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大吾と噂➂

●前回のあらすじ●

マール、ヴィヴィ、スズランはちっぱい可愛い三姉妹みたいだった。



 ギルド集会場の四人掛けテーブル席に着きながら、俺たちはとある問題解決の為に昼食を取りながら緊急会議を開いていた。 

「ではこれより、第一回クランの名前を決めよう会議を始めたいと思います。司会進行は私、青木大吾が務めさせていただきます」

「「よろしくお願いします」」

 俺の言葉に隣に座っているマール、向かいに座っているヴィヴィが頭を下げる。

 正直食事に夢中で話を聞いてくれないんじゃないかと心配してたけど杞憂に終わってよかった。

 ちっぱい女子たちが俺の為に話を聞いてくれている。こんなに嬉しい事はない。よーし。今日は俺が奢っちゃうぞ!

「会議を進めるにあたりまして、ギルドのスズランさんから注意事項がございます。スズランさん、よろしくお願いします」

「スズランって呼んで」

「あ、はい。スズラン、よろしくお願いします」

「ん。クラン名はギルドや街で取り上げられる事がある大切なものです。卑猥な言葉や他人を中傷するような言葉は慎むようお願い致します」

「待て。それじゃ何で『タワワニ・ミノル』なんて名前のクランがある」

「『タワワニ・ミノル』のクラン長であるニュウバックさんは『私たちの未来が輝かしくたわわに実ってくれることを願って』という意味で付けましたと言ってたわ」

 ホントかよ。

 じゃあ何でクラン案内の内容にわざわざバストサイズ載せたんですかね。

 まぁ他意が無ければいいんだよ、他意が無ければ。

「じゃあ『かいならや』はどうだ。これはもう他意しかないだろう」

「いいえ。他意なんか無いわ。『やらないか』という名前では通らないと言ったら逆にしたってクラン長のベアさんが」

 逆を突いてもストレートでビックリするね。昔の野球漫画の主人公かな? 確かに他意は無かったけど、元の意味が完全アウトじゃねぇか。ベアさんの名前も逆になってたりしないよね?

 まぁ他人のクラン名をどうこう言うつもりはない。

 俺が、俺たちが俺たちのクランを作ってしまえばもう関係無くなるからな。

 もしこいつらが俺たちのクランに入りたいと言ってきたら厳しい監査の元、丁重に検討し、後日お祝いのお手紙をお送りします。断る気満々であった。

「では早速ですが各々考えたクラン名を挙手をして発表をお願いします」

「はい! はい! はい!」

 いち早く元気に返事をしながら腕をピーンと伸ばすのはちっぱい天使マールちゃん。可愛さメーターもピーンと上限を突破した。

 もうクラン名は『ちっぱい天使マールちゃんと愉快な仲間たち』でいいんじゃないかな?

