
「いやいや、俺が見たのは宿屋の子だよ。偉い宿屋の子だよ」
「何ですか偉い宿屋の子って」
騎士を連れてるんだから偉いは偉いだ。
でもおかしいな。
領主家出身であるアンナは護衛的な騎士を連れてなかった気がする。
貴族は護衛を付けるものだと思ってたけど、まぁ家によるのかな。
「そういえばヴィヴィもスズランも帰ったんだな」
「はい。スズランさんが人混みの中歩き慣れてなくてヘロヘロになっちゃったんでヴィヴィさんがおんぶして送って行くって」
「…」
「…大吾さん今、ヴィヴィさんと変わりたいって思いましたね?」
「えっ。マールちゃんいつから心をスキャン出来るようになったの? 対戦カードゲームの創設者になったの?」
でも自分だけが有利になるカードを作っちゃダメだよ、と。
トゥーンは反則デース。攻撃をかわすって設定はアホデース。
「せっかく大吾さんにお土産買ってきたのに渡す気がなくなりました」
「お土産! マールちゃんが俺の為に俺を想って選んでくれたお土産欲しい! 一生大事にする!」
「一気に渡しづらくなりましたよ! それにそんな大事にされても困ります!」
だって食べ物ですから、とマールは紙袋を差し出して来た。
今日はヴィヴィやスズランと一緒に食べ歩きしてたマールちゃんが特に美味しいと思ったものを買って来てくれたようだ。
「チョコマーブルのパウンドケーキです! しっとりで口当たりがよくてとっても美味しいんですよ!」
と満面の笑みで言ってくるマールちゃん可愛すぎた。
もうその笑顔だけで最高のお土産なんだけど、ちょっとこの紙袋重くない?
パウンドケーキってこんなに重いものなの?
「あっ。お世話になってるナンシーさんやギルさんの分も入ってるんです」
「なるほど。じゃあマールも一緒に皆で食べよう。ありがとな」
「えへへ」
気遣いが出来るマールちゃん照れ可愛い。
それにこれからマールのふにゃふにゃ蕩け顔見る事が出来る幸せ。
そんなマールちゃんはバニラにもお土産だよ~、と骨のおやつ見せてた。
バニラも興味津々でクンクン匂い嗅いどる。
―――
夜。
俺たちは夕食を済ませて風呂に入り、宿に戻って来ていた。
いつもは食後のデザートもフルもっふするマールちゃんだけど今日はパウンドケーキがあるから控え目にしたらしい。
そんな訳で今は宿屋の公共スペースでナンシーさんとデザートタイム。
ギルさんも呼びたかったけどまだ仕事中らしいので『後で食わせてやることにするよ、ありがとね』と言われた。
ナンシーさんはパウンドケーキを食べやすい大きさに切って出してくれた。
プレーンのパウンドケーキではなくマーブルのバウンドケーキなので、断面も見て楽しめるのがいいね。
手触りもしっとりしていてマールが言うように食べる前から既に美味しそう。
じゃあ頂こうかな。
流石にお土産、って買って来た手前自分が一番最初に手をつけるわけにはいかないのかマールちゃんが涎垂れ流しながら見てくるし。
俺の心もマールへの愛でマーブル柄になってるよ。
そんな訳で一口。
「むぉっ!?」
しとーい!
しっとりうまいの略。
これはまた久しぶりの触感。
焼く事が多い異世界メニューにおいてしっとり感触はとても新鮮で面白いです。
チョコも甘過ぎず苦過ぎず絶妙なバランスで配合されているし、しっとり系なので焼き菓子系独特の口の中パッサパサになるって事もない。
「マールが絶賛するだけあるな。めっちゃ美味い」
「このパウンドケーキはメアリー様もとても気に入って個人で買いに来るくらいだからね」
「そうなんですか。まぁ王女と言っても女の子ですもんね。でもこの味なら納得です」
「ケーキに☆マークが焼かれてるだろ? これはメアリー様からのお墨付きって意味があるんだよ」
「はぇー」
確かにパウンドケーキの表面には☆マークがある。
今はナンシーさんが切り分けてくれたから線が入っちゃってるけどね。
そういえば串やのおばちゃんも王女様のお墨付きが貰えれば商品に箔が付くから皆頑張ってる、みたいな事言ってたもんな。
これはその成功例なのだろう。
…さて。
もうそろそろ目の前のちっぱい天使をどうにかしないと。
多分俺の『マールも食べよう』の言葉を待っているちっぱい天使をどうにかしないと。
「マールも食べ」
「いいんですか!?」
おぉう。
食いつきが良すぎた。
俺だけじゃなくてナンシーさんまでビクッとしたよ。
ダメよマールちゃん俺だけならいざ知らずナンシーさんまで驚かせちゃ。困った子だよ本当に可愛い。
そんな困ったマールちゃんはパウンドケーキを一切れ持ってはむっと頬張った。
「ふまぁ~♡」
おいちょっと待ってくれ。
まさかこれ買った店のイートインスペース的な場所でもその顔したんじゃないだろうな。
マールちゃん、そのとろっとろ蕩け顔はダメよ。
いや俺の前なら全然いいんだけど、他の男共が見るかもしれない所ではやっちゃダメよ。
もし俺が王女様ならそのマールの笑顔にお墨付きあげちゃう。
「マールちゃんは本当に美味しそうに食べるねぇ」
「そこがマールの可愛いところですから」
「ふまぁ~♡ ふまぁ~♡」
「マールちゃんは本当に食べてる時は話を聞かないねぇ」
「そこもマールの可愛いところですから」
パウンドケーキをフルもっふしてマルスターになってるマールを見ながら俺とナンシーさんも食べ進めた。
うーんしっとり美味い。
ナンシーさんが淹れてくれた紅茶とも合うし、そこそこ大きかったパウンドケーキ一本を夕食後でも余裕の完食。
「…あれ? マールちゃんマールちゃん」
「もふー」
ほっぺぷにっ。
美味しさで我を忘れているマールの自我を取り戻すためにほっぺぷに。
)3(顔のマールちゃんマジ神クラスの可愛さ。
「ふぁっ。なんれふか、大吾ふぁん?」
)3(顔でハテ? するマールちゃんマジ神クラスの可愛さ(二度目)!
