大吾とクラン➂
●前回のあらすじ●
三つの輪はちっぱいマールちゃんたちの事だった。
俺は、間違っていたのだろうか。
俺は、いつからクランを設立すれば募集が無くなると錯覚していたのだろうか。
確かにクランの募集案内は無くなった。
が。代わりにクラン合併やクランメンバーの引き抜き、‶三つ輪のクロ―バー″への参加申請の対応に追われるようになった。
まずクラン合併。
これはクラン長同士で合意すればメンバーを吸収しクランを大きくできるものだが、これがもう白目剥くくらいの話があったので急いで合併リストから除外してもらった。
合併はクラン長の同意で決まるわけだが直接話し合うわけではなく、〇〇のクランから合併の話が来てますけどどうしますか? という感じで一度ギルドを通すので、ギルドに合併する意思はないと伝えれば合併の話はギルドで止まるのでお願いしたのだ。
それにしてもビビったよ、合併要請の多さに。
まぁ人気実力があるヴィヴィ、二輪の花のスズラン、大天使マールちゃん、期待の超新星イケメン大吾さんが一堂に会するクランなのだから当然と言えば当然な話ではあるけど。
え? 前の三人狙いなだけ? 俺はおまけ? 言われないでも知ってます。
新規のクランが古参のクランに吸収合併される話はよくある事だとスズランは言っていた。
有難い話ではあるのだろうが俺はどうも気に入らなかったので全部断った。
何故か?
それはどのクランも俺の、いや俺たちのクランを傘下にする合併の話だったからだ。
確かに実績も何もないクランなのだからネームバリューがあるクランと合併すれば吸収される側に回るのは当然なのだが、俺が気に入らないのはそこじゃねぇ。
マールちゃんが一生懸命考えてくれた『三つ輪のクローバー』という名前を合併して無くそうとしてるところだ!
俺のマールちゃんの頑張りを無下にする者は何人たりとも許せない。なので全部断りました(真顔)。
「あはは。まぁダイゴらしいっちゃらしいよ」
「この男は自分の道しか見てないものね」
「だ、大吾さん大丈夫なんですか? 怒った相手にボコボコにされたりしませんか?」
「合併の誘いを断っただけで怒るクラン長がいる所なんて行かないで正解だから全然大丈夫。それにスズランがいるから」
「ふふっ。そうね。嫁三号としてだいごを守るわ」
「三号とは」
ここがギルド員がいるクランの強みと言うか、クランへの不正な圧力はギルドに筒抜けになり、クラン活動の停止や解散に繋がるので手が出せないのだ。
マジスズランちゃんいてよかった。いなかったら今頃顔が『*』だったかも。
「もう合併の話は来ないと思うけど、お前たちは大丈夫か? 引き抜きの話あっただろ?」
クラン同士の話は一件落着したものの、更なる問題はメンバーの他クランへの引き抜きだ。
さっきも言ったが俺以外の三人はそれはもう大人気でどのクランも喉から手が出る程欲しいわけなので、いくらヴィヴィゲームで名を挙げた俺がいるクランと言えども宝の持ち腐れ感が凄い、らしい。
だからこっちのクランへ来て一緒に頑張らないか? と話が来るようだ。
ぶっちゃけ引き抜きって名前を変えただけでクランの募集案内と何も変わらねぇじゃねーか。このシステム廃止した方がいいと思うの。
「それについては今、ギルドで検討中よ」
「通してほしいねー。いちいち断るのも面倒だし」
「申し訳ないですもんね…」
スズランとヴィヴィは結構スッパリ断っているらしいけど、優しさの塊であるマールちゃんはお願いを断るのが申し訳ないらしくシュンとしている。
俺が(邪な)お願いした時は全然そんな素振りをしないんですがそれは。
「前にも言ったけどあたしはダイゴやマールちゃんと一緒に気楽に出来るクランが気に入ってるからね。他に行く気はないよ? 今はスズランちゃんもいるし」
「私もそうね。ミスニーハのクランでここ以上のクランはないもの。私がクランを離れるのはできちゃった時だけよ」
「何ができちゃったのかは聞かないけどありがとな二人共」
「へへ」
「そう。サンキューを貰うだけよ」
ちょっとうまいと思っちゃったけど絶対に突っ込まんぞ…!
