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大吾と双壁の戦乙女➂

●前回のあらすじ●

フルプレートメアちゃんはカタカタ音してた。



「サン! ルナ! 良かった! 二人共無事だったんだな!」

「心配かけてごめんねサン、ルナ。本当にごめんなさい…」

 シルヴェストリに着いた(真顔)。

 うん。

 特に何も変わった事もなく普通にツーリングっつーか、馬車でほのぼのしてたら着いた。

 確かによくよく考えてみればモンスターは兎も角、盗賊なんつーのは要は金目の物狙いな訳でギルドの馬車を狙うよりは貴族や商人の馬車を狙いますもんね。

 ギルドの馬車なんて言ってみれば全員冒険者で腕に覚えがある輩が大概なんだし、よっぽど腕に自信が無ければ狙いませんわ。

 小金狙いのチンケな盗賊もいるかもしれないけど、小金狙いをするような盗賊は決まって小物だろうから返り討ちに遭いますわね。

 なんか俺のっつーか、俺たちってこんな事ばっかだ。

 デカイ壁にいざドーン! 挑んだけど蓋を開けてみれば障子紙くらいペラッペラの薄さしかない簡単なクエストが多い。

 バニラの件にしろ今回の件にしろ楽勝で肩透かしじゃねーか。

 スズランが護衛にはBランク二名以上って言うもんだから俺はヴィヴィとメア(と俺たち)の格好いい戦闘シーンが見れると思ったのに!

 まだ帰りがあるけどこの分じゃ帰りも何事もなく穏やかに終わりそうです(フラグ)。

 野営するわけでもないしね(フラグ2)。

 モンスターや盗賊が出ないに越した事はないけどね(フラグ3)。

 まぁ以前デザート・キャニオンまで馬車で往復したから薄々感じてはいたけど、護衛いらなくね? これ、みたいな疑問をシルヴェストリに着く前にスズランに聞いてみると、

「そうもいかないのよ。貴族の人でもギルドの馬車で盗賊の目を欺いて移動したりする事があるの。だから盗賊はギルドだろうが貴族だろうが馬車が通っていればとりあえず襲って当たり外れしてるってわけね」

 情報が漏れてる可能性も含めて、との事。

 マジで貴族はクソしかいねぇじゃねーか。

 SPを付けるのはいいけど、貴族なら堂々とピッカピカのリムジン乗って移動しろよ。プリウスとかアクア乗ってんじゃねーよ。天下に金を回せ、天下に。

 とまぁ、貴族の愚痴はこの辺にして目の前のオリオン親子感動の再会をじっくり見る事にしましょう。

「サン! よくルナを守ったな! さすがお兄ちゃんだ!」

「パ‶パ‶! 遅‶い‶よ‶! す‶ぐ‶帰‶る‶っ‶て‶言‶っ‶て‶た‶じ‶ゃ‶ん‶か‶!」

「ぱ‶ぁ‶ぱ‶ぁ‶~、ま‶ん‶ま‶ぁ‶~…」

「ルナ、ごめんね? 二人共無事で本当によかった」

 ええ話や…。

 ホロリと来ます。

 オリオンさんは大黒柱の親父らしくサンルナ二人共あやしてるし、コメットさんも優しさが溢れ出してるし、ルナもさることながらサンも大号泣。

 男の子って言ってもまだ十代前半だろうからね、寂しかったんだろう。

 その感動シーンに立ち会っている俺たち。

 俺も号泣とはいかずともウルウルして、メアも泣いてるんだかどうなんだか分からないけどプルプルしてカタカタ音出てて、ヴィヴィもうんうん頷いてよかったよかったしてるし、スズランも目を閉じて大人しくしてるし、バニラもへっへっへっへっしてる。

 そして皆さんお待ちかねのちっぱい天使マールちゃんはと言うと。

「ぶえええええええええええ、ぶええええええええええ」

 安定の大号泣でした。

 この中で一番泣いてるんじゃないのかっていうくらいの。

 可愛さも一番ですわ。

 しかもマールは泣くと何かに抱き着く癖でもあるのか、‶たまたま″傍にいた俺に抱き着いてびーびー泣いてるのでちっぱいが当たります。

 正直たまらんかった。

 手では、よしよし泣くなマール、と頭を撫でるが内心はオリオン親子再会の祝福とマールのちっぱいひゃっほうの気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合ってどうしたらいいのか分からない。

