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大吾とガチ休日-午前-

●前回のあらすじ●

マールちゃんは大吾さんのお腹の上がお気に入りで可愛かった。



 ガチ休日の朝、マールとおにぎりを食べてほっと一息。

 ナンシーさんは毎朝二個のおにぎりを作ってくれるが、ご厚意でバニラのご飯まで用意してくれた。

 本当にありがたいことです。

 今日のマールはヴィヴィ、スズランと一緒に出掛ける用事があるので俺がバニラの面倒をみることにした。

「それじゃあ大吾さん、行ってきます。バニラをよろしくお願いします」

「はいよ。知らない人に食べ物あげるって言われてもついて行っちゃダメよ」

「そんな子供じゃないです! 大吾さんも一人だからって街行くお胸の小さい人を見て捕まらないで下さいね?」

「見ただけで捕まるって俺は前歴四回の免許取り消し一歩手前のドライバーか何かかな?」

 交通センターの人とも仲良くなっちゃうレベル。

 異世界には車がないので免許も何もないけどね。

「夕方には帰りますから」

 そう言って宿を出て行ったマールちゃん可愛い寂しい。

 今日のマールちゃんは休日仕様の白ワンピに皮サンダル、デニムキャップ姿。

 あんな天使のような格好の子が街中を歩いていたら十人中十人が振り返るレベル。

 寧ろマールの後をついて行っちゃうかもしれない。

 でもそうしたらヴィヴィの超反応からのスズラン毒毒攻撃が待ってるので安心して待てる不思議。

 さて。

 俺はどうしようか。

 マールをお見送りして宿の前にいるが、足元には毛玉がへっへっへっへっしてる。

「そうだな。俺と散歩でも行くか? バニラ」

「わぅ!」

 そんな訳で俺はバニラを連れて休日の街を散歩することにした。




  ―――




「相変わらず賑やかだな」

 平和で落ち着きのあるシルヴェストリの街と違って、冒険者や商人が入り乱れるミスニーハの街は今日も賑やかです。

 異世界の休日事情は未だに把握していないけど国民の休日っていうのはあるのだろうか?

 冒険者は休みと決めたら休みだし、店なんかもチェーン店なんかはなく個人店が殆どだろうからこの日は絶対休みっていうのは無いような気がする。

 そもそも一週間だの完全週休二日制だのも無く、仕事をしたい時にして休みたい時に休んでいるんだろうな。

 それにしても今日はいつもより多くの店が開いてるって言うか街全体に活気が溢れているようないないような?

「あら。こんにちはお兄さん。今日はマールちゃんと一緒じゃないんだね」

「あっ、串やのおばちゃん」

 また会いましたね。

 休日の街を歩くと結構な頻度で遭遇する串やのおばちゃん。

 マールちゃんがいないでも俺に遭遇するおばちゃんのポジショニングマジ欧州トップリーグレベル。

「マールは今友達と外出中でして。あっ。肉の串焼き一個ください」

「あいよ。いつもありがとね。そっか、それでペットの散歩ってわけだね」

 300コーンと串焼きをトレード。

 俺はその串焼きを半分食って残りはバニラにあげる。危ないから串は取っておく。

「ほら。まだ熱いから気を付けろよ」

「へっへっへっへっ!」

 尻尾がめっちゃピコピコ動いとる。

 フルもっふ族のマールやヴィヴィみたいにバニラも口いっぱいに串焼きの肉を頬張った。

 もふもふのバニラが更にモフモフになってます。

「今日は街が賑やかですね」

「何だい。アンタ、王女様見に来たわけじゃないのかい?」

「王女様?」

 ハテ? する俺。

 ミスニーハは大きな街だが王都ではないので城はない。

 王女様って言う事は王族だったり君主の娘なのだろうから城がないミスニーハに何故? と思うが、定期的に近隣の街に出向いては領主たちの近況報告を聞くついでに街中を見て回わっているようだ。