突っ込んだら突っ込んだで『突っ込むなら~』の返しが絶対来るからな…!
「マールはどうだ? 食べ物に釣られたりしてない? 飴ちゃんをくれるおばちゃん以外の人は皆悪い人だからついて行っちゃダメよ?」
「大吾さんの中で飴をくれるおばちゃんの評価が高いのが気になりますが、わたしはそんなに単純じゃありません!」
ぷんすか怒るマールちゃん可愛い。ほっぺがお餅みたい。
「串やと契約してるクランからの誘いだったら? 多分全品半額とまでは行かないでも何割か割り引いてくれるよ?」
「…」
「あ、あれ? マールちゃん?」
「大吾さんを見習ってわたしも嘘をつかないようにしようかと!」
「見習ってくれるのは嬉しいけど、それだと断らないって意味だからね? それにもしマールがそのクランに行って串やで働いてみろ。どうなると思う?」
「ど、どうなるんですか?」
「俺が悪質クレーマーになって店員のマールに誠意あるお詫びをさせる」
「ひっ」
「言っておくけど俺の気は土下座くらいじゃ済まないぞ? それこそBlu-rayディスクだったりHD版ダウンロードで最低2,980円で売れるくらい濃厚な誠意を見せてもらうことになる」
「あわわわわ…」
ガタガタ震えだすマールちゃん。
でももしそんな動画があれば世に出さないで俺だけで見るけどね? 皆さんにマールちゃんの誠意を見せるわけにはいかないので。悪いですね。
「だいごが何を言ってるのはさっぱり分からないけど、まーるの怯えぶりを見ると鬼畜な要求をしてるのは間違いなさそうね」
「ダイゴ、またマールちゃん怒らせても知らないよ?」
「冗談だよ冗談」
「冗談ですか! 目が本気だったので信じちゃいましたよ! 危うく大吾さんの使ってた外付けHDの‶実写″ファイルに追加されるところでした!」
「マールちゃん今夜二人でちょっとお話しようか?」
「ひっ」
全ての性癖がマールちゃんに筒抜けだ。これはお話(意味深)をしないと。あと警備センサーの電源は切っておかないと。
「そう言えば私たちのクランに入りたいって人はどうなったのかしら? 昨日話したのよね?」
「え? …あぁ、でも何かやっぱり検討するみたいで連絡待ちかな」
「え? 入りたいって言ってきたのに検討するの?」
「そうだな。別に変な条件出したわけじゃないし、何が悪かったのか分からん」
「…大吾さん? ちなみになんですけど、その方は女性でしたか?」
「うん。女の子だった」
「更にちなみになんですけど、その方ってもしかしてお胸小さくありませんでした?」
「ちっぱいだった」
「…」
「…え?」
どうしたのだろう。三人とも『あっ…(察し)』みたい顔してる。
検討される理由が分かったのだろうか。今後の為にも是非教えて貰いたいものだが、みんな口を揃えて『言って直るものじゃない』と言う。何なんだろう。私、気になります!
それにしても昨日クランに入りたいって言ってきた子のちっぱいよかったな。ちなみにガンナーでした。
マールたち程ではないけど面接と言うか話してる時でありながら思わずガン見ですわ。気付かれてはいないと思うけどね。俺の盗み見スキルは神のそれだから。
「今日もこれからクラン加入希望者と話すんだ」
「へー。どんな子? ちっちゃい子?」
「今度はどこのちっぱい女を引っ掛けて来たのかしら?」
「大吾さんはお胸小さい子大好きですもんね」
「いやあのね? 何でちっぱい女子限定なんだよ。そんな縛りしてないよ。男でも全然入れるよ」
「今、男に入れるって」
「言ってねぇ。スズランそっちはダメだ。帰って来てくれ」
姉が百合で妹が腐ってどういう事やねん。俺は心配だよ。俺は君たち姉妹の将来が心配だよ。
「でも女性の方なんですよね? お胸の小さい」
「女の人だけどちっぱいじゃないよ。普通の人だった」
「そっかー。じゃあ安心だね!」
「何が?」
「大吾さんが捕まらないで済みそうです!」
「どういう事?」
「胸は顔じゃないのよ。話をする時はちゃんと目を見て話しなさい」
「さーせん」
胸見てるのバレテーラ☆
俺の盗み見スキルが通じない…だと?