「はい。マール」

「女神はいつでもあなたの傍に、がいいと思います!」

「とてもいいですね。急いで結婚指輪買ってきます」

「やっぱり辞めます!」

 候補が一瞬で取り消された。

 つれないマールちゃんも可愛いよおおおお。

「はい!」

 次に手を挙げたのは褐色の長い腕が美しいヴィヴィ。目の前に座っているので目がちっぱいに惹かれます。

「はい。ヴィヴィ」

「人と魔を繋ぐ放物線は栄光への架け橋だ、がいいと思う!」

「それじゃ某体操選手や名実況のイメージが強いですね」

「そうかなー?」

 うーんと首を捻るヴィヴィ。感動のシーンだからね。あまり俺たちが汚しちゃうとファンの人たちに怒られちゃうからね。あと歌手のファンからも。

「ん」

 最後に手を挙げたのは真っ白なスズラン。前の二人とは違い挙げる手は控えめ、って。

「お前はギルドの受付嬢じゃねーか。これは俺たちの問題であってだな」

「有名クランにギルド員ありって言われるのよ。色々と融通が利くし、私がいた方が面倒が無くていいと思うわ」

「マジかよ。ギルドって冒険者に中立じゃないの?」

「中立よ。まぁ融通が利くのは本当だけど、クランや依頼主の間で不正なやり取りが行われていないかを監視するって意味もあるけど」

「そういう事か。でも俺たちと一緒のクランでいいのか? マールはともかくヴィヴィもスズランもクランに入るなら引く手あまただろ?」

 わたしはともかくって何ですか! とほっぺをぷっくー膨らませて怒るマールちゃん可愛い。

 )3(ってやって口から漏れた空気吸いたい。

 でもマールちゃんは俺と一緒だからね。俺は嬉しくて喜びの舞を踊るよ。

「あたしはダイゴやマールちゃんと一緒がいいよ。気楽に出来そうだしね」

「私も問題ないわ。美女美少女三人を囲うダイゴが嫉妬に狂った他の男冒険者にボコボコにされて弱ったところを優しくすれば意外とコロっといけそうだもの」

「ヴィヴィありがとな。スズランはそろそろ受付戻った方がいいんじゃないか?」

 ヴィヴィはへへっと照れ笑いし、スズランは表情を変えぬまま冗談よ、と言う。

 いや、十中八九本気で言ってるよね君。もしくは九分九厘。

「私の体はもう飽きたから他の鼻息荒い奴らの相手をさせて情報だけ流せって言うのね」

「うわぁ…、大吾さんそれはいくらなんでも…」

「ねー。それはないよダイゴ」

「うっそ今の返しでそんなフルカウンター喰らう? 俺が悪いの? マジで?」

 どんな憤怒の罪の人だよ。顔に紋章とか出たりしないよね? 折れた剣持ってたりとか。

「話が進まないし、スズランが問題ないって言うならいいけど。で? スズランはどんなクラン名がいいと思うんだ?」

「種馬と」

「あっ。もういいですありがとうございました」

 なんでこんなになるまでに放っておいたのユリさん。とその家族。

 完全に手遅れじゃねーか。俺はスズランの将来が心配だよ。

「それじゃだいごはどんなクラン名にするのかしら? 皆が出した名前を却下するくらいだからさぞ素晴らしいクラン名を思いついているのでしょうね」

 と、ジト目を向けるスズラン。

 くっ…! 16歳とは言え、ちっぱい受付嬢の視線は心の臓に刺さるぜ。

 でも射抜かれはしない。

 何故なら俺の心臓はマールに既に射抜かれて無いから。

 俺を倒すには宇宙の何処かに隠した心臓に銀の矢を撃ち込まなくてはならない。

「ふっ。よく聞いてくれた。俺が考えたクラン名はズバリ! ‶cppiをこの上なく愛でる会″だ!」

 説明しよう!

 cppi、とは。


 c…ちっちゃいけど

 p…パーフェクトな

 p…プロポーション

 i…おっぱい


 の略称であり、全年齢対象で健全なクラン名のためにちっぱいという言葉を封印したが実は言い方を変えただけというもの。

 しかしこれならみんなも言いやすいし、ギルドの規定にも引っかからない。

 ちなみに『ちっちゃいけどパーフェクトなプロポーションおっぱい』の頭文字はcppoなのだが何故cppiが略称なのかと言うと、そのままの読みで何となくちっぱいって読めるからである。

 cppoだとチッポになってアニマルな惑星にいるワンちゃんになっちゃうからね。

 でもcppiってどんな意味ですか? って聞かれたら完全にアウトという諸刃の剣。俺は諸刃の剣しか装備出来ないんだ。

「私が立案致しましたこのクラン名になった暁には、皆様には‶cppiマール″‶cppiヴィヴィ″‶cppiスズラン″とそれぞれ改名していただきますので何卒ご了承の程を」


「あー! マールちゃんそんなに一気に食べたら勿体ないよ!」

「もふー」

「凄いわねあなたたち…。人の口ってこんなに物が入るように出来ているのね」


 全然聞いてくれてない。

 正直こういうオチになるとは分かってたけど、本当になると結構なダメージを心に負う。

 絶対に倒れない俺に一番の有効な攻撃手段はちっぱい女子から相手にされない事なのだ。

「うぅ…」

「大吾さん? 食べないんでふか?」

「ダイゴお腹痛いの? そういう時は無理に食べない方がいいよ」

「大丈夫? おっぱい揉む?」

 ガタッ! と席を立ち、手が勝手にスズランのちっぱいを揉みに行く。

 コーラコラコラ。ダメでしょ勝手にそんな。同意があるって言っても16の子供にそんなでもちょっとだけ、先っちょだけ! 先っちょだけでいいから(アウト)!