 泣き止んでほしいようなほしくないような、サンルナよかったのようなマールのリンゴちっぱいありがてぇありがてぇのような。

「ダイゴくん」

「は、はひ?」

 そんな事を考えていると急にオリオンさんから話かけられたので変な声出ちゃった。

 マールのちっぱいの事なんて考えてませんよ? なんて、なんて! 至高のお胸様に対し何と恐れ多い事を。申し訳ありません。

「ダイゴくんが腹ペコのサンとルナにご飯を食べさせてくれたようだね。本当に感謝してもしきれないよ、ありがとう、ありがとう」

「私からもお礼を言わせて下さい。ダイゴさん、本当に、本当にありがとうございました」

 オリオンさんとコメットさんはそう言うと、深々と頭を下げた。

 二人共足に怪我を負ってベッドに寝たきりの状態だったが、痛む体を起こして言ってくれた。

 オリオンさん夫婦はお互い三十代中盤から後半くらいのイケメン美女カップルだけど、外見だけじゃなく内面までイケメンだった。

「そんな俺は大した事してません。お礼ならここで可愛く泣いてるマールに言ってください」

 ヴィヴィたちも含めて、と。

 確かに俺が最初にサンに串焼きをあげはしたけどマールが後日廃教会まで行かなかったらそれだけだったし、ヴィヴィみたいに憧れられてもいないし、スズランのようにギルドで情報を集めれるわけでもないし、メアのように護衛出来るわけでもない。

 俺はバニラの位置。

 もしかしたらバニラより下かも。

 サンもルナもバニラを可愛がってくれてもふもふしまくってるからね。

 俺が一番何もやってなかった。口の周りの食べカスとソースを拭いただけの簡単なお仕事しかやってなかった。

 その後は世間話というか冒険者一家であるオリオン親子はヴィヴィとメア揃い踏みに大喜びで話が弾んだ。

 双壁の戦乙女が二人でクエストを受ける事は非常に珍しく、それも個人の護衛なんて息子と娘に自慢出来るって言ってたけど、その自慢話しっかりと息子娘聞いてますからね? 落ち着いてオリオンさん。

 いや、ルナは聞いてないかも。

 コメットさんに抱き着いてピクリとも動かない。

 もう離さないとばかりにしっかりと抱き着いている。

 コメットさんもそんなルナの頭を優しく撫でて、いつもやってあげてる事だったのだろうルナも気持ち良さそうだ。

 ルナが頭なでなでが好きな理由が分かった。

 もっと話をしていたかったけど、折角の親子水入らずなので俺たち外野は明日の朝また来ます、と言ってオリオンさんたちがいた部屋を後にした。

 出る時に改めてお礼を言われたけど無理して怪我を悪化させないで下さいね?




  ―――




「平和な街だ」

 ゆるーん、という擬音が似合う平和で穏やか、閑静な街シルヴェストリ。

 決めたよマールちゃん。俺、老後はマールとこのシルヴェストリで静かにゆっくり暮らしっていねぇ。さっきまで隣にいたのに。


「キャー! これが特産品のプリーンですか!? おいしそうです!」

「でしょでしょ!? あたしも大好きなんだこれ!」

「私も好きよ。色々な味があるけど、私は焼きプリーンが好き」


 何か甘味処の前で大声出して騒いでおった。

 バニラもいい匂いに興味深々で三人の足元くるくる走り回ってるし。

「大吾さん! 見て下さい美味しそうですよ!」

「そうね、美味しそうね」

 さっきまで尾田先生作のキャラみたいな顔して泣いてたのに今は満面の笑みで天使っておった。

 喜怒哀楽がハッキリしてるマールちゃんマジマルチテン。やっぱりマールは笑顔がよく似合います。

「大吾さん! 大吾さんはプリーン何個食べますか!?」

「いや、俺は一個でいいけど…」

「そんな勿体ないよダイゴ! 折角シルヴェストリに来てるんだから、特産のプリーンは全種コンプしないと!」

「私も今日は二種類行ってみようかしら」

 なん…だと…?

 小食のスズランさえも虜にするプリーンか。確かに気になります!