‶胸は口ほどに物を言う″って諺を知らないのか?
ちなみに昨日の子の胸は『うっわぁ…めっちゃおっぱいガン見して来るんですけどキモッ』って言ってたかな。あれ? 完全にバレてた。流石ガンナー。目の付け所が違う。
「今日来るのはアンナっていう冒険者で魔法使いらしい。Cランクで個人スキルが使えるんだとか」
「へー。珍しいね」
「個人スキルって何でしたっけ?」
「一般的な誰でも覚えれるスキルではなく、その人専用のスキルの事よ。個人スキル次第で冒険者人生が決まると言われる程重要なスキルね」
「ヴィヴィなんかチート級の個人スキル二個も持ってるからな」
「いやー。小さい頃その辺のキノコ食べ歩いてたらいつの間にか付いてた」
「そんな理由!?」
全状態異常・デバフ効果無効スキル獲得の驚きの新事実。
キノコ食ってたら付いたって。もしかしてマールちゃんもその内このスキル覚えるんじゃないだろうか。
「大吾さん! わたしも個人スキル欲しいです!」
「マールちゃんはもう‶大吾スレイヤー″って個人スキル持ってるよ。俺が何度やられた事か」
「えっ。いらない…」
「えっ…」
俺はひどく悲しくなった。
嘘を言わないのが必ずしもいいとは限らないよマールちゃん…。
確かにゲームとかでもレベル上げしてやっと覚えた技やスキルが全然欲しいやつじゃない事ってよくあるけどさ!
でもそのスキルだって製作者の人が頑張って考えたんだからね! 使ってあげて!
おっと。そろそろアンナって魔法使いが来る頃だな。
本当は皆と一緒に話を聞きたかったけど、面接みたいになってしまうのでとりあえずは俺一人で聞くようにしてます。
さて今回はクランに入るのか、それとも検討するのか。
―――
「制限沈黙! ですわ!」
「ぐああああああああああっ!!!」
交 渉 決 裂。
いざクラン加入の話し合いへ! と意気込んだものの開始して間もなく噂の個人スキルを喰らった。個人スキルを見せてくれと言ったわけじゃないのに喰らった。
「はぁはぁ…、こ、これで少しはその良く分からないけど気に障る言葉は喋れなくなりましたわ」
「何!? 何が喋れな、ま、まさか――――!? あら!? 本当に喋れない! ――――言えない!」
「ふ、ふふふ…いい気味ですわね。わたくしの胸を馬鹿にするのが悪いのですわ」
「馬鹿にしたのはそっちだろ! ―――――至高のもの! それを『わたくしの方が大きい』だとか『三人並ぶとサヤエンドウみたいですわね』とか言いやがって!」
「うるさいですわ! ああもうこんなクランなんか御免ですの! こんな屈辱初めてですの!!」
「ですのですのうるせーですの! そんなに嫌ならお帰りはあちらですの!」
「言われなくても帰りますわ! ご機嫌よう!」
「はいさようなら! 気を付けて帰ってね!」
「てな事があってだな」
「最後は仲直りしたようで何よりです」
いや、多分あのアンナって子はアホの子なんだよ。
それか遠い親戚にテレポート出来る中学生がいるかどっちか。
「私たちを指してサヤエンドウとは中々面白い事を言う子ね。どうしてくれようかしら?」
「スズランちゃん? どうもしないよ? その悪い笑みは何かな?」
「あたしサヤエンドウ好きだよ!」
「だがしかし、サヤエンドウとは比喩であった」
僕も好きですけどね。喫茶店にコーヒー飲みに行きたい。
「ところで大吾さんのお話を聞くと、そのアンナさんの個人スキルを受けてしまったんですよね? 大丈夫なんですか?」
「あぁ。沈黙スキルってだけだったから」
「沈黙? それにしては普通に話してるわね」
「‶指定の言葉″のみ話すのを制限させるスキルらしい。ぶっちゃけ普通の沈黙魔法の下位互換…」
「個人スキルにも色々あるんだねー」
「ヴィヴィが規格外ってだけで本当はこのレベルが大半なのかもな」
個人スキル=チートでは異世界がチートだらけで寧ろそれが普通になってしまうからな。
ガチャから出る最高レアのキャラだって皆持ってたらそれ基準の難度になるし、どんどんインフレしていくし、負のスパイラルに嵌るからね。
異世界転移して良かった事の一つはソシャゲから完全に引退出来た事だ。
もちろん一番良かった事はマールちゃんと出会えたこと。
「大吾さんは何を制限されたんですか?」
「――――」
「え?」
「マール―――――可愛い」
「な、なんですかいきなり!」
うーん。やっぱりまだ制限されてるか。つかいつまでこの状態なの? 明日とか?