 しかし俺の手はスズランのお胸様に届く前にマールとヴィヴィによって止められた。

 ピクリとも動かせない…だと?

「ちっ。おしかったわね」

「スズランさんダメですよ! 大吾さんの前でそんな事言ったらどんな凶暴な手を使われて辱めを受けるか分かったもんじゃないですよ!?」

「そうだよ! それこそどんなに逃げてもどこに隠れても必ず見つかってふにられるんだよ!? 謝っても全然聞いてくれないんだから!」

「ね、君たちさ。もうちょっとだけでもいいから声の音量下げない?」

 俺はもうミスニーハの街では只の変態野郎の地位を確立したよ?

 そのうち子供たちから石とか投げられないだろうな?

 それか気の強い女冒険者から因縁付けられるとか。

 やめてね? 俺ぬるぬる動く手芸とか持ってないんだから。女の子相手にドロップキックとか出来ないんだから。

 結局この日はクラン名は決まらずに終わった。




  ―――




 翌朝。

 宿屋『おやすみぐっすりネンネしな』にて。

「んぁ? …あれ。マールちゃん?」

 俺が目を覚ますと寝袋は綺麗に折りたたまれており、マールの姿はどこにもなかった。

 おかしいな、と思って一階に降りてみるとキッチンでナンシーさんが洗い物をしている最中だった。

 テーブルに用意してくれている朝ごはんのおにぎりも一人分無くなっていて、マールがもう宿屋にいない事を裏付けていた。

「おはよう。お兄さん。今日はマールちゃんに起こされないでも起きれたね」

「おはようございますナンシーさん。…あの、マールは?」

「マールちゃんはおにぎり持って外に行ったよ」

「外? どこ行くかって何か言ってました?」

「んー、言ってなかったと思うけど。窓から外を眺めていたら急に出て行っちまったからねぇ」

 食いしん坊のマールちゃんが朝ごはんも食べずに(持って行ってはいるが)どこかへ行くなんて! こんな事があり得るのだろうか?

 窓から外を眺めていたと言うが、今現在は特に朝市のセールがやってるようには見えない。

 という事は考えられる選択肢は!

「男ね」

「スズラン!?」

 いつの間にか隣にスズランおった。

 よく俺たちが泊ってる宿分かったね。まさかつけて来た訳じゃないだろうし。

「俺のマールちゃんが他の男にホイホイついて行くなんて考えられない」

「本当にそう言い切れるかしら? だいごのまーる愛は確かに凄いと思う。でも普通は脈が多少なりともあれば間違いの一つや二つあってもいいと思うの。同じ部屋に住んでいるなら尚更」

「そ、それは…しかし! もしかしたら飴ちゃんあげるからって言われてついて行っただけかもしれないし」

「それはないね」

「ヴィヴィ!?」

 いつの間にかヴィヴィもおった。

 部屋の天井側近くの隅に『大』の字で張り付いてた。えっとどこの警備会社の吉田さんですか? 目からセンサー出てないよね? てかいつからいたの。

「あたし朝から見てたけど、マールちゃんは自分からついて行ったよ。手を引かれても嫌な素振りはしてなかったし」

「そ、そんな…マールちゃん。俺というものがありながら…」

「ダイゴ、また何かマールちゃんを怒らせるような事したんじゃないの?」

「そんな事してない。マールの枕に間違って顔を埋めちゃったり、マールのパジャマのウェアが乾きそうだったから石につまずいて水かけちゃったりだとかはしたけど」

「いよいよガチだねダイゴも」

「でも俺のマールちゃんはそんな事で怒ったりしない」

 と、思う。と心の中で付け足す。

「昨日の夜、マールちゃんがトイレに行った隙に寝袋に頭から突っ込んだのがまずかったんじゃないの?」

「おい。何でお前がそれを知っている」

「ひっ」

 もしかしてヴィヴィちゃん俺たちの部屋も警備してるの? 全然気づかなかったけどプロの警備員なのかな? パンサーは木登りが得意だからね。血が騒いだのかな?