 そこで王女の目に止まった店は王家直々のお墨付きを貰えるとあってどこの店もチャンスとばかりにアピールしているらしい。

 王女が自ら街に出向く事があるんだなと思ったけど、現王の父が娘に滅法弱く、また王女自身も国民の生の声が聴きたいと言ってる事から定期的にこうやって出向いているようだ。

 が、正直どうでもよかった。

 何の変哲もない一般冒険者である俺が王族の目に止まるわけがないし、万が一王族の目に止まりでもしたら大天使マールちゃんの存在がバレてしまう危険があるから。

「王女様を見るなら大通りで待ってれば一目くらいは見れると思うよ。野次馬や護衛がたくさんいるから近くでは見れないだろうけどね」

「ありがとうございます。今度はマールも連れて来ますので」

 ペコリとお礼をして屋台を後にする俺とバニラ。あっ。まだ食ってたのね。

 元がもふもふの毛玉みたいだからちょっと口の中でモフモフしてても分かりづらいです。

 しばらく待っていると食べ終わったのかバニラは舌をちょろっと出してへっへっへっへっしだした。

 よし、じゃあ散歩を続けようね。

 おっとバニラそっちは大通りだからダメよ。

 俺はぴたっと逆拒否芝みたいになって散歩コースを大通りから外れた中道にした。








 結果がこれだよ。

「…」

「…」

「へっへっへっへっ」

 何かめっちゃ高貴な身分にありそうな女の子とバッタリ出くわしたんですけど。

 その女の子は白のフード付きマントで顔を隠してはいるものの気品あるオーラは隠せないって言うか、とにかく偉い人なんだろうなって感じた(語彙力)。

 白のマントはその華奢な体全体を隠せる大きさで、そして何より――ちっぱいだった。

 無意識のうちにちっぱいスカウター発動。

 顔を隠してるとは言うものの、全体ではなく目元までしか隠してないので鼻から下は見えているため測れます。

 どれどれ?

 ちっぱいレベルは…‶99″か。

 …。

 …。

 …え?

 ちっぱいレベル99!?

 馬鹿な!

 マールちゃん、シルヴェストリの宿娘に次いでこれで三人目だぞ!?

 どうなってんだ異世界! 最高か異世界!

 バニラもその神聖なちっぱいの尊さが分かるのか、そのちぱ様にへっへっへっへっしとる。

 誰に対しても人懐っこいバニラだけどちぱ様には特別懐いてるって言うか会ったことがあるの? って思うほど尻尾ピコピコしとる。

 そういえば顔の大半は隠れているけどチラリと見える髪がどこかで見たピンクパープルのようなそうでないような?

「えっと、以前シルヴェストリの宿でお会いしましたっけ?」

「な、なな何を仰いましゅか! 初めましてです! 初めてお会いします!」

 うーんこのデジャヴ。この反応とこの声。

 見れば見る程、喋れば喋る程あの時の宿娘にそっくりだ。

 それなら希少なちっぱいレベル99がこうも易々出てくるのも頷ける。

 つまりあの宿娘はとっても偉いちぱ宿娘様だったのだ!

「そういえばメアとは話せましたか? 翌朝にはシルヴェストリを出てしまったのでどうなったのかなって」

「そ、そうですね! 話せました! とても楽しく」

「やっぱりあの時の人だったんですね」

「はっ!」

 テンパリングのちぱ様は簡単な罠にすぐ引っ掛かった。

 ザルを木の枝で上げただけの簡単な罠だったけど、何の躊躇いも無く引っ掛かってくれた。

 俺は心配だよ。

 この先ちぱ様が悪い男に引っ掛からないか心配だよ。

「うぅ…、ダイゴ様は意地悪ですね…」

 そう言ってちぱ娘様は被っていたフードを取った。

 既にちっぱいレベルで正体はわかっていたが、やはりこの子はシルヴェストリの宿で会ったピンクパープルの女の子だった。

 そして俺は心に深刻なダメージを負う。

 な、なんという破壊力…。

 ちっぱい女子の仕草はいつだって一撃必殺だが、ちっぱいレベル99となるとそれはもうマールクラスの破壊力。神クラスの破壊力。

「ダイゴ様はどこへ行かれるのですか?」

 ぐすん、っと涙目で見てくるちぱ様。

 お願いやめて。俺のライフポイントはもう1よ!