こんなところにもしっとり触感のぷにぷにパウンドケーキが!
「マールの帽子にそんなの付いてたっけ? バッジ? みたいな」
帰り道会った時は嬉しさのあまり気付かなかったけど、今現在は帽子は取ってテーブルに置いてあるので気が付いた。
こんなの付いてなかったよな?
このデニムキャップは俺が選んだものだし、今朝だってこんなバッジみたいなのは付いてなかったはずだ。
「あっ。忘れてました。ユリさんにわたしたち『三つ輪のクローバーの皆様へ』って渡されたんでした」
「ユリさん?」
ハテ? する俺。
なにユリさんも一緒にいたの今日?
珍しいな。
‶二輪の花″であるユリさんとスズランが揃ってギルドを休みなんてなったら冒険者来なくて経営成り立たないんじゃね。
他のギルド員も特別休暇するレベルで人来ないんじゃね。
「何か慌てて持って来てくれましたよ。スズランさんの匂いを追って来たって言ってました」
「おぉう…」
ガチの百合さんじゃねーか。
スズラン大丈夫かな。
人混みで疲れてフラフラって言ってたけど、家に帰って何かされてないかな。
ヴィヴィ、今日だけはスズランの部屋の警備をしてくれ。
同じ武闘家で手練れな上にスズラン愛でバーサクしてるユリさんを相手に出来るのはヴィヴィだけだ。
「大吾さんのもありますよ」
はいどうぞ、と俺にもマールと同じバッジのようなものを差し出した。
銀と紫を足したような色をしたそこそこ重いバッジだ。
「……んん? ちょ、ちょいとお兄さん。それ見せてもらってもいいかい?」
「え? あ、はい。どうぞ?」
何かナンシーさんがプルプルしてる。
珍しいものなのだろうか?
ユリさんも慌ててたみたいだし。
「たまげたねぇ、本物だよ。初めて見た」
「ナンシーさん?」
ハテ? する俺とマール。
お揃いで嬉しかったけど何がそんなにたまげたの?
「これは王家の紋章だよ。ギルドのユリちゃんが持ってきたって事はお兄さんたちにメアリー様が贈ったって事なんだろうけど」
「え? 何で俺たちに?」
「それはお兄さん、ギルドでの活躍が認められたとか、これからに期待とか色々あるさ」
「俺たちそんな大きなクエストやってないんですけど。卵の殻割ったり、狼捕まえたりしただけで」
そもそも王女様自体に会った事無いし、と。
まぁ領主の近況報告のギルドバージョンみたいので知ったのかもしれないけど、それこそ俺たちより全然ギルドや街に貢献しているクランなんか山ほどあるわけでいよいよ意味不明だ。
街での俺の評価も底辺も底辺でむしろ犯罪者予備軍呼ばわりされてるくらいだし。
「詳しい事は分からないけど、ギルドを通したって事は‶メアリー様お墨付きのクラン″になったって事だろうね」
「へー」
「反応が薄い! 凄い事なんだよ? そんな冒険者を泊めてるなんてアタシも鼻が高いよ!」
確かに凄い事なんだろうけど全然全く興味がなかった。
多分マールもヴィヴィもスズランだってそうだと思う。
俺たちは別に有名になりたくて冒険者をやっているわけでもクランを立ち上げたわけでもない。
いや、有名になりたくないっていうのはちょっと語弊があるけど、本来はマールの正体を隠しつつマール教の布教をするのが真の目的なわけで。
その為に王家の力を借りる気もないし、正直そこそこ食っていけるようになったので布教ものんびりでいいんじゃないかなと思い始めてる感もある。
世界には数こそ少ないけど少ないながら強い信仰を抱いてくれている女神様を祖とした宗派があるくらいだし。
マールちゃんもそういうのを目指そう。
日本人独特の仏教神道キリスト教に拘る必要もない。
‶教徒は量より質、食べ物は質より量″。これで行こう。
「有名どころが揃ってるお兄さんのクランがこれでますます話題になって忙しくなるね、こりゃ」
「大丈夫です。合併話は全部断ってますし、クラン加入の話も最近は来なくなりました。あとは引き抜きの話をギルドが禁止してくれれば全てが解決されます」
俺の一番の不安は王家にマールちゃんを連れていかれること。
もしそんな事になったらちっぱいと噂のメアリー様だろうが誰だろうが俺は怒り狂って鷲掴みにするよ。
でも本当に何で王女様が俺たちのクランに?
最近はオリオンさん親子の護衛とかエメラルドマウンテンの湧き水運搬くらいしかやってないのに。
このパウンドケーキが大好きみたいだから、材料の湧き水運んできた俺たちに贈ってくれたのだろうか謎だった。
ところでマールちゃんがやけに静かだと思ったらケーキ二本目(手付かず)を涎垂らして見とる。
ダメよマールちゃん。
これはギルさんのだからね。
もしかしたら明日の朝ごはんに付けてくれるかもしれないからそれに期待しようね。
今日はもう終わりだよ。
ガチの休日はもう終わりだよ。
フルもっふマールちゃんの可愛さ指数が天元突破してる