「大丈夫よ、だいご。もしまーるに捨てられてもきっと嫁は出来るわ。白い髪の年下の女の子とか」

「マールちゃんに捨てられる…!」

 俺の頭の中でその言葉が永遠エコーを繰り返した。






「ただいま戻りました~! 大吾さん? いつまで寝てるんですか! いい加減起きてくださ…えっ」

「うっ、うっ、うっ、うっ…」

「だ、大吾さん? どうしたんですか? お腹すいたんですか? おにぎり持ってきます? 今日はおかかとたくあんのおにぎりですよ?」

「マ‶ール‶ち‶ゃ‶ん‶…」

 俺はあの後すぐに部屋へ戻ってベッドの上でわんわん泣き続けた。

 枕はびちゃびちゃ、シーツも敷布団もびちゃびちゃになっていた。

 マールの声にシーツの隙間から顔を覗かせるとそこには俺のちっぱい天使であるマールがハテ顔をして立っていた。

 そのいつもと変わらない仕草に俺はまた感情を爆発させた。

「マ‶ール‶ち‶ゃ‶ん‶! 俺‶が‶悪‶か‶っ‶た‶! 謝‶る‶! 謝‶る‶か‶ら‶俺‶を‶捨‶て‶な‶い‶で‶!」

 ぶぇぇぇぇぇぇと大泣きしてマールに抱き着く俺。顔はマールのちっぱいへ。反省してても咄嗟にそこへ行ってしまうのは許して。低反発が最高でした。

 マールもいきなりの俺の豹変ぶりにオロオロしていたが、芝居じゃなくてガチ泣きしてるのを感じてくれたのか頭をなでなでしてくれた。心の傷が一瞬で全快した。

「悪かったって、大吾さんはわたしに何か悪い事したんですか? いつもわたし達の為に一生懸命で感謝してますよ。だから安心して下さい」

「ホントに…? ホントに怒ってないの…?」

「はい。小さいお胸の事で熱くなる時はうわぁ…って思いますけど、その他は皆に優しくて尊敬します」

「ありがとう、ありがとうマールちゃん…!」

 マールの声となでなでには癒しの効果があるんじゃないのかと思うほど、不安がどんどんと消えて行った。

 マールはやっぱり尊い存在だった。





「…え? 信者の兄妹にご飯あげて来た?」

 俺が泣き止むとマールは今までどこに何をしに行ってたのかを教えてくれた。

 何でも朝ごはんを食べようと一階へ降りて、何となく窓の外を見たら俺たちが異世界転移初日に会った子供を見かけて声をかけに行ったんだとか。

 その後に妹の待つ廃教会へ二人で行って兄妹におにぎりをあげたそうだ。てか俺たちが初日に会った子は男の子だったのね。

「ここからそんなに離れていない廃教会なので、明日から毎朝おにぎりをあげに行こうと思います。なのでちょっと起こすの遅れちゃうかもしれません」

「でもそれじゃマールの朝飯が」

「いいんですよ。わたしはもう自分で稼げます。でもあの子たちはまだまだ小さくて自分でお金を稼ぐことも出来ずに余りもので生きるのがやっとなんです。信者の子でなくてもそんな子たちを見捨てるわけにはいきません」

 正に女神マール様であった。

 あの子たちにとっても、俺にとっても。

「じゃあ俺も一緒に行くよ。おにぎり4個持って行こう」

「えっ。でもそれでは大吾さんの分も」

「今は家賃も余裕があるし、朝飯代くらいなら使っても大丈夫だ。マールの信者は俺にとっても大切だから」

「大吾さん…! ありがとうございます」

 ペコリ頭を下げるマールちゃん。

 疑ってたわけじゃないけど、マールはマールで俺は嬉しいです。

 ちなみにヴィヴィもスズランも朝にマールと会っていて俺をからかっただけらしいが、俺がマジ泣きしてしまったのでどうしたらいいか分からなくなってしまったようだ。

 二人はその後申し訳なさそうに謝って来た。

 俺はマールがいればそれで全然よかったので許してあげた。

 その時にヴィヴィとスズランに抱き着かれた感触はミカン&ミカンだった。俺はリンゴもミカンも大好き。



今年の正月はちぱ正月、か。

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