 でも全種コンプって結構あるんですがそれは…。甘いものは別腹と言う名の亜空間に消えるんですかね。

「あれ? そういえばメアは?」

 こっちもさっきまで一緒にいたのに。

 みんな目を離すとすぐにいなくなるから気が気じゃないよ。特に胸。

「メアふぁんはふぁんかひょーじがあるふぉかで」

 マールちゃんもうプリーン食っとる。

 多分『メアさんは何か用事があるとかで』と言ったのだろう。マール百人一首があれば全部取れるレベルで分かります。

 ミスニーハのギルドでメアがシルヴェストリには私用で来る予定があったって言ってたしね。それを済ましに行ってるのだろう。

 でもマールやヴィヴィはともかくスズランをも虜にするプリーンがあるんだから、これ食ってからでもよかったのに。

「ふまぁ~♡」

「あまぁ~♡」

「んっ、んー♡」

 三人の尊い可愛さを見てからでもよかったのに!

 俺はプリーンを食う前から三人の可愛さで胸やけするよ!

「この‶ミルクプリーン″美味しいです! 食前と食後、三時のおやつに食べたいくらいです!」

「七日くらいなら魔法で冷やしておけるからお土産に買って帰れるよ」

「私もお姉ちゃんにお土産で買って行こうかしら」

 マールは相変わらずだし、スズランも何だかんだ言ってユリさんの事を想ってるんだな。姉妹だもんね。

 何か小声で『このプリーンに盛れば何も怪しまれずに口に入れる事が出来るわ』って言ってる気がするけど気のせいだよね。

 気を付けろスズラン。そういう策を練ってる奴に限って、その策に自分がかかることになるんだ。

 火の点いたユリさんの前でスズランが眠りに落ちてみろ。どうなると思う?

 多分ここでは言えないノクターンノベルズになるぞ。僕は知識がないので全然分かりませんけどね!

 そしてヴィヴィの話を聞く限り、異世界にも保冷剤っていうか冷蔵庫みたいに冷やす魔法があるんだな。

 魔法は何でも出来て便利だけど魔力(電力)がないと発動しないのでその辺りは俺には分からない仕組みになっているのだろう。

 そんな訳で俺もプリーンを一口。

「うんまっ」

 マジで美味かった。

 異世界に来てから果物の甘さや串やのチョコバナナくらいしか甘味を食べてなかったけど、確かにこれなら多くの女性客を虜にするのも頷ける。

 俺たちがシルヴェストリの街に着いたのが日も沈んだ頃で、今この甘味処では夕食に当たりそうな時間帯だが見渡すと各々のテーブルで頬を緩ませている女性が多いし、俺たちのテーブルにも既に空の皿が十枚くらい重ねられているし。…え?

「チョコもうまぁ~♡」

「イチゴもうまぁ~♡」

「わ、私はもうギブアップ…。凄いわねあなた達…」

 マール四枚、ヴィヴィ四枚、スズラン二枚。

 甘味処ではあるが、おしゃれなカッフェみたいな感じで夕食時なので俺たちも軽くご飯ものを食べてからのプリーンに手を付けたのだが、スズランはもう限界のようだ。

 尚マールもヴィヴィもまだまだ余裕の模様。

 店潰れないかな。

「私ちょっとお手洗いに行ってくるわ」

「あっ。じゃああたしも行く」

 カタっと立ち上がるスズランとヴィヴィ。

 俺もそうだけどレストランなどの食事処でトイレに行きたくなるのは何なんすかね。

 二人はマールに目でマールはどうする? と聞くように見た。

「わたふぃまだ食べてまふ」

 マールちゃんは相変わらずプリーンもふもふしとる。

 ほっぺパンパンに出来ない食べ物だが美味しそうに食べるマールちゃんマジ可愛さの塊。

 そして俺がそんな美味しそうに食べるマールを凝視していると、店のドアが開き甲高いドアベルの音が鳴った。

 来客のようだ。

 さすがは特産品のプリーンを扱ってるだけあってこの時間でも客の収集力は衰えない。って。

「…」

 な、なんだ…、あの…ちっぱい女子は!

 ピンクに近い紫色の長髪。

 お淑やかそうな見た目。

 ちっぱいを優しく包む白のトップスは色白の肌を生かすノースリーブ。

 そして紫の膝丈フレアスカートから黒パンストに足長効果の同色パンプス三連コンボ。

 なんだあのちっぱい女子は(二回目)!

 シルヴェストリの街にもあんなちっぱい女子がいるなんて!