「俺…、私はバニラの散歩中ですので適当にその辺りをフラフラしてお昼食べて帰ろうかと。ミスニーハの街でも行ったことない場所がたくさんありますし」

「お散歩ですか! 私やった事がありません!」

 パァァっと表情が晴れるちぱ様。

 可愛さも快晴レベルでたまらんかった。

「よかったらリード持ってみますか? お時間あればですけど」

「よろしいのですか? で、ではちょっとだけ」

 ドキドキと手を出してくるちぱ様。

 俺はそんなちぱ様のお手手にそっとバニラのリードを渡した。

 マールちゃんやスズランよりもヴィヴィの手に近い感触だった。

「へっへっへっへっ!」

「わっ! わっ! わっ! ダ、ダイゴ様どうしましょう? バニラ様が凄い力で引っ張ってきます」

「大丈夫です、落ち着いて下さい。バニラがリードを引っ張ったらこっちも引っ張って止めましょう」

「そ、そんな事したら苦しくないのでしょうか…?」

「可哀想な気もしますけど、散歩をペット主導にさせてしまうとそれはもう四方八方興味があるものに飛びつくような子になってしまうのでしっかり躾をするのも飼い主の義務です」

「な、なるほど…。頑張ります」

「へっへっへっへっ!」

「わっ! わっ! わっ!」

「へっへっへっへっ!」

「わっ! わっ! わっ!」

 いや、可愛いかよ。

 バニラが引っ張る度にちぱ様オロオロしてて可愛いかよ。

 でも体幹がしっかりしてるのかオロオロはするが体が全くブレていない。

 毛玉サイズに小さいと言っても一応は狼なので引く力は強いはずだが凄ぇ。

 俺なんかバニラの初散歩の時は肩が外れるんじゃないかと思うほどだったからその力にびくともしない体幹の強さにビックリしてます。

 凄腕冒険者かな?

 異世界の宿娘は冒険者レベルで体を鍛えているのかな?

 もっと見ていたかったけどオロオロ可哀想だったのでリードを変わってあげた。

「あ、ありがとうございます、ダイゴ様。…まぁ、バニラ様が途端に大人しくなりました。さすがです、ダイゴ様」

「俺にも最近やっと心を開いてくれたみたいで。前までは手を出そうものなら噛みつかれました」

「あらあら」

 ふふふと上品に笑うちぱ様。

 何という気品の高さ。

 これは間違いなくどこかのお嬢様ですわ。


「姫様ー!」


 そんな時、どこからか男の声が聞こえて来た。

 パカラッパカラッという音も聞こえるのでどうやら馬で移動しているようだ。

 俺は何だ? って感じで聞き流したが、ちぱ様が途端に慌てだした。

「はっ! 申し訳ありませんダイゴ様。私もう行かなければなりません。バニラ様のお散歩とても楽しめました。ありがとうございました」

「え? あ、はい。どういたしまして?」

「またお会い出来る事を楽しみにしております」

 ペコリからのニコッとスマイルのコンボ!

 俺の心の臓が破裂した。

 そんな可愛さで俺を傷モノにしたちぱ様はフードを被り直してぱたぱたぱたと路地裏へ消えて行った。

 その後、路地裏から出て来たのは馬に乗ったちぱ様とそれに従う騎士数名だった。

 やっぱりちぱ様は偉い人だったねバニラ…あっ。俺のズボンの裾齧っとる。

 久しぶりな感じがするけどこれでこそバニラです。

 それじゃあ散歩の続きをしようね。



ちぱ様は偉い可愛い

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