それにしても可愛いって言われて照れるマールちゃん可愛い。さすが――――天使。…あぁ! 言えない!
「ほ、ホントに沈黙してるね。口だけは動いてるから何となく分かるけど」
「どうやら制限されている言葉に付く助詞なども対象のようね。だいご、試しにさっきあなたが言った台詞の‶まーる″を‶スズラン″に変えてもう一度言ってみてくれるかしら」
「スズラン―――――可愛い」
「……たまらないわね、これは」
「ダイゴダイゴ! あたしもあたしも!」
「ヴィヴィ―――――可愛い」
「えへ、えへへ」
「大吾さん! 大吾さんは今制限沈黙状態なんですよ!? そこをよく考えて話」
「マール―――――愛してる」
「ほああああああっ!? なっ、ななななんば言っとっとですか!?」
「だいご、もっと私に何か言うことがあるんじゃないかしら?」
「スズラン―――――三年後が楽しみだ」
「そ、そう。なら三年経ったらすぐに籍を入れるわ」
「ダイゴ! あたしは!?」
「ヴィヴィ――――――一緒に寝たい」
「ダ、ダイゴ…。大胆だね…」
なんか凄い事になってる気がする。
―――――言えないだけでこんな事になるなんて。
制限沈黙を甘く見ていた。
下位互換なんて言ってごめんねアンナさん。この個人スキルは強力ですわ。使い方次第で俺の周りが血の海になる(ような気がする)。
「し、心臓に悪いのでさっさと沈黙解除のお薬飲んじゃって下さい!」
「待ってまーる。もうしばらくこのままでいいんじゃないかしら?」
「スズランさん?」
「考えてみて。だいごの例の言葉を。一日何回言ってるのって感じの言葉を。もう病気と言うか、頭がいかれてるとしか思えないわ。言わないと死ぬんじゃないのかってくらい毎日飽きもせず言ってるでしょう?」
「スズランちゃん? 沈黙に加えて俺を猛毒状態にしたいの?」
万能薬じゃないと治せなくなっちゃうよ?
バトル中じゃ異なる状態異常は複数ターンかけないと別々に解除出来ないんだから。
「それに大抵の状態異常は寝れば治るから無理に治す必要はないわ。だから明日まで待ちましょうそうしましょう」
「スズランさんがそう言うならいいですけど…、大吾さん? さっきみたいな事は言わな」
「マール――――――傍にいたい」
「ひぅ…」
なんか楽しくなって来た。
その後は――――大喜利みたいになって座布団が十枚になった。賞品は公共風呂の回数券だった。
マールたちはと言うと、顔真っ赤ではぁはぁしてて何かエッチだった。
「で、結局クランに誰も入らないですね」
「やっぱり敷居が高いのかもな。こんなにも可愛い――――女子が三人もいたら入るのも気が引けると思う」
「…」
「…」
「…」
「…え?」
「きょ、今日が終わるまでこれが続くと思うと気が狂いそうになりますね」
「あ、あはは。何かもう好きにしてって感じだね」
「三年後はまだかしら…明日くらいかしら…」
「スズランちゃんはもう手遅れかもしれないね…」
大吾さんにとっては致命的なスキルだと思うの。