 これはプリーン云々よりあのちっぱい女子目当てで通う男性客もいるレベル(俺)。

 そんなわけで早速ではありますがちっぱいスカウター‶看破の神眼″発動。

 メアの時みたいに顔が隠れてるわけじゃないので測れます。どれどれ?

 ちっぱいレベル……‶99″か。

 …。

 …。

 ……99!?

 馬鹿なッ!

 99と言えばマールのちっぱいレベルだぞ!?

 そんなちっぱい天使と同等のちっぱいを持つ街娘が存在するだと!?

 まるで天使のちっぱいのバーゲンセールだな。俺に一発でも入れる事が出来たら遊園地に連れてっちゃうぞ。

 それに見てみろレジの店員さんを。

 女の店員さんだけどその神秘のベールに包まれたようなちっぱい女子に恐れをなして畏まってるじゃねーか。

 だが店員さん、そうだ。それでいい。

 ちっぱい女子は地位が高いからね。

 ぞんざいに扱うと消えてしまうような儚い存在だから丁重におもてなししないと。それこそクリステルレベルの。

 と、まぁここまで言ってお分かりと思いますが相当ガン見してたせいもあってそのちっぱい女子と目が合ってしまいました。

 一瞬心臓が爆発するかと思ったけど、そのちっぱい女子は少し驚いた顔をした後優しく微笑んで軽くお辞儀をしてくれた。

 心臓が爆発してる(進行形)。

 いかん落ち着け冷静になれ。

 俺にはマールちゃんという心に決めたちっぱい天使……はっ!? こ、この視線はっ!

「大吾さんがやけに静かだと思ったら大吾さん好みのお胸の小さな女の子見てたんですねー。それはもう穴が開きそうなくらい」

 やっちまったーーーーーーーーーーぃ!

 せっかくマールちゃんと二人っきりなのに他のちっぱい女子に現を抜かすとはッ! 俺はッ! 何てッ! 馬鹿なんだッ!

 ガンッガンッガンッ! と顔ドラムで自分に罰を与える。

「ど、どうしたんですか大吾さん?」

「嫁の前で一瞬とは言え他のちっぱい女子に気を取られた自分が情けない」

「嘘付かないで正直に言ったのは評価しますけど、嫁っていうのは嘘に含まれないんですか?」

「例えばだけどマールが友達だと思ってる子を他の人に紹介する時にマールは『友達の〇〇ちゃんです』って言うだろ?」

「言いますね」

「つまりはそういう事よ。相手がどう思ってようと自分は相手の事をこう思ってますって」

「言いたい事はなんとなくわかります」

「だろ? だからマールちゃんは俺の嫁」

「ちょっと何言ってるかわからないです」

「何でわかんねーんだよ」

 思わず伊達さん出ちゃったじゃねーか。

 マールちゃんサンドイッチ好きだもんね。向こうはウィッチだけど。学生時代はデビルバット・ゴーストやってたって話だよ。

「大体ですね。大吾さんは見境なく人のお胸を見過、ぎ」

「え?」

 どうしたんだろう。

 ぷりぷり可愛く怒ってるマールちゃんが固まった。

 目線を追ってみると店員さんが特大も特大のジャンボパフェを運んでいた。

 待ってマールちゃん。

 まさかあれ頼んだんじゃないよね?

 あれはダメだよ。

 いくらフルもっふ族のマールちゃんでも一人で食べれる量じゃないよ。人に出来る事じゃないよ。

 しかしそんな俺の予想は外れ、そのパフェを持った店員さんは俺たちのいるテーブルとは違う方へ運んで行った。

 ホッとしました。

 マールちゃんが頼んでたらどうなるかと思っ、え?

「すみませーん! わたしもあちらと同じパッもがっ!」

 俺は慌ててマールのお口を手で塞いだ。

 マールは俺の手をポンポンするが、今回だけは放すわけにはいかない。

 放すとお手洗いから帰って来たヴィヴィも同じものを頼み、スズランが唖然とするのが目に見えているから。

 …あっ。そういえばバニラは?

 ペット入店禁止だから店の入り口に置いて来たけど大人しく待って…あっ。ガラス扉に顔ぺったーくっつけてこっち見とる。

 ごめんよ。もう出るから待っててな。

 お土産にバニラアイス買ってあげるから。でもお腹壊しちゃうかもだから一番小さいやつね。



スーパーなどの食品売り場に売ってるプリン全種買ってレジのおばちゃんにスプーンめっちゃ付けてもらった事があります。